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白井未衣子とロボットの日常《反転》 16・対峙の日

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アナタヲ、○スヨ。 ※先に『1・正夢の日』『2・復讐の日』を読む事をおすすめします。 ※予告なく変更のおそれがあります。 ※設定上、残酷な描写があります。
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拡大したモニターの映像には、青白い部屋で武人兄ちゃんが、タブレット端末を横に投げ捨てる姿を目撃した。

そして、爆発が起きた。
煙は部屋の内外で広がっていく。

呆気に取られている暇は、なかった。
【パスティーユ・フラワー】の目の前に、赤いラインが光る黒いロボが突進してきた!

最低限の微々たるバリアは張っていた。
あまりの咄嗟の行動に、【フラワー】は手持ちのロッドで黒いロボとの間隔を取った。
突進で機体ごとぶつかると、それだけで致命的な損傷に至ってしまう。

突進による加速で、【フラワー】はどんどん後ろへ押される。
今度は背後の心配をしないといけない。

数秒の時間で回避に移るのは厳しかった。
だから私は、バリアの強度を調整した。
衝撃による破損を、少しでも抑える為に。

結果的に、【フラワー】は球状の広間の壁に、叩きつけられた。
背後にバリアの強度を高めただけで、【フラワー】自体に傷は少なかった。
被害は壁のヒビ割れのみだ。

「くっ…!」
私はレバーを握っていた両手に、痺れの感覚を味わった。
兄ちゃんに対して『残る』を選択した後、1分もかからない内に突撃を仕掛けられた。

これが、武人兄ちゃんのHRの、ロボ形態である【ブラッドガンナー】の実力…?
私の胸の奥に、得体の知れない痛みが押し寄せてくる。

『怖い』という感情。
今までそんな経験を何度もしたけど、度合いが最高潮になるのはこれで3度目だろう。

1つ目は10年前の娯楽施設の襲撃での微かな記憶。
2つ目は同級生のお兄さん達からの過剰な身体接触による、忘れられないトラウマ。

今の突進が3つ目の『怖さ』を感じた瞬間だった。

手の痺れはまだ残る。
その回復を待つ時間はない。

私達が戦闘の許可をした以上、【ブラッドガンナー】は攻撃の手を緩めないだろう。
アレは突進後、距離を離して宙で固定していた。
待機のつもりなのかはわからない。
静止の時間は終わり、【ブラッドガンナー】は次の突撃を開始した。

迫ってくる、黒いロボ。
威圧感がひしひしと伝わってくる。

対処を、対処を考えなくては。

私が手を焼いていると、突如コックピットのスピーカーが怒鳴り声でやかましくなった。
勇希兄ちゃんの声だった。

『未衣子!今すぐ俺に代われよ!』
言いたい事は即座に理解した。

【フラワー】から【サニー】へのチェンジである。

この広間には、私達【パスティーユ】と、武人兄ちゃんの【ブラッドガンナー】しか存在していない空間である。
実質、1対1の対決だ。

広範囲の複数の敵を片付ける【フラワー】よりも、対人戦闘で発揮する【サニー】に代わるのが良さそうだ。

「わかったよ。勇希兄ちゃん、行って!」
私は下の兄の要求を認めた。

【パスティーユ】はジェット機に分離しなくても、形態チェンジが可能である。
両目を隠さないといけない位の眩しすぎる光を照らして、機体の外観を変化させる。
《剛力ガラススフィア》のトライアングルを動かす。

三角形の上の頂点に、勇希兄ちゃんが中にいるコックピットが居座った。
光は時間が過ぎれば、薄くなっていく。

ピンク色の可愛らしい雰囲気のロボから、太陽のように輝く逞しい黄色のロボへと変貌を遂げた。
【パスティーユ・サニー】がこの広間に姿を見せた。
私はサポート役に回った。

もうすぐ【ブラッドガンナー】が【サニー】に接近するかと思われた。
動きは一旦、停止していた。

【パスティーユ】の形態チェンジ時に発する光は、まともに直視すると失明を起こしやすい。
遮光性のあるゴーグルや板でも使用しないと、目眩を覚えて倒れる危険性もあるんだ。

発光に気づいた側が守りの体制に入るのは当然だ。
できるだけ距離を離して、尚且つ目を、カメラアイを手などで覆い隠す。
発光の継続時間は微々たるものだから、淡くなるまで耐えればなんとかなる。

コックピット内の地図データが示す、赤い光の点。
それは元々、青い光の点だった。

いつの間にか、色が変わっていた。
点の色は識別で自動変化したり、手動操作で変える場合もある。

【ブラッドガンナー】を示す光の点は、直前まで青く灯されていた。
【サニー】のサポートに回るようになってようやく、色の変化に気がついた。
突進で襲いかかってきたから、自動変化したのか。

頭の回転が速い和希兄ちゃんが密かに切り替えていたのか。
真相はわからない。

今は…真実を追及するほど余裕はない。
【ブラッドガンナー】は眩しい光のショックから逃れる為に一時停止した。
止まる理由が無くなれば、動き回っても何の問題もない。
障害物は、無に等しいから。