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特別講義#4「多層IT革命ミステリー:技術、企業、資本、投資の謎を追え!」
ワトソン:「博士、前回はウォズニアックが語った日常への静かな技術浸透、ロメッティによる産業構造の再定義、グリフィンが進める資本市場インフラの再構築と、階層を上るようにテクノロジーが社会の根底を変えつつある話を聞きました。正直、僕は技術には疎いですが、それぞれが別々の領域で裏から支え、結果的に社会を豊かにしていることが、なんとなくわかってきた気がします。今回は、マーク・アンドリーセン・ホロウィッツが“インターネット以来最も重要な発明”と評するブロックチェーン技術と、その投資戦略についてですよね?
多層的過ぎて混乱してきました。まるでミステリーを解いていくような感覚になってしまって……」
シャーロック博士:「そうだ、ワトソン君。これは正にミステリー小説が書けるくらいの壮大な話しなのだ。産業革命とは根底からくつがえす何かのきっかけが必ず存在する。必ずしも分かりやすく表面化するものではなく、地殻変動のように見えないところでじわじわと浸透し、ある時を境に一気に吹き出すものなのだ。
さて、これから話すアンドリーセンは、90年代にウェブブラウザ『Mosaic』や『Netscape』を生み出し、インターネット黎明期を担ったキーパーソンの一人だ。その後、彼はベンチャーキャピタルであるアンドリーセン・ホロウィッツ(a16z)を設立し、テックスタートアップへの積極的な投資を行い続けている。
ワトソン:「インターネットが世界をこれだけ変えたわけですから、そのレベルの重要性を持つ発明と聞くと、相当なインパクトがあるんでしょうね。でも、ブロックチェーンというと、僕が思いつくのは暗号資産(仮想通貨)の話くらいです。あれも一時期大騒ぎになりましたが、これってそんなに根本的な変化をもたらす技術なんでしょうか。」
シャーロック博士:「ブロックチェーンは、単なる仮想通貨の裏技術に留まらない。その核心は、“信頼”を分散的かつプログラム可能な形で提供できる点にある。これまでは、取引や契約を保証するために、銀行や取引所、各種仲介業者、あるいは公的機関などの“中央的な信頼源”を必要としていた。しかしブロックチェーンでは、暗号学的手法により、改ざんが極めて難しい分散型台帳を実現できる。要するに、仲介者を介さずともネットワーク全体で合意を形成でき、各参加者が同一の真実(トランザクション履歴)を共有できるわけだ。」
ワトソン:「それは確かに革新的な仕組みですね。でも、なぜアンドリーセン・ホロウィッツがそこまで注目して投資するのでしょう? ただ技術が面白いから、というだけじゃなく、ビジネスとしての展望があるからですよね。」
シャーロック博士:「そうだ。a16zは、ブロックチェーンを“新たなプラットフォーム”とみなしている。インターネットが情報流通の民主化をもたらしたように、ブロックチェーンは価値取引や契約執行の民主化、さらには新しい組織形態(分散型自律組織、DAO)や新たな金融サービス(分散型金融、DeFi)を可能にする。つまり、経済・金融・法的な関係性をプログラム可能な形に再構築する土台として、ブロックチェーンは機能する。その上に乗るサービスやアプリケーションは、インターネット草創期のウェブサービスと同様、今はまだ小さいが、将来的には巨大な市場を形成するかもしれない。」
ワトソン:「なるほど。かつてインターネット上で新興企業が次々と誕生し、“ドットコムブーム”と呼ばれる大きなムーブメントを起こしましたよね。現在でも、世界的企業はその時代のスタートアップから育ったものが多い。ブロックチェーン上でも似たような“エコシステムの膨張”が起きる可能性があるというわけですね。」
シャーロック博士:「その通り。アンドリーセン・ホロウィッツは、まさにその“次なるゴールドラッシュ”を見越している。インターネットが生まれたとき、誰もが確信していたわけではないが、一部の投資家は“これが世界を変える”と信じ、早期に参入した。今、ブロックチェーンは同様の段階にあるかもしれない。新たなプロトコル、プラットフォーム、アプリが次々と出現し、これらが成熟すれば、インターネット経済をさらに進化させる新たなデジタル経済圏が誕生する可能性がある。」
ワトソン:「でも博士、ブロックチェーンはまだインターネットほど広く普及していないし、一般人には何が起きているのかよくわからない領域ですよね。仮想通貨バブルやNFTのブームとその反動など、まだ不安定な印象があります。そういう中でもa16zは積極的なんでしょうか?」
シャーロック博士:「投資とは、常に不確実性と隣り合わせだ。アンドリーセン・ホロウィッツは、テクノロジーを支えるファンダメンタルズ(基盤)に可能性を見ている。インターネット初期にも、ドットコムバブルの崩壊といった混乱はあったが、それでも土壌としてのインターネットは残り、その上で新たなビジネスモデルが花開いた。同様に、ブロックチェーンの揺籃期には多くの試行錯誤、失敗や詐欺まがいの動きもあるだろう。しかし、しっかりとした技術基盤と有用なユースケースが洗練されていくにつれ、これらを活用した本質的なサービスが定着していくとa16zは見込んでいる。」
ワトソン:「ああ、つまりトライアンドエラーの段階なんですね。ドットコムバブルの教訓もあり、“基礎は揺るがない”と信じる技術に注目し、早めに根を張ることで、その上に咲く花を長期的に狙っているわけだ。確かに、それはゴールドラッシュを先読みする投資家の心理にも似ていますね。」
