ショートショート「研究男子」
僕は、一部の女子が、有り得ない事を言っている所を偶然聞いてしまったのだ。
僕は、″女に興味がない″男達の中の一人ということらしい。
途中、この人達は、何を言っているのかと怒りさえ覚えたが、自分の生活態度を振り返ってみると、仕方がない気がした。
僕は、″勉強する事″が好きという珍しい人種だった。
このクラスの9割が″勉強″が嫌いだと口々に言う。
点と点が繋がって線になる様に、勉強は、学べば学ぶほど面白いというのに、その醍醐味が、このクラスの人達には、分からないというのだ。
僕には、その方が分からなかった。
僕は、こっそり高校の勉強も始めている。
人より先に覚えたいというのではない。
中学の知識が更に発展されている様を知るのが面白いのだ。
クラスの担任は、その事に勘付いていて、僕を恐れていた。
まるで、″変人″を見る様な目つきだ。
とにかく、勉強のしすぎで、″恋愛″には、かなり遅れをとっている。
それは、自分でも自覚していた。
僕は、まず、″女の子″を知る事にした。
何事も″知らない″と始まらない。
(本当は、研究しないと気が済まない。)
小学生の時から、気になる″女の子″がいた。
同じクラスの″佐伯″だ。
″佐伯″は、昔から女の子にモテた。
顔が男っぽいというわけではなく、むしろ女の子らしい顔をしていた。
それでも、女の子からモテた。
「優が男だったら、絶対に付き合ったのに。」と言われるのを何度も耳にした。
その度に、僕は不思議に思った。
″佐伯″は、女の子だろうに…。
僕は、納得がいなかった。
なんだか、モヤモヤした。
僕は、佐伯を研究する事にした。
研究していくと、佐伯は、よく分からない女の子だった。
持っている文房具は、全部キャラクターもので女の子らしいのに、恐竜の本を愛読していた。
細かい事は気にしない性格で、髪の毛は、いつも右にはねていた。
給食は、人の分まで食べていた。
それなのに、ガリガリに痩せていた。
昼休みは、男子と漫才をしていた。
それなのに、放課後は、花壇の花を眺めていた。
佐伯は、黙っていたら可愛いと思った。
花壇の花を眺めている佐伯は、愛らしかった。
佐伯は、密談もしていた。
移動教室で、机の上に自分の名前を書いていた。
″You Saeki″と書かれてある机を見て不思議に思った。
″Yu Saeki″じゃないの?!とも思った。
ある時、数学の授業を受けていて、担当教師が僕達に、こう言った。
「君達は、やる気がないのか?手を挙げて問題を解こうという奴はいないのか?これだから君達は、成績が上がらないんだ。おい、そこの不良聞いているのか?」
すると、佐伯が静かに手を挙げた。
数学教師は、喜んだが、佐伯は、とんでもないことを口にした。
「先生、訂正して下さい。彼は″不良″じゃありません。彼には、名前もあります。きちんと呼んで下さい。私達にやる気がなかった事は、謝ります。でも、そこは、先生が間違ってます。」と。
数学教師は、数分間絶句した。
しかし、
「…分かった。そこは、訂正しよう。私が間違っていた。すまなかった。」
と謝罪した。
周りの女の子達は、口々に言った。
「結婚した〜い。」と。
僕は、自分が恥ずかしくなった。
おかしいと思っても、素直に行動ができなかった。
何か反抗すれば、
″内申書″に書かれる事が恐かった。
とてつもなく、恐かったのだ。
ー今日の研究結果ー
性別は、関係ない。
僕は、人間として、佐伯が好きだ。