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【白井未衣子とロボットの日常】1・正夢の日 《11》

※予告なく変更のおそれがあります。
※設定上、残酷な描写があります。


愛嬌湾。愛嬌市西部に広がる大きな青い海とも呼べるもの。その湾上で漂うロボットがいた。
未衣子達を公園で襲うつもりだった、敵のロボだった。
彼は武人の約束を守り、ここまでやってきた。
同時に、30分経っても来ない場合は、襲撃をしてもいいとも言われた。
時間の概念は、短く感じる時もあれば、長く感じる時もある。
今の敵のロボは、「30分」が長く感じた。
いや、そもそもこのロボは地球の時間の概念がわかるのか?
このロボと武人に倒された残りの5体は、宇宙から降りてきた。
おそらく、時間も気候も環境も、地球とは異なるだろう。
『本当に来るのか?あの男は。』
湾上についてから、ずっと宙に浮いていた敵のロボ。
何も起こらないので、暇で退屈していた。
…約束を忘れたのか?
そう思った彼は武器を手にした。アニメでよく見るライフル銃だ。
『ま、いっか。そろそろ攻撃しかけても…うおっ!?』

敵のロボが、機体のバランスを崩した。
鋭く光る何かが、飛んできたからだ。
それは刀か剣の部類だと、彼は把握していた。
刀か剣のような武器は一定の距離で方向を変え、戻ってきた。
刺しにかかったと思えば、標的の彼から外れて…何者かが棹をキャッチした。
刀剣の動きが止まった所で、敵のロボはすぐに周りを見た。愛嬌市内方面の上空に、2体のロボットが。
『2体…?』
(1体は奴だろう。黒い方はそうだ。だが、もう片方の白い方は何なんだ…?)
敵のロボは困惑した。
だって白いロボットとは、彼は初めて出会ったのだから。
『悪いんやけど。』
黒いロボである武人の声。
『お前には俺やなくて、この子らと戦ってくれへん?』
この子“ら”…?
敵のロボの目の前には、2体のロボしかいない。
武人が紹介したのは1体。
“ら“が付くのはおかしい…と疑問に抱いたが、考える余地はなかった。

謎の白いロボ、いわゆる「この子ら」が突進してきたからだ。
先程投げられた鋭い刃物は、細長い刀である事がわかった。
何回も、刀の先で刺しにかかってきたのだ。
敵のロボは声を漏らしながらも、うまくかわしていった。
距離を取るよう、後ろへ引き下がった。
『ふーん。基礎は難なくいけるようやな。』
『基礎とは何だ基礎とは!』
武人の発言を挑発と捉えた敵のロボ。
今度は彼から謎のロボに仕掛けようとした。
しかし。謎のロボの全身が光った。
目を腕で覆ってしまう敵のロボ。その光が強烈に眩しかったのだ。
光はすぐに消えた。敵のロボは腕をどけた。
謎のロボは白いまま。
だが所々、最初の時と違っていた。
水色のラインは薄ピンクに変わり、腰の周りにはスカートみたいなじゃばらのカバーがついていた。
最初の時の謎のロボは、人間に例えると細身の男性。
こちらは女性を彷彿させた。

謎のロボの右手には、白い杖なのかロッドなのか。
どうやら背丈と同じくらいの棒を持っていた。
先端部分には丸い物体があり、中にはピンクの花が凝縮されていた。
紙細工をした事あるならば、あれはくす玉の一種だと思う人もいるかもしれない。
そんな形をした球が入っていた。
『女型…?【HR(ヒューマニティー・ロボティクスの略)】でも珍しいというのに…!』
敵のロボは呟いた。
謎のロボはロッドを持ち上げた。
機体の周りに数個の光の球が引き寄せられた。
今度はロッドを前に一振り。
光の球は全部、敵のロボに向かっていった。
もちろん敵のロボは難なく回避した。
刀裁きに比べればスピードは緩やかだからだ。
ところが、この球には特殊な力を秘めていた。
球が分裂し、倍に、倍に増えていく。
さらに球の左右から、針金のような細長い線が出てきた。
線は球と球とを繋ぐ役割を担っていた。

やがて多くの球が丸い網をつくり、敵のロボを逃がさないようにする。
他方、敵のロボは必死に逃げ回るが、1本の線に引っかかり、そのまま他の線と絡まってしまった。
結果、球と糸が敵のロボを縛り付け、動きを封じたのだった。
『く、クソっ!』
敵のロボは悔しかった。もがき苦しむ敵のロボの姿を、武人はやや離れた所で眺めていた。
『俺はこの子らが倒されるまでは手出しせえへんからな。』
ついでに精神的に追い打ちをかけた。
『このロボットにはな、3人の子供達が乗ってるんや。お前が消そうとした子らや。』
『何、だと…!?あのガキ共が!?』
『下に逃げんとおとなしくシャトルを攻撃してたら、他の仲間と一緒に俺が相手してやったのになぁ…。それでも力出せへんけど。』
『舐めやがったな!貴様!うっ!?』
謎のロボがまた光り出した。
全身が縛られている為に、光を遮る腕が使えない。
頭を下げて凌ぐしか、方法はなかった。

光の消滅後、現れたのはまた別のロボットだった。
白い機体色は変わってないが、機体のラインと体型が違う。
ピンクから黄色へ。美しい女性型からガッチリした男性型へ。
光の影響もあってか、そのロボットはまるで黄金の輝きを放っているかのように見えていた。
黄色くなった謎のロボは、空手で見かける構えのポーズを取り、「気合い」を入れた。
「気合い」に見えるのは、ロボの周囲に風の渦と火柱が起こっていたからだ。
「気合い」を溜めたロボは勢いよく、敵のロボに突撃した。
右手はグーの形で、炎が右手を包む。
狙うは左の頬の部分だ。身動き取れない敵のロボ。
ジタバタしても、線が途切れない限りは自由にできない。
結果、右手のパンチがストレートに入る。
パンチは強烈で、ロボの顔をぐちゃぐちゃにするのは容易い事だった。
グエッと無意識に吐いた敵のロボ。
容赦なく、次の一撃をくらってしまう。

次は左手が繰り出された。
下から顎に強烈なパンチ。

敵のロボは上に飛んだ。
顔面のみで簡単に崩れるはずはないのだが…このロボは全身麻痺を起こしてしまった。

たった2度の衝撃で、全身痺れを起こし、放電まで起きて…。
『あああああ!?』
断末魔をあげて、爆発していった。

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