シャーロック博士:「a16zは単なる資金提供者ではなく、スタートアップを育てるためのネットワーク、ノウハウ、そして市場への橋渡しも行う。ブロックチェーン領域でのスタートアップは、まだ法規制や市場慣行、ユーザーの理解など、乗り越えるべき課題が多い。しかし、VCはこうした初期段階の企業を支え、新興技術が社会に定着するまでの道筋を築くことができる。ロメッティが言うように、社会的評価や資本の継続的な供給がなければ、たとえ技術的成功があっても業績に直結しないことを我々は学んだ。a16zは逆に、資本を注ぎ込み、エコシステムを形成することで、ブロックチェーン技術を長期的なビジネス成功へとつなげようとしているわけだ。」
ワトソン:「なるほど、ウォズニアックが描いた生活の背景には、こうした産業基盤や資本市場の整流化があり、さらにその次には新しいエコシステムの創出を支えるVCがいる。ブロックチェーンはまだわからない部分が多いけれど、そういう不透明な段階でこそ投資家は動くんですね。何か、大きな歴史の流れを俯瞰している感じがします。」
シャーロック博士:「まさに歴史的な文脈の中で考えるべきだろう。インターネットが登場したとき、その本質を理解し、長期的な価値に賭けた投資家や企業は、のちに巨大なリターンを得た。同じことが今、ブロックチェーンについて起きるかもしれない。もちろん、確実なことなど何もないが、a16zが“インターネット以来最も重要な発明”と呼ぶのは、インターネットが情報アクセスを民主化したように、ブロックチェーンが“信頼”や“価値交換”そのものを民主化し、経済や社会組織のあり方を根本から変える可能性を秘めているからなんだ。」
ワトソン:「経済や社会組織のあり方まで、ですか……確かに、取引や契約が人手を介さずに公正に履行され、価値がグローバルかつシームレスに動くなら、これは大きな転換点になりそうです。まだ僕には漠然としていますが、インターネット登場前にウェブサービスを説明されても分からなかった人が、後になってその偉大さを実感したようなものかもしれませんね。」
シャーロック博士:「ワトソン君、その通りだ。誰もが初めから全貌を理解できるわけではない。重要なのは、こうした新興技術やプラットフォームが持つ可能性を理解し、試行錯誤し、育てていく主体が存在することだ。a16zは、インターネット革命で培った知見を活かし、ブロックチェーンがもたらす新たな経済圏の基礎づくりに励んでいる。そして、その環境が整った暁には、ウォズニアックが言うような自然な技術浸透が、再び日常を塗り替えるかもしれない。」
ワトソン:「そう考えると、ウォズ、ロメッティ、グリフィン、アンドリーセン……みんなが違う層でIT革命を推進し、それが重なり合って巨大な流れをつくっているように思えます。僕は技術はよくわかりませんが、こうして俯瞰すると、次なるIT革命は単なるデバイスの進化じゃなくて、経済や社会、信頼の仕組みそのものを再構成する深い動きなんですね。」
シャーロック博士:「まさにそのとおり。次回は、さらに別の視点からこの革命を眺めてみようと思う。a16zがブロックチェーンに投資し、新しい経済インフラを育てようとする背景には、資本市場や取引所そのものが進化する可能性がある。そこで次回取り上げる人物は、かつてNASDAQの最高責任者(CEO)であったボブ・グレイフェルド(Bob Greifeld)だ。」
ワトソン:「NASDAQ……アメリカの株式市場の象徴的存在ですよね。そんな取引所レベルでの進化も、次のIT革命と関係してくるんでしょうか。」
シャーロック博士:「グレイフェルド氏は2015年頃、ブロックチェーン技術について『今後10年ほどで考えられる最大のチャンス』だと述べたと伝えられている。それは単なる金融商品取引の効率化ではなく、資本市場自体の再定義を示唆する発言だ。ロメッティやグリフィンが挑んだ変革よりもさらに上位の、あるいは横断的なレベルで、ブロックチェーンが世界中の投資・取引をどう変えるのか。それを次回、一緒に考えてみよう。」
ワトソン:「今度は取引所とブロックチェーンですか。インターネット以来の発明が、金融市場や資本流通の根本的な変革をもたらす可能性がある、ということですね。益々混乱しそうです…博士、でもぜひ教えてください。ちょっと難しいですが、話を聞いていると世界が大きく動いているのがわかります。」
シャーロック博士:「もちろんだ、ワトソン君。次回は、NASDAQ元CEOのボブ・グレイフェルド氏が示したビジョン、そしてブロックチェーンがもたらす市場や証券取引のパラダイム転換を中心に議論してみよう。」
アンドリーセン・ホロウィッツ(Andreessen Horowitz、通称a16z)
アンドリーセン・ホロウィッツ(a16z)は、2009年にマーク・アンドリーセンとベン・ホロウィッツによって設立されたアメリカのベンチャーキャピタル企業。シリコンバレーを拠点とし、テクノロジーを中心とした多くの革新的スタートアップに早期投資を行うことで知られる。
これまでに、Facebook、Slack、Airbnb、GitHubなど、数々の有名企業への投資実績を持ち、「世界最強のベンチャーキャピタル」の一つと称される。
特に、ブロックチェーン技術やWeb3関連のプロジェクトに注力しており、次世代インターネットの基盤となるエコシステムの構築に積極的に関与している。
参考リンク
Andreessen Horowitz公式サイト
https://a16z.com/
Crunchbase(投資実績の一覧)
https://www.crunchbase.com/organization/andreessen-horowitz
Wikipedia(アンドリーセン・ホロウィッツ)
https://en.wikipedia.org/wiki/Andreessen_Horowitz