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Everything Everywhere All At Onceを観たら愛が体中から溢れちゃった

「エブエブ」を結構軽い気持ちで鑑賞


アカデミー賞発表の前日、散々予告で観ていた「エブエブ」を観に行くことを思い立った。
ちょっとチープな予告、今どきに乗っかった「マルチバース」がテーマ。
製作は中国?かな?
Twitterでちょこっと検索すると、VFXのチームが6人のみで構成されているとのこと。
なるほど、低予算系か。
おー、アカデミー賞めっちゃノミネートされてる。出色って感じ?

https://gaga.ne.jp/eeaao/

まぁ、くだらないSF好きだし。「銀河ヒッチハイクガイド」とか「ガーディアンズオブギャラクシー」とか。
ちょっと笑えたらいいよね。曼荼羅風のビジュアル、カッコよかったしな。
くらいの気持ちで観に行った。しかし、私を待っていたのは心が瓦解するほどの大きな愛だったのです。

ざっくりあらすじ


どこにでもいるような風貌のいわゆる「おばさん」に扮するミシェル・ヨー(役名:エヴリン)が、税金や頼りない夫、不仲の娘や要介護の父を抱えて過ごす日常の中、突然マルチバースの世界に巻き込まれていく。

どうやら平行世界の中で自分と同じ人間がたくさんの「今」を生きていて、スタートは同じでも様々な岐路で分岐し、想像もしなかった「私」が存在しているらしい…と。

別の世界線(アルファバース)で研究者となったエヴリンが、マルチバースを発見。
開発したジャンプ装置は、両耳に取り付けて脳とリンクをさせることで、マルチバースに存在する数多の自分にジャンプできる。
しかし、装置だけでは完成せず「とある行動条件」が必要となる。
行動条件には困難なものもあり、理想通りに飛ぶのは難しい。

そして全宇宙に危機が迫っていた。
危機を起こしているのはなんと、一人娘「ジョイ」(キー・ホイ・クァン)
混乱する頭を抱えたまま、世界と一人娘を助けるべく戦う「エヴリン」
どうなる!?「普通のおばさん」!!

「ジャンプ」という現象


このジャンプという現象にとても既視感があった。
若かりし頃、人が狂うという現象に興味があった私は、鏡に向かって「お前は誰だ?」と言い続けたり、煙草の葉を全部抜いて代わりに紅茶の葉を詰めて吸ってみたりしていた。
みなさんも心当たりがあるのではないのでしょうか?

一番効いたのは「夢日記」。
起きてすぐ夢の内容をノートに書きこむという習慣をつけた1か月後、私の脳に異変が起きた。
寝ぼけているとき、酔っているときなどの半覚醒状態でトイレに行くと、脳がバグるようになったのです。
それがまさにエブエブのジャンプする時の「ギューン!」となって、目がバキバキになる感じ。
あの感じが一気にきて、別の世界線に飛びそうになる。
自分のいるところが分からなくなって「あれ、私思いっきりオシッコ出してますけど、本当にここでしていいんでしたっけ?」となる。
それが頻繁に起こるようになったのが怖くて、私は夢日記をやめた。
心が壊れてしまう。はっきりと感じた。

母と娘の戦争


-----------------ここからちょっとネタバレを含みます----------------------



「エブエブ」ではそんな脳内の実験を繰り返し続けた結果、悲しい事故が起こってしまう。

その犠牲者がエヴリンの娘である、ジョイだ。
アルファバースの世界線にて、研究者の母親に付き合ってマルチバース転送実験をやり続けたジョイはあらゆる「エヴリンの娘・ジョイ」を経験する。
母娘という濃密な関係性の中、あらゆる喜びや悲しみ、現状との違いを体験するジョイはいつしか心が「飛散」してしまう。

ジョイは「ジョブ・トゥパキ」となり、あらゆるマルチバースを自在に行き来し、母親のエヴリンをを殺して回るようになった。
まるで、自分の生まれの不幸を全て断つようだ。

ジョブ・トゥパキは古い考えの人間が見たら、思わず眉をひそめてしまうような奇抜なファッション(とてもオシャレですが)だ。
自分勝手極まりない考え方、触れたものを不幸な世界線に引きずり込む能力。
でも何よりの武器は、「エヴリンの愛娘・ジョイの見た目」。
地球のエヴリンは、ジョブ・トゥパキを殺すことは出来ない。

別の世界線の私にも家族にも幸せになって欲しい

みんな母親がいる。
なんでもありの世界でも、それは変わらない一つのルール。
未来は試験管ベイビーとかが出てくるかもしれないが、令和5年現在では全世界がこのルールにのっとり、すべての人が女性の体から生まれている。

母親と会ったことがない人もいるだろう。
関係性が断絶している人も。
でも、母親は願ってる。「自分の子どもに幸せになって欲しい」
それが当の子どもが願っている幸せの形とは違っていても。
「自分のような人生を歩んでほしくない」と願う母もいる。
エヴリンもその一人だ。

この世界で生きる子どもが、母親の願いをスタンドに生きている。
私自身、その思いを呪いだと感じることもあった。
でも、みんなそうなんだと気づいたとき「願いを背負って生きている人類すべてを幸せにしたい」と思うようになった。
戦争なんかして何になるんだ。みんな願われて生きているのに。

アルファユニバースの私へ


マルチバースを生きている別の私、もはやそれは他人ではない。
だったらその私にも家族たちも、幸せでいて欲しい。
家族が不幸だったら、私にも完ぺきな幸せは来ない。
家族だけじゃない。親友や恋人、近しい人とその家族にも幸せであって欲しいと思う。
その家族の親友にも、その親友の家族にも。
キリがなくなる隣人愛。それは世界を救ったりはしないのか?
エヴリンは全てを抱きしめた。

気が付くと一つの路傍の石になっているエヴリンとジョイがいた。
心地よい風が吹いている。
言葉は交わせるが、自らの意志で動くことは出来ない。石だけに。

下らない冗談で笑う。
心が通い合ってる。
ほら、私たちは大丈夫。
大丈夫なら、他に何もいらないよね。

そんな風景を目の前に私は、気づけば滂沱の涙が溢れていた。
母親と喧嘩ばかりして、理解してもらえなくて、家出をするように飛び出た10代のあの時から、なんとか断絶することなくやってきた私と母も、こんな風に屈託なく笑い転げた日があったのだ。ごめんね、お母さん。あなたのいう幸せはわからないけど、私なりにやってるよ。
スクリーンを通じて、遠くに住む母親に念じた。

このまま映画が終わってもいい。
それはそれで幸せだ。
優しく満たされる感覚に、愛を強く感じる。
これは愛の映画。
母親から生まれた、すべての人たちに捧げる映画。

余談


後で知ったのだが、監督はダニエルズ。
「スイスアーミーマン」の監督です。
ダニエル・ラドクリフくん主演(?)の快作。
この映画も大好き!
エブエブ同様、人生はナンセンスと愛で満ちていると確信する映画です。
なんと、ミシェル・ヨーより豪快かつ大量に液体を口から吐きだすハリーポッターが観られます!
最後まで読んでくださった方、ありがとうございます。
未視聴であればぜひ!親を質に入れてでも観てください!
http://sam-movie.jp/

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