天才役者
皆は私のことを天才と呼ぶけれど
私の努力はその一言で否定された
「天才」と呼ばれていたクラスメートが
ある日ふとそう呟いた
その時クラスの中に私と彼女以外誰もいなくて
独り言のような、訴えるような言葉は
広い教室の中に溶け込んだ
彼女の表情は見えなかった
自分の表情は知らなかった
ただただ、悲しかった
皆は、演じた者の演じた姿を見る
そしてそれを、その者の存在とする
観客は役者の役を見る
観客は役者の見せる役者を見る
観客は役者が見えない
役者は役者を見せない
「天才」と呼ばれたクラスメートは
何も言わない
「天才」と呼ばれたクラスメートは
今日も「天才」としてそこにいる