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名曲が織りなす6つの珠玉のストーリー 「ブルーハーツが聴こえる」(2017)

今回はオムニバス形式の映画「ブルーハーツが聴こえる」を紹介します。

この作品はカルト的大人気ロックバンドTHE BLUE HEARTSの曲をテーマにした6作品によって構成されており、出演者もなかなか豪華です。

2015年のTHE BLUE HEARTS結成30周年をきっかけに2014年に制作が開始されましたが、資金難に陥り、クラウドファンディングで資金を集め、劇場公開にこぎつけました。




それぞれのストーリー

ハンマー(48億のブルース)

監督:飯塚健
脚本:飯塚健
製作:三宅はるえ / 平木美和
出演者:尾野真千子 / 角田晃広 / 萩原みのり / 伊藤沙莉
音楽:海田庄吾
主題歌:「ハンマー(48億のブルース)」
撮影:山崎裕典
編集:飯塚健 / 高池徹

ある日、後藤一希(尾野真千子)は街中で同棲して3年になる恋人が、他の女と仲良く歩いている姿を目撃する。なぜ追わなかったのかを職場の上司である久保力(角田晃広)に責められる。

一希の恋人はアングラ劇団の一員であり、その劇を見た一希が惚れてしまったのだ。そんな彼女は浮気現場を見た翌日の朝も何事もなかったかのように朝ごはんを作ってあげていた。

それを聞いて呆れる3人。その職場には一希と久保、そして女子高生の佐野結(萩原みのり)相川奏(伊藤沙莉)が毎日にように入り浸っていた。彼女らはバンドを結成するために久保の歌唱力を目当てにボーカルに誘っていたが、全くやる気なしの久保だった。

一希は彼氏の劇団のチラシを飲み屋やラーメン屋など、各所に配ってあげていた。

久保は一希を近くの雑貨屋に連れていき、そこにあったチラシを全部回収する。一希に燃やさせようとするが彼女はそれを拒否する。立ち去ろうとする背後から、「許せないことを許し続けると、いつか自分を許せなくなるぞ!」と久保に言われてしまう。

一晩考えた一希は、翌日にチラシを全部回収し、3人に自分の愚かさを全部ぶちまける。最後の思い出にと4人で彼氏の劇を鑑賞し、感動してしまう。

4人はその必要なかった感動を蹴散らすために一夜限りのバンド結成をする。

(ここで4人が「ハンマー」を狂ったように歌い出す)

翌日、自分か彼氏のために作ったテーブルをハンマーで叩き壊す一希だった。

人に優しく

監督:下山天
脚本:下山天 / 鈴木しげき
製作:服巻泰三
出演者:市原隼人 / 高橋メアリージュン / 浅利陽介 / 加藤雅也 / 西村雅彦
音楽:吉川清之
主題歌:「人にやさしく」
撮影:下山天
編集:下山天

はるか先の未来、刑務所惑星を目指す囚人の護送船は流星群に襲われる。帰還が困難になったパニック状態の中、死にたくないと泣き叫ぶ弟(浅利陽介)は仮面を付けた看守(瀧内公美)の命令を聞かずに負傷した女(高橋メアリージュン)を最後の思い出として襲い始める。

看守は発砲しようとするが、兄(加藤雅也)が邪魔をする。それを静観している老紳士(西村雅彦)

女が抵抗し、弟が突き飛ばされる。それに怒った兄が女を殺そうとした時に男(市原隼人)が兄を殴りつける。兄弟は男に向かっていくが全く歯が立たなかった。兄が立てなくなるほどにボコボコにされ、弟も同じ目に合わそうとした瞬間、看守の銃弾が男の右腕を貫通し、その手が落とされる。その手は機械でできていた。

男はヒューマノイドだった。なぜ人間しか入れない刑務所にいるのかを問い詰める看守を老紳士がなだめ、その右手を即座に結合させる。その老紳士は科学者だった。

皆、それぞれ事情があってこの刑務所に送り込まれていた。男は昔のことを話し始めた。

その昔、政府の方針で人間は他の星への移住計画を進めていた。その移住先で強制労働させられていたのは、心を持たされたヒューマノイドだった。男は仲間を助けるためにそこの所長を殺してしまう。

