坂口安吾「風と光と二十の私と」講談社文芸文庫
俺の好きな作家のひとり、安吾のエッセー。非情極まる家庭環境、奔放な性生活など、彼らしい筆致で赤裸々に描かれている。
解説にはこんな下りがあった。
「安吾の魂の自伝である(中略)石の沈黙、水の流動、風の勢い・・こういった無機質な運動のイメージが安吾の文学世界の底流に常に孕まれている・・石、水、風、といった組成成分であり、それに光を加えることによって安吾文学の世界の原形質が光合成されることになるのだ」
俺は文学の研究者ではないからこんな文章はとても思いつかないが、確かに安吾文学には石、水、風を感じる。あえてプラスするとすれば、炎かな?
とにかく彼の話には「ビビッと」くるものがある。
<引用とコメント>
「私は生き残るという好奇心に於いては彼等以上であった。たいがい生き残る自信があった。(中略)東京が敵軍に包囲され地獄の騒ぎをやらかした果てに白旗が上がった時、モグラみたいにひょっこり顔を出してやろうと考えていた。」
・まさに安吾節! 「生き抜いてやる!堕ちるところまで落ちても生き抜いてやる!」この厚かましさ、図々しさ、好きやなあ~!
「私は隠元が好きなのです。(中略)人の交わりは飲食によって深められるという見解から日々の行事のうちで特に食事に重きをおいたという彼にも好意をもてますし、日本渡来の事業として布教よりも第一に万福寺の建築に心血を注いだという彼も好きです。最高の内容主義はやがて最高の形式主義に至らざるを得ないからです」
・人間安吾らしい観察眼が光っている。
「単なるエゴイズムと言うものは、肉慾の最後の場でも、低級浅薄なものである。自分の陶酔や満足だけを求めるというエゴイズムが、肉慾の場に於いても、その真実の価値として高い物ではあり得ない(中略)真実の価値あるものを生むためには、必ず自己犠牲が必要なのだ。人のために捧げられた奉仕の魂が必要なのだ」
・本人の生き方をみるとかなり矛盾しているが、こういった正論を持っていたこともまた事実!知れば知るほど面白い^^!
「私は私の驚くべき冷たさに、時々気づく。私はあらゆるものを突き放しているときがある」
・「時々」どころかなかり突き放していたと思う。このアウトサイダー的な雰囲気がたまらなく好きだ。
「本当に可愛い子どもは悪い子どもの中にいる。子どもはみんな可愛いものだが、本当に美しい魂は子どもがもっているので、あたたかい郷愁を持っている」
・これは少年時代の安吾を前提とした話かな?って思ったけど、教育現場にいると当たっている側面もある・・。
「私は私の精神を、医師や薬品にゆだねたことが失敗であった。意志にゆだねるべきであった」
・気骨の人!と言い切れない弱さがまた安吾の魅力でもある。なんとなく負け惜しみのようないい口調が人間臭くていい。