白線と青 3
私、青藍高校に通うひとりの女子高校生。
夏、暑くて嫌ーい。
もうじき体育祭が始まる。
それに向けて体育の授業が多くなったような気がする。
それにしても暑い。
今年の夏はもう始まっているというのか…。
低血圧の私にとっては苦行以外のなにものでもない、朝の体育。
…
よーし、今からアップしてくぞー!
威勢だけはいい色黒の男が、――富雄先生が叫ぶ。ちなみに下の名前は知らないが。
アップと言いつつもこの広い校庭を5周もするのだから、これがメインだろとか思いつつ、浮かれない足で体を前に運ぶ。
「……」
何やってんだろ私…。
本当に馬鹿みたいに悩んでしまう最近。
何もしていない時が一番考えちゃうのだから結局何も考えない時がない。
こんなときでさえ。
私は誰かを追い越した。私が誰かを3周目くらいで抜かすのは限られた少数の遅い人だけだ。
横目で追い越しながら、すぐわかった。
冴房琴理だ。
いつもピンクを纏う頬がやけに青白い。
虚ろな表情に見える。
心配になって慌てて「大丈夫、ことりさん」と言っていた。
琴理は一瞬驚いた顔をして無理に笑顔を作った。
私は驚いた。初めて見たからだ、その女の子の笑顔を。
「大丈夫よ。私にかまわないで、お先にどうぞ」
それから呼吸を荒くして、立ち止まって、一人歩いていた。
そのあと私は体育館でバレーボールをしたが、彼女の姿はなかった。
……
体育終わりの二限目は眠い。
雨が降り出していた。
キュッキュッと体育館シューズと湿った床の摩擦音が脳裏に響いた。
二限も終わりを迎えようとする、その五分前に、ガラガラ…と重い戸が開いた。
寝ていた前の男子が少し顔を上げて扉を見てまた顔を伏せた。
教師は何も言わなかった。
静かに着席したのは、冴房琴理だった。
ことりさん!
響きが可愛いと思いつつ、さっきの貧血気味の様子を思い出して、保健室にいたのだろうと案じられた。
休み時間になって、先程の体育教師がドカドカと泥だらけの靴で教室に乗り込んできた。
「えーーと!明日はー、体力計測するから、鍛えとけよー男子ー!あ、冴房も頑張れなぁ!」
男子たちがどっと笑った。
ことりさんはハッとした顔をしてすぐに顔を固くした。
「体育は社会そのものだ!素直さ従順さまじめさ!これは人間力の基本だ!変なプライド持つな!みんなもな!」
爆弾発言だけ残して帰って行った。
みんなの視線がことりさんに一極集中したのも束の間、またガヤガヤと教室は熱運動で言うなら気体の状態に戻って行った。
そんな中ひとりことりさんは固体のまま、口を固く結んでどこかへ行ってしまった。