仲間と逃げたものの、次々とつかまって解体されていった。そして最後に男もつかまってしまう。しかし解体を命じられていた兵士も政府のやり方に疑問を持っていた。

「お前が壊れてなくなっても何も変わらない。でも生きていれば何かが変わるかもしれない」と言って男を解体しなかった。

「なぜ感情を持たせたんだ?」と問う男に科学者は「感情が最も早い通信手段だからだ」と答えた。

「俺が生きていて何か変わったか!」と怒りを露わにする男。

女は反政府側としてテロ活動をしていた。男は女に「なんで変わらないんだ」と突っかかる。女は「今度生まれ変わったら世界を変えてみたい」と告白する。

弟も「生まれ変わりたい・・・」と言い、兄は「そうだな・・・」と笑いながら答えた。

電力が切れていよいよ最後が近づいた頃、科学者が一か八かの提案をする。それは護送船の外側にある推進装置のスイッチを押せばエンジンが掛かり、どこかの惑星に不時着できるかもしれないというのだ。しかしそのスイッチ押した者は帰ってこれないという条件付きだった。

科学者がその任を引き受けようとするが、宇宙服が衝突の影響で壊れてしまい、外に出ることさえできなかった。

その時、男は「俺に宇宙服はいらない」と言ってスイッチを押す役目を引き受ける。

男は「あんたらが生きていたら・・・何かが変わるはずだ」と言って男は外に出ていった。

ここからエンドロールまで「人に優しく」が流れます。

船内で5人が見守る中、男は推進装置のスイッチを押す。護送船はエンジンを吹いてどんどん離れていく。男はそれを見ながら宇宙の彼方へ飛ばされていく・・・・

ラブレター

監督:井口昇
脚本:井口昇
製作:福井真奈
出演者:斎藤工 / 要潤 / 山本舞香
音楽:福田裕彦
主題歌:「ラブレター」
撮影:長野泰隆(J.S.C)
編集:和田剛 / 松本翔太

脚本家の池野大輔(斎藤工)は高校時代の事を思い出しながらPCで原稿を作っていた。主人公は自分、そしてヒロインのモデルは吉田彩乃(山本舞香)だった、彩乃は大輔にとって憧れの存在であり、いつも隠れて8ミリカメラを撮っていた。

大輔は彩乃と最初に話した時の事を思い出していた。彩乃はギターを習っており、それを教えるケイスケと恋人同士だった。2人がイチャイチャしている時にも8ミリカメラを構えていた大輔は彩乃に見つかり、彩乃は少し怒り顔で「前からいいたかったんだけどさー・・・・」と何かを言われるが、その後がどうしても思い出せなかった。

それには理由があり、その日の夜に彩乃はケイスケと練習するためにスタジオへ向かう途中で、工事中のビルから落ちてきた鉄骨によって亡くなっていたからだった。そのショックはいまでも大輔の胸中に残っていた。

そのくだりをそのまま書いていた大輔に、当時同級生だった小松純太(要潤)が冷やかしてくる。恥ずかしくなった大輔はPCを持ってトイレに逃げ込む。

彼女が死んだこと、その時に自分はブルーハーツの「ラブレター」を聞いていたこと(綾野が好きな曲だったから)を書こうとするが、大輔は気が変わって書き直し、彩乃が鉄骨で死なず、スタジオにも行かないようなストーリーに書き換える。

すると便器の中が光りだし、大輔は便器に吸い込まれそうになる。大輔の悲鳴を聞いてやってきた純太は大輔を引き出そうとするが、結局2人共、便器に吸い込まれてしまう。

学校のトイレから出てきた2人は高校生の姿に変わっていた。そしてその日は彩乃が死んだその日だった。彩乃がケイスケと話していたが、何故か彩乃の手は鋼鉄製のハサミになっていた。(鉄骨を跳ね返せるように大輔が変えていた)

ケイスケは先端恐怖症で彩乃を怖がってしまい、事態を重く見た先生に捕まりそうにもなる。大輔は困り果てていた彩乃の手を掴んで校外へ出ていった。

彩乃は困惑しながらも必死の思いで連れ出してくれたことを少し感謝する。大輔は8ミリカメラを取り出し「あなたのこと、撮らせてもらえませんか?」とお願いする。彩乃は自分がいなくなったあとに感じた虚無感などを語っている大輔に少し違和感を覚えるが、自分が大輔にとって憧れの存在なのだと知った彩乃は「撮ってもいいよ」と答えるのだった。

そんな時、大輔が歴史を書き換えた歪で、スリムでイケメンのケイスケがデブになってしまう。周りの生徒も姿が変わり始める。純太は「元の世界に書き換えろ」と言い、大輔は「そしたら彼女が死んでしまうだろう」と言いながら喧嘩になる。

彩乃はそれを聞いてしまい、PCに残された元データ(書き換える前の文章)も見てしまう。

彩乃はすべてを元通りに書き換えた上で大輔に「スタジオに行くことにした。そうすればケイスケもみんなも助かるんでしょ?だったら後悔しないよ」と大輔に言う。反対する大輔に彩乃は「前からいいたかったんだけどさー・・・・自分の中に閉じこもってたらもったいないよ。きっといい感性持ってると思うから」と言って”ラブレター”のレコードを渡される。「これ聞いて。すごく切ないけど救われるよ」と彩乃は言った。

