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【白井未衣子とロボットの日常】5・酔狂の日《12》
※予告なく変更のおそれがあります。
※設定上、残酷な描写があります。
愛嬌湾内は銃撃戦の嵐だった。
ほとんどが[ラストコア]からの攻撃である。
水中でも爆発が各々で見られ、小魚達は落ちていく。
武人は爆発とニシアの攻撃の2種類を回避していた。
【スイム・ドランク】の尾には、所々に繋ぎ目があった。
武人は繋ぎ目を狙い、動きを封じようとした。
銃弾は爆発を引き起こす火薬だけではない。
エスト戦で用いた電撃の銃もあるが、【ブラッドガンナー】が持つ銃の種類は他にもあった。
現時点で使用するのは、針を銃弾代わりにした物だ。
アーチェリーとは違い、片手で乱射まで出来る。
しかし火薬物と違い、大量に生成はできないのが欠点だ。
だから武人は繋ぎ目が見える場所からしか、針の射撃は行わない。
針の射撃は右手のみ操作し、左手は爆発の撹乱を誘う小型銃で応戦した。
あちこちに爆発を引き起こし、ニシアの行手を阻む。
だが【スイム・ドランク】は変幻自在のHR。
小魚達の大量発生は、ニシアの特性にあった。
小魚達はニシアの分身そのもの。
細胞分裂の段階で切り離しの作業が行われ、分離された小さな球が小魚に形成される。
小魚達が大量発生すれば、ニシア本人の身体が小さくなる…ことはなかった。
朽ちた小魚は、彼の養分になる。
小魚達を減らしても効果は薄いのは、武人も理解していた。
しかし小魚達の群れも解消できないと、攻略が難しくなる。
そこで武人は、ニシアの盲点を探そうとしたが。
ある小魚を落とした。
ここで彼は気づいた。
小魚の腹部分を命中すると、紫の液が漏れる事を。
紫の液は海底に落ちると、海藻が萎れていった。
これを踏まえ、武人は毒液だと予想した。
武人は毒液を、【スイム・ドランク】の頭部にかけようと考えた。
尾に針を刺して動作を止めるのを、後回しにした。
【ブラッドガンナー】は移動の為、火力を上げた。
『あら突進でもするの?大胆ねぇ。』
ニシアは喋ると、【スイム・ドランク】の尾で叩きつけようとした。武人は回避した。
水中では踏み台になる物はない。
火力を上げても、地上よりもスピードは出にくい。
だから、【スイム・ドランク】頭部まで近づくのには手間取った。
一度近づけば、後は回避行動を取りつつ、小魚の腹を潰せばいい。
武人の頭の中はそれで固まっていた。
『じっと見つめたかったんやろ?お前。』
『随分積極的じゃないの?いいわ、すぐに楽にしてあげる。』
【スイム・ドランク】の尾の動作が激しくなった。
武人は回避を選択するが、最終的に蛇のように巻き付けられた。
【ブラッドガンナー】の火力では、水の抵抗を抑えるのは困難だった。
ぎこちない動きしか出来ない【ブラッドガンナー】。
武人はあえて、この方法を取った。
両手は動けるよう、脇を開けた状態で巻き付けられた。
おかげで小型銃を、わずかでも使えた。
小魚達がニシアを守るなら…。
1尾の小魚が彼の目の前を過った。
武人は小魚の腹部分を、狙い撃ちした!
紫の液が噴射された。
方向はバラバラだった。
武人の目的である、『【スイム・ドランク】の頭部…アイカメラ部分に毒液をかける』作戦は叶った。
『うっ、目が、視界が濁ってるわ!』
ニシアが叫んだ。同時に【スイム・ドランク】がジタバタと暴れた。無意識に。
その影響で、【ブラッドガンナー】は巻き付けから解放された。武人は距離を取った。
ニシアは【スイム・ドランク】の腕でアイカメラの汚れを落とそうとしていた。
小魚達が汚れを落としにやってくるが、【ブラッドガンナー】の小型銃が腹部分に穴を開けた。
毒液が【スイム・ドランク】のあちこちにかかった。
HR形態は合成金属で、簡単に錆びない。
被害が大きいのはアイカメラだった。
これもプラスチックに似た素材で染み込まないが、目の輪郭に隙間があった。
隙間に侵入すれば、毒は自然と回る…。
『ううっ、うわあああ!』
女性らしいニシアから想像つかない、男らしい悲鳴が聞こえた。
だが、容赦のない武人はここで終わらない。
右手で持った、針の射撃銃。
毒で苦しむニシアに、回避行動を取る意識は薄いだろう。
彼はうまく、【スイム・ドランク】の尾や上半身の繋ぎ目に針を刺した。
【スイム・ドランク】は海底に仰向けで倒れた。
所々に刺された針で動けない。
『毒持ってんの知ってんのに、このザマなん?』
【ブラッドガンナー】は針の射撃銃を、【スイム・ドランク】の胸元に当たる角度に定めた。
するとニシアは喚くのをやめ、逆に笑い出した。
『能力を持て余すのをやめたら?何の力もない原始地球人の味方になって、何したいのかしら、』
ニシアが言い終わる前に、武人は射撃銃の引き金をひいた。
動けなくなった【スイム・ドランク】の心臓部を狙うのは容易かった。
周りの小魚達も、海底へバタバタと落ちていった。
『…アレックス、AIの処理頼むわ。』
『わかった…どうした?』
『大丈夫や。すぐ戻るわ。子供らは?』
『時期を見て本部へ収容した。』
『そうか…。』
【ブラッドガンナー】は十字型で倒れた【スイム・ドランク】を後にした。
ニシアはもう、意識を取り戻さなかった。
(もう少し、もう少し早かったら。お前と添い遂げたかもな…綺麗だった。)
武人は周囲を確認しながら、ゆっくりと[ラストコア]本部へ戻った。
→『6・暴露の日』へ続く