夢十一夜


比較的波瀾万丈な経験をしてきたもので、今の平和な暮らしは転生したかのようでそんな夢の中のような気分で生きている。

それも皆、何についても過去の誰とも比較にならない今の彼の存在が大きいんだけれども、そんな彼はただでさえ忙しいのに今後の展開予測がとても会える時間などない程の大変な仕事をするかもしれないという話に
そんなの待てないかもしれない、きっとそうやってまた私はまた過去の自分に戻ってしまうんだと憂鬱になった。

彼にはその才能とチャンスを活かして成功してほしい。
けれども、私は会えない人の幸せをサポートできるほどの人間なのか?

本来ならば結婚して一緒に住めば解決するんだろうけど、彼がそれを望まないのであれば私がごねることでもない。

...と、そこで夏目漱石の「夢十夜」の中の夢一夜を思い出す。

「100年待ってください」
日が昇り、日が沈み、また日が昇り、また日が沈み....
気がつくと目の前に百合が咲いていた。
そうか、もう100年経ったんだな。

....夢十夜は「こんな夢を見た」で始まる、超短編の話。

約束を果たすためだけに時間を費やした主人公。それはなにも、何ひとつドラマチックな出来事などない純愛だと思うんだけれども

日が昇り、日が沈み、また日が昇り、また日が沈む。
繰り返していくうちに私はどんどん歳を取り、百合が咲く前に死ぬだろう。

そして死んでから神様に「生きている時はなにをしていたのか」と聞かれた時に
「約束を果たしました」と答える。

彼との約束ではない、自分との約束。

彼のおかげで転生したような夢を見ているいま、夢の中でそんな夢を見る人間が1人くらいいても良いのかもしれない。




#エッセイ

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