そして彩乃は鋼鉄のハサミでPCを切り刻む。そのままスタジオに走っていく彩乃・・・それを追う大輔。

ここで「ラブレター」が流れ始める

無意識に8ミリを持ちながら彩乃を追いかける大輔。工事現場まで走るもなかなか追いつけないでいた。転んだ大輔を置いて彩乃がビルの角を曲がる。その後すぐにその方向から大きな音(鉄骨が落ちてきた音)がする。

それでも追いかけようとする大輔にトラックが迫ってくる。あとから追いかけていた純太は大輔を救うために避けさせようとする。そして2人は工事現場の簡易トイレに飛び込み、現代に戻ってくる。

現代で8ミリ映写機を見つけた2人は高校時代のフィルムを見ることにする。楽しかった風景や思い出が映し出される中、最後に彩乃が工事現場に走っていく映像が流れる。そこでの彩乃は笑いながら走り、何度も大輔に振り向いて微笑んでいた。

大輔は泣きながら「幸せになれよ」とつぶやき、純太は「幸せになってるさ、きっと」と答えた。

少年の詩

監督:清水崇
脚本:清水崇 / 石川健太
出演者:優香 / 内川蓮生 / 新井浩文
主題歌:「少年の詩」
撮影:ふじもと光明
編集:浦崎恭平

1982年、小学生の石川健(内川蓮生)は母親の石川ユウコ(優香)と2人暮らし。

クリスマスイブの日、そして自らの誕生日でもある健は機嫌が悪かった。一緒に祝ってほしいユウコが大手スーパーのパートの仕事が入ったからである。

職場先にはユウコに好意を持っている永野昭司(新井浩文)という男がおり、そのことは職場の皆に知られ女性従業員がやっかみ感覚で噂していたのを、たまたま聞いてしまっていたのも理由だった。

健はユウコが自分より永野と会うのを優先しているのだと勘違いし、先生にも女友達にも反抗的な態度をとってしまう。

健はTVなどで有名だった特撮ヒーロー”ボンバー仮面”の大ファンだった。ユウコはスーパーの屋上で行われる”ボンバー仮面ショー”を見に来てと誘うが、永野がその”ボンバー仮面”を演じることを知っていた健は「行かない」と言って家を飛び出してしまう。

それでもこっそり屋上に行く健。そこで永野に言い寄られて嫌がるユウコを目撃する。見つかりそうになった健がその場から逃げて自宅に帰ってくる。

そこにユウコの職場から健あてに荷物が配達される。それは”ボンバー仮面”のコスチュームセットで、永野が健のために送ったクリスマスプレゼントだった。

健はそのプレゼントを投げつけ、自分で作った紙製の”ボンバー仮面”マスクをかぶり、スーパーの屋上へ走っていく。

”ボンバー仮面”ショーが始まり、永野が颯爽と出て来る。喜ぶ観客の目の前に健が走り込み、永野にパンチをお見舞いする。

それを見て唖然とする観客と永野、そしてユウコ・・・

健とユウコが自宅に一緒に帰る。ユウコはこの一件で職場をクビになってしまう。健は「ごめんなさい」と小さな声でユウコに謝るも、ユウコはなぜか晴れ晴れとした表情をし、「ケーキ買いに行こうか!」と言って健を励ました。

ジョウネツノバラ

監督:工藤伸一
脚本:永瀬正敏
製作:池田仁
出演者:永瀬正敏 / 水原希子
主題歌:「情熱の薔薇」
撮影:山田真也
編集:及川勝仁

最愛の女性(水原希子)を亡くした男(永瀬正敏)は、葬儀の後に車椅子に載せて彼女の遺体を奪い去る。

自宅に持ち帰った彼女としばらく暮らしたが、遺族に怪しまれて自宅にやってくるようになる。

男は廃工場(魚を保存する場所?)に彼女を連れていき、そこで彼女を氷漬けにして巨大冷凍庫に安置する。

それから何十年も男はそこに暮らし続けた。そして年をとり、寿命がつきそうな予感を感じた男は、冷凍庫のドアを開ける。そこにいる彼女は年をとること無く、死んだときの綺麗な彼女のままだった。

