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【白井未衣子とロボットの日常】5・酔狂の日《2》
※予告なく変更のおそれがあります。
※設定上、残酷な描写があります。
「ハッ!」
武人は発声と同時に目を覚ました。
目に映るのは白い天井と照明。
左右を見渡すと、病院で使う医療機器が数台あった。
あとはアレックスがタブレット端末を操作していた。
(焼け野原の遊園地…は夢やったんやな。)
武人は息を吐いて落ち着いた。
自分は眠ってたのだと。
「随分汗をかいたようだな。」
アレックスがタブレットを見ながら言った。
彼の隣には小さな台があり、その上に白いタオルハンカチがあった。
自分の汗をそれで拭いたんだな、と武人は悟った。
「検査を止めるか?数回に分けて実施してもいいんだぞ?」
アレックスはまだタブレットを見ていた。
「いや大丈夫や。俺がうとうとしていただけや。」
「そうか。また昔の夢を?」
アレックスは武人が何の夢を見たか見当がついていた。
数年間に幾度も、彼は武人のHR能力の研究をしているのだから。
「どうしても俺には、あの忌まわしい事故が脳裏につきまとうんや。」
武人は額に手を当てた。
額は熱くないが、汗は残っていた。
「移転前の遊園地の事故か…。」
「あれは沢山の人を巻き込みすぎたんや。もう無駄に傷付けるのは止めようって、誓ったんやけど。」
「あれはお前が原因ではないだろう?」
「アイツの元部下である以上は、俺が原因や。」
アレックスはタブレットを台に置いた。
研究室の隅のキッチン台に、アレックスは向かった。
冷蔵庫の中から、お茶のボトルを取り出した。
コップに注いでいると、武人がまた口を開いた。
「遊園地だけやない。昨今の襲撃事件もや。今は技術発展のおかげで被害は抑えてる。せやけど…。」
「大地の破壊は、どうしようもないのが現状だ。」
アレックスがお茶の入ったコップを持ってきた。
武人はゆっくりと起き上がった。
アレックスからコップを受け取り、一口飲んだ。
「…再び、宇宙に上がれるとええな…。いや、上がらんとあかん。受け身の姿勢では、いつか滅ぶでこの星は。」
「司令も連合等には申請を出してはいるが…。」
「宇宙へ上がるまでに、【パスティーユ】シリーズ等、戦力を補強せんとあかん。ジェームズは今も軍の基地や刑務所とかに足を運んどる。」
武人は一気にお茶を飲み干した。
「ジェームズ氏だが、現況報告ついでに土産話を持ってきたそうだが。」
「土産?ああ、宗太郎から聞いたんやったわ。」
「なんだ。知っていたのか。」
「土産より労い事やけどなあ…。お前、お酒あかんやろ?」
『お酒』のキーワードでアレックスは何かを察した。
「…宴会場の予約でも取れたんだろ。」
「やっぱ察しがええなぁ。どうや?せめてちょっとのぞいてみるのも…」
「興味がない、と何度も言ってるだろ。」
アレックスは即答で返した。
「お前の事やから、要領よく人使っとるやろうけど…たまには気分転換もせなあかんで。」
「安心しろ。俺なりに気分転換している。外で騒ぐより、内でのんびりする方が楽なんだ。」
「そうやったな。じゃあ次のミーティングで欠席する言うわな?」
「そうしてくれ。」
武人はアレックスにコップを返した。
検査の続きを再開するため、仰向けの姿勢に戻した。
「続けてもいいんだな?」
アレックスは必要のない確認を行った。
武人の答えはもちろん、
「ええよ。お前が納得するまで、十分にデータを採集してくれてもかめへん。」
肯定の意思表示だった。