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私と父

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もういない父への想いを綴ります
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ぶどう

ぶどう

父に最後に食べせたものは【ぶどう】であった
今でもはっきりとその時の情景を思い出すことができる
あの日
私が病室に着いたのは ちょうどお昼ご飯の時間帯
ベッドの上で 上半身を直角に起こし
大きなバスタオルを首元にかけられて食事が始まっていた
ほとんど目が開いていない状態で 口だけゆっくりと動かしていた
「冷たく冷やしたぶどうがあるよ
食べる?」
そう聞くと しっかりうなずいた
私は皮をむき そっと

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後悔

後悔

私は父に
『ありがとう』
と言った事はあっただろううか?
私の唯一の後悔は
これかも知れない
今になって伝えたい
いろんなことへの
『ありがとう』
心の底から
私のことを愛してくれていた父
それにしっかり気がついたのは
父が亡くなってからだなんて
悲しすぎる

最後にかけた言葉は
『もういいよ、頑張らなくていいよ、安心して、行っていいよ』だった
父の足をさすりながら
心の中でずっと、
もう大丈夫よ

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守られていたこと

守られていたこと

絵のうら側に言葉の糸をとおす(鴻池朋子著)
を読んでいる
3月11日の震災の話があった
読み進めているとふと
あの日の明け方を思い出した

1月阪神大震災の日
私は自分の部屋のベットに寝ていた
自分の身体が揺れている?
まるで
ハンモックに寝ているように
左右に大きくゆらゆらと

そんな感じで目が覚めた
なにが起きているかわからなかった

すると父が
『あーちゃん』と叫びながら部屋にきて
寝ている

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そこにいてほしい

そこにいてほしい

ここに来るとやっぱり
胸の真ん中の
奥の方が重くなる

あそこに見えるあの病院に
年に2回は少なくとも入院していた
病室からはこの公園が見えた

毎日 顔が見たくて 通った
新聞を届けに
替えの下着を届けに
洗濯物を取りに

何を話すわけでもなく
時には寝ているから声もかけずに
帰ることもあった
でも確かに
生きていて
そこにいた

それだけでよかったのに

毎日毎日
病院のエレベーターで8階へ

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父と本

父と本

私はどうしてこんなに本が好きになったのだろう?と考えた
一つ思い出したのは、幼少期
祖母のベッドに寝転ぶと目線の先に見えたのは難しそうな文庫本だった
もう一つ思い出したのは
父はいつも本を読んでいたと言うこと
実家に帰るといつも食卓の上に、赤ペンの挟まった読みかけの本が置いてあった
そういえば、トイレにも何冊もの本が置いてあった
入院中も常に本が父のベッドの脇に置いてあった
そうか父は本をよく読ん

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