平積みの主張
数年前、近くの書店に寄ったときのこと。
いつものルートで店内の本たちを物色していると、とある異変に気づいた。
いつもと違う、と感じたのは文庫コーナー。
文庫の平積みに違和感がある。
文庫に限らず、書店の平積みの場所というのは、ベストセラーやロングセラー、新刊ほやほやの時期を過ぎた比較的新しめの本が積まれていることが多い。
この書店も、それらの本が並べられ、買われる時を待っていた。
その中に、昭和の作家の渋い文庫本が、てんてんと置かれているのだ。
まるで、トラップのように。
「なんだ、この棚は!」
私は、(勝手に)ざわついた。
こんな棚、この書店で、見たことない。
文庫本担当者の遊び心と、客への挑戦を(勝手に)感じた。
でも、私は、ざわついただけで、書店からの挑戦を受けなかった。
要するに、昭和の作家の文庫本は買わなかった。
これは、けっこう後悔している。
なぜなら、1ヶ月後に、再度この書店を訪れたら、文庫棚はいつものいわゆる「売れ線」本棚に変わっていたのだ。
一冊だけでも、買っていけばよかった。
そうしたら、担当者の方は、すこしでも喜びを感じただろうに。
レジの方に言えばよかった。
「文庫棚、面白いですね!」って。
やっぱり、渋いラインナップなので、売れなかったのかな。
チェーン店なので、上司のひとに怒られたのかな。
よく通っていたこの書店も閉店した。
永遠の謎と、私の後悔がまた増えた。