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【白井未衣子とロボットの日常】5・酔狂の日《4》

※予告なく変更のおそれがあります。
※設定上、残酷な描写があります。


ジェームズが宴会の予定を入れた金曜日。
アレックスはモニターから黒い窓のバスの群れを見送った。
[ラストコア]本部に残るのはアレックスと、各々の事情で残るスタッフのみ。
宴会に乗り気のない者や、急用で仕事に取り掛かる者まで様々だった。
アレックスはとある部屋へ向かった。
その部屋は観葉植物が周辺に配置された、ベッドルームだった。アレックスの癒し場所はここだった。

技術局長という立場で多忙に追われていると周りに思われているが、そうでもない。
彼は適材適所の考えを持ち、スタッフにも出来そうな仕事は分けた。だから彼は、休み時間を確保できた。
この日、アレックスは仕事を駐在してるスタッフに全て回した。
部屋に入るとベッドにダイブした。
クッション性は低いベッドだが、アレックスが眠るには十分だった。
彼は研究そのものが大好きな人間で、その他の事はほとんどズボラな体質だった。
「俺は自然と触れ合うだけでも、幸せなんだ。」

アレックスは元々、化学者の父を親に持った、裕福な家庭だった。
幼少期から父の研究を見てきたが、彼が危険な実験をしてから、父の研究室に出禁となった。
読書や学校の施設を借りて科学を学んだが、父に『お前に学者になる資格はない!』と否定をされた。
性格が歪んだ彼は、事件を起こした。
自分で独自調合した催眠ガスを、学校にばら撒いた。
この事件でアレックスは家族に見放され、施設に入れられた…。

今思えば愚かな行為に及んだと後悔しているアレックス。
だが子供時代の彼は親に実力を評価してほしいのに必死で…頭が回らなかった。
施設時代は虚な日々を過ごしていた。
たまたま施設訪問にやってきた男に救われるとは、この時のアレックスには想像できなかった。
男・武人に誘われるがままに、様々な経験を積んだ。
大学の博士号取得から、世界中の企業への技術提供に至るまで…。
アレックスは研究と発明を繰り返し、[ラストコア]の技術局長にまで昇進した。

「これで…幸せなんだ。」
アレックスはおでこに手を当てた。
彼は時々、自分の最悪な過去を思い出す。
そんな時はいつもベッドで眠りにつくようにしていた。
「研究ができるだけでも、十分…。」
アレックスはゆっくりと目を閉じた。
数時間程の僅かな時間を、彼は休息に充てた。

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