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「アクセシビリティ推進の振り返りと具体例からみる取り組みの軸」/三橋 正典氏(Ubie株式会社)

【イベントテーマ】:「実践者に学ぶ」アクセシビリティチームの立ち上げと成長する組織づくり
【開催日】:12月8日(金)18:30~
【登壇者】:三橋 正典氏(Ubie株式会社)、大村 健太(CULUMU)、嶌田 喬行氏(株式会社LIFULL)
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本イベント記事は、アクセシビリティチームの立ち上げと組織作りについてのオンラインセミナーの内容です。登壇者3名がそれぞれの経験を共有していただきました。主なテーマは実際の業務で実践されてきたアクセシビリティチーム立ち上げの経緯、内容、成果や課題など。アクセシビリティの取り組みや継続的な活動のための仕組みづくりをはじめとして、アクセシビリティを企業のブランドのひとつとして位置づけることへの試みなどの参加者にとって興味関心の高いトピックに関してもお話しいただきました。

様々な人々・社会と共創するインクルーシブデザインスタジオ CULUMUは、あらゆるユーザーが利用できるインクルーシブなプロダクトの構築を支援する、アクセシブルウェブサイト構築サービスの提供しており、アクセシビリティに関連するイベント等を定期的に開催しております。

アクセシブルウェブサイト構築サービス

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https://culumu.com/lp/accessibility

自己紹介と本日のアジェンダ

三橋氏:トップバッターで緊張していますが、発表していきたいと思います。それでは宜しくお願いします。
本日のテーマは、「アクセシビリティ推進の振り返りと具体例から見る取り組みの軸」として、お話ししたいと思います。
 
改めて、Ubie(ユビー)株