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3-4. 多様化の時代だからこそ、商品は絞り込んでお客様に提供しなければならない

  イトーヨーカ堂社長 鈴木敏文

 「信用を勝ち得るのが重要」というが、信用とひとことで言ってもいろいろな信用がある。この商品はいい、という扱う商品に対する信用のほかにも、あのお店に置かれている商品はいい商品だ、あそこに行けばほしい商品があるというのも、一つの信用だ。とはいっても、万人が欲しいという商品を用意しておくというのは、限られた店舗を前提にするとなかなか難しい。そうなると多くの人が求める商品を置いておくという、当たり前の店舗経営が行われることになる。これでは、どこのお店も同じ商品構成になり、差は店舗の規模でしかなくなってします。

店舗の魅力は、お店によって異なる商品が置かれている所にある。とすれば、小売店にとって理想は、できるだけ多くのお客様が求める商品があり、それが全部売り切れることにある。いいかえれば、仕入れた商品を1つも残さずに完売することだ。仕入数量イコール販売数量で、一つのロスも値引きもないということが実現すれば、販売効率は100パーセントでロスが生まれない。 

 ところが、現実には多様な消費者がいる。だから商品を絞り込みすぎると、ほしい商品が店頭にないということが起こる。これは売るほうにとっては機会損失だ。逆に、それを避けようと多くの商品を並べれば、規模が必要になり、売れ残りが多くなる。

市場にある商品はきわめて多様である。こうした状態は、消費者にとっては選択の幅が広がり、いい環境になったと考えがちだが、「それは消費者にとっても」必ずしもいいわけではない、と言うのが鈴木敏文である。

「多様な商品があるからこそ、店頭に並べる商品は絞り込まなければならない。お客様を迷わせるのはよくない。買いやすい店、選びやすい店にすることが大切だ」

 と言うのである。信用という言葉に、「買いやすい店」「選びやすい店」というのがあるというのである。
 確かに、消費者の選択とはいっても、差がない商品や特徴がない商品ばかり増えるようでは消費者のメリットにならない。たとえば、

セブンイレブンだけで弁当を販売している時には、客は迷わずセブンイレブンの弁当を買う。しかし、周辺の店でも弁当が買えるようになった時、セブンイレブンが弁当の種類を増やして周辺の店に合わせるのは意味がない。
 他の店よりもおいしい弁当を用意することでしか、客を引きつけられないからである。

だから、商品を絞り込むことでロスを減らしてコストを下げ、質を向上させることが大切になる。

と鈴木は言う。一人ひとりの消費者から見れば、選択の基準は、種類の多さは意味がない、欲しいものがあること、これを買えばいいと思う商品があることが店舗の信用だというわけである。

 セブンイレブンでは「朝仕入れたものが欠品もなく閉店時にすべて売り切れて売場が空っぽの状態が理想」という。欠品がない、ということが重要なのだ。

 そういう意味で、きめ細かい単品管理によって売れ筋商品と死に筋商品を見きわめ、絞り込んでいく。そこに鈴木の言う品質重視があることを見逃してはならない。

 同じことは、イトーヨーカ堂グループで、東北など4県に食品スーパー60数店を展開していたヨークベニマルの社長・大高善二郎も主張している。大高も品揃えの鍵は品質にあるとして、寿司屋のネタを例に次のように説明している。

「あらゆるネタがあるが新鮮ではない寿司屋と、ネタはマグロとイカしかないが鮮度のいい寿司屋と、どっちを選ばれるかと言えば、当然後者である。
商品は絞り込まなければならない」

(ヨークベニマル・大高善二郎)

 売場にあらゆる商品を並べたら機会損失がなくなるかと言えば、そうではない。売場面積が有限である限り、並べられる商品数には限度がある。そんなところに多くの商品を並べても、売れ残りが増えるだけだ。

「それは、売れ残った商品が棚をふさいでいて、売れるはずの商品が棚にないということもまた、販売の機会損失」だからである。

(大高善次郎)

 寿司屋のネタの例で言えば、古いネタが残っている店には客はこない、ということだ。だから、お客様が求める新鮮なネタさえあれば、それ以外はいらない、という絞り込みをするのである。そうしていけば、自然と在庫回転率も向上する。

 在庫回転率を向上させることは、機会損失を最小に押さえることにも通じるのである。



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