【小説】うちのにゃんこ
お徳用チョコを常備している。
何が食べれなくなってもチョコだけは食べれていた学生時代の名残で、今では一袋一気食いなんてしようもんなら後から痛い目にあうけれど、昔はそれができていた。
徐にそれを開ける。
キャンディ型に袋で包まれたそれは手をいれるとカシャカシャと音をたて、一粒摘まめば一緒に風味も上がってくる。
5つ目に手をかけたところで、にゃんこが後ろから顔を覗かせた。
開いたそれを摘まみ、そのままにゃんこの唇にふにっと当てる。
「食べる?」
返事の代わりに薄く開いた口から紅いものが覗き、ちろりと嘗める。
摘まんでいた指にも少し触れて、僅かに濡れたそこがひんやりする。
熱と水分で指の腹に溶けたチョコが塗られていく。
にゃんこは小さく開けた口からまたちろちろと舌を這わせ、小さなそれを少しずつ溶かし嘗めていく。
生暖かく柔らかいそれが肌に触れるけれど、艶かしさはなくて、ただペットがおやつを嘗めている感覚。
頭の位置も肩下だから、大型犬が近くにいるのと変わらない。
反対の手でふわふわの毛並みを撫でると、少しだけ此方に頭を傾けてきた。
つまんだそれは、半分ほどの大きさまで溶けている。
滑りそうなそれを指ごと掬い上げるように優しく嘗めるにゃんこは伏し目がちで、ただそれを嘗めることだけに気が向いているようだ。
するりと指から溢れたそれは、にゃんこの舌の上に乗って、それが彼の口の中に消えたあと、ベタベタになった指の腹を掃除するように舌が這う。
細かい作業を行う部位である指先の、中でも感覚が研ぎ澄まされる指の腹に這うそれは、その温かさも滑りも這う感覚も、すべてを明確に伝えてくる。
指がきれいになったことを確認すると、にゃんこはふらりと離れていった。
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