男は冷凍庫の電源ブレーカーを落とし、工場に火をつける。

そして氷漬けの彼女のそばで息絶える。

しばらくして彼女の周りを覆っていた氷が溶け、彼女が男と向き合うように倒れ込んでくる。

倒れている2人の周りには情熱に満ちているような赤い炎が取り囲んでいた。

1001のバイオリン

監督:李相日
脚本:小嶋健作
製作:佐藤満 / 高橋潤
出演者:豊川悦司 / 小池栄子 / 三浦貴大
音楽:伊藤ゴロー
主題歌:「1001のバイオリン」
撮影:大塚亮
編集:今井剛

もともと福島の原子力発電所の作業員だった秋山達也(豊川悦司)は地震と津波による原発事故で福島を離れ、東京に暮らし始める。達也には妻の絵里子(小池栄子)と2人の子供である杏奈と圭吾がいた。

家族が東京での新しい生活に慣れて行く中で、達也は自分が原発から逃げ出したことを後悔し定職に就けずにいた。

そんな達也のもとに、福島に住んでいる後輩の安男(三浦貴大)が東京にやってくる。2人は居酒屋で呑みながらその当時の事を話、自分だけ逃げ出したことを達也は謝るが、安男は恐縮してしまう。

福島にいた頃、秋山家には一匹の犬がいた。その名はタロー。原発事故が起きた時、達也はタローを置いて福島を離れていた。末っ子の圭吾はまだ幼かったため、タローがまだ生きているのではないかという作文を学校で披露するも、なんとなく死んでいるであろうと感じていた。

逃げ出したという心残りとその作文、安男との再会がきっかけとなり、達也は福島に行くことを決意する。

達也と安男は放射能で汚染された立ち入り禁止区域に入り込み、昔の自宅にたどり着く。タローを探しながら家に入っていく達也。安男は何の気無しに庭を散策していると、端っこにあるタローのお墓を発見する。しかしそのことを達也には言わなかった。

翌日、達也は庭に豚が侵入しているのを発見する。それを見て「タロー・・・」と呟く達也。それを見て安男は「いや、ただの豚ですよ」と言うが、「わかってる!」と言って達也は外に走り出した。

安男はそれを追いかける。

達也が豚を見失って探している姿を見て哀しくなる安男。

安男には分かっていた。タローがすでに死んでいることを達也はわかっていることを、墓を作ってあるのがその証拠だった。

達也は「タローが死んだことを認めたら、全部終わったことになる。福島でのことが全部終わったことになる。そんなの嫌だ!」と大声で言う。

そんな時、遠くで犬の遠吠えを聞く2人。その声の先に走っていくと小さな貯水池があり、その先に犬はいるようだった。

ここで「1001のバイオリン」がバックに流れてくる

安男がその声に答えるように「ウォ〜〜ン」と叫ぶと、犬も「ウォ〜〜ン」と帰してくる。笑っている安男を見て、達也も笑って「ウォ〜〜ン」と叫ぶのだった。

感想

THE BLUE HEARTSの楽曲は、ストレートなメロディーと強いメッセージ性があり、時代を超えて多くの人々に共感を呼び続けています。
それらの曲を各監督が独自の視点で解釈し、短編映画のオムニバス形式としているのが、本作の特徴です。

「ハンマー(48億のブルース)」では、浮気を目撃した女性の心情をユーモラスに描き、「人にやさしく」では、優しさの重要性が強調され、人間関係の在り方を問いかけます。

「ラブレター」では、過去と現在を行き来する物語を通じて、時間を超えた愛の形が描かれ、「ジョウネツノバラ」では、情熱と夢の追求について考えさせられます。

そして、映画全体を通して流れるテーマとして「喪失と再生」が挙げられます。

特に「1001のバイオリン」では、福島第一原発事故後の家族の再生が描かれており、震災後の日本社会における人々の苦悩と希望が反映されています。 豊川悦司演じる主人公は、自らの過去と向き合いながら、新たな一歩を踏み出す姿が印象的です。
このエピソードは、震災という現実的な背景を持ちながら、個人の成長と希望を描くことで普遍的なメッセージを伝えています。

本作の最大の意義は、ブルーハーツの音楽が持つ普遍的なメッセージや世界観を、現代的な文脈で再解釈し、新たな形で提示した点にあります。

30年以上前に作られた楽曲が、現代の監督たちによって新たな解釈を与えられ、現代社会に通じるメッセージとして再構築されている点は非常に興味深いです。


オムニバスということで、好き嫌いはあるかも知れませんが、全体としての完成度は高く、異なる監督の個々の作品群が持つ独自の魅力が、全体としての映画の質を高めています。

コメディ、SF、家族愛、ファンタジーなど、盛りだくさんで、登場人物もまあまあ豪華。ブルーハーツファンでなくても楽しめる作品です。

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