1.無理を通せば新しい道理が生まれる
1-1.小売業は朝令暮改的な経営であらねばならない。
朝決めたことでも、夕方になり、状況が変われば変えるのが当たり前だ。--イトーヨーカ堂社長 鈴木敏文
かつて、経営者や管理者は「一度決めたことは、最後までやり通す」「いったん下した命令をすぐに変更するなどもってのほか」というのが常識であった。指示や命令が朝令暮改でコロコロ変えられては、部下は右往左往し、上司への不信感もつのる。
朝令暮改という言葉は、ポリシーのないワンマン経営者の典型として悪いイメージで語られるものであった。
しかし、ここ数年、急激な変革の嵐が吹き荒れる中で、朝令暮改をよしとする考え方が少しずつ一般にも受け入れられるようになった。
特に、店頭に置いたPOS端末が売り上げデータを瞬時に集計・分析する時代になった今では、逆にこの考え方でなければ、生き残ることは難しいとさえ考えられている。マイナスイメージで使われるのが常識であったこの言葉が、流通分野の改革が進んだことにより、新たな意味を持ち始めたのである。
この言葉を現代の経営常識にしたことについては、鈴木が会長を務めるセブンイレブンの貢献が大きい。その躍進をリードした同社会長の鈴木敏文の言葉だけになかなか説得力がある。しかし、鈴木はPOSデータに全面的に依存するわけにはいかないという。
「データよりも、消費者の本質を見抜く目が大切」
と言うのである。
本質をはずれた朝令暮改が問題外なのは言うまでもない。とはいえ、朝令暮改するほうはいいだろうが、される部下のほうは楽ではないという意見も出そうだ。しかし、これは部下にとっても自分の行動について同じことが言えるわけで、いったん決めたことだからと後生大事にそれを守っているだけでは、変化の激しい時代に生き残るのは難しい。
もっとも、こうした意味の言葉を使い始めたのは鈴木敏文が初めてではない。今を去ること40年も前から、常にこれを心がけてきた男がいる。ダイエー会長の中内である。