【連続小説】初恋の痛みが消えないまま俺はまた恋をする第1話-春、始業式〜貴志①
俺はもう恋なんてしない。
夏が終わり秋が深まる頃、中学1年生の時、そう決めた。
中学3年生になる始業式の朝。
新しい日常の始まる朝。
この上なく気分の悪い朝。
北村貴志(きたむら たかし)は学校に続く坂道を歩き、ゆっくり下っていた。気分はまったく乗らない。
新しいクラスへの不安はない。友達なんて作るつもりはなかった。だから不安もプレッシャーも生まれるはずはなかった。
鼻先まで伸びた前髪は切れ長で涼やかな目元を隠し、その表情は読み取れない。肩甲骨の間にまで伸びた後ろ髪は首元で束ねて左から胸元に垂れている。右脳が司る感情は左の表情に現れる…顔の左半分を見えなくするために髪型を変えた。
それは強い意志を持って心を閉ざす意思表示だった。
彼は坂道をゆっくりと歩いている。彼が通う私立如月中学校には指定カバンはあるが、実は通学に必須とはされていない。代わりに大きなリュックを背負いゆっくり歩く。その姿はまるでリュックによって周りとの距離を隔てようとしているように見えた。
その横を和服を模してデザインされた制服の女子が、新学期の喜びを友達と話しながら通り過ぎていく。対して彼は一人。
ゆっくりと重い足取りで歩いていく。不意に…
「きゃあ!ごめんなさ〜い!危ない危ない!きゃあ!」
奇声が聞こえた。ちらりと目だけ声の方に向けると、自転車がすごい勢いで迫ってくるのが見えた。次の瞬間、衝撃が背中に突き刺さる。
弾き飛ばされた貴志は咄嗟に受け身を取ろうとしたものの、リュックが重くてそのままうつ伏せになって地面に倒れ込んだ。
打身で膝が痛むものの、意識は保っている。それでも衝撃が強すぎて、動き出すのには少しばかり時間を要した。とりあえず首だけ捻って後ろを確認する。
同じ学校の制服姿をしたショートヘアーの女子がそこにいた。見るからにパニックであわあわと口に手を当てて、言葉もない様子だった。
「ごめんなさい…」絞り出すようなか細い声。その声の主を貴志はじっと睨みつけた。
【連続小説】初恋の痛みが消えないまま俺はまた恋をする|御堂彰 #note
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