【小説】 俺のねこ
しっかりとした芯のある髪が無造作に散っている。
彼女は9割心臓と頭の高さが一緒。
彼女は9割、同じ場所から動かない。
そんな彼女が気まぐれに近付いてくる。
気まぐれに触って、気まぐれに去っていく。
俺になにかを与えるでもなく、要求するでもなく、ただそこに存在するだけ。
たまに、触れ合うだけ。
甘えるような動作は禁句。
彼女は瞬時に興味をなくして去っていく。
なにもしない。
彼女の方を見ない。
放っておく。
すると、いつの間にかまた、近くに来る。
気まぐれに触れてくる。
そんなとき、彼女はとても優しい目をしていることを知っている。
彼女にこちらを見てもらうには、俺が彼女を見ないこと。
彼女に触れてもらうには、俺から彼女に触れないこと。
彼女に構ってもらうには、俺から彼女に近づかないこと。
彼女のペースを乱さない。
彼女の家の、一部になる。
けれど、ただそこにあるだけでは、彼女の数あるぬいぐるみのようにその場に放っておかれてしまうから、ちょっとだけ役に立つように立ち回る。
頭の中は煩悩で、少しでも彼女の近くにいれる方法を計算し続ける。
彼女にとっての唯一になりたい。
どんなときでも、彼女が選びとるのが俺になるように。
彼女のそばは心地がいい。
気づいた時には伸びていて、体から力が抜けている。
常に回転し続ける頭と、心地よく投げ出した体。
矛盾するようで、どちらも彼女を求めている。
過去は捨てた。
未来はいらない。
欲しいのは、彼女の今。
願わくば、彼女の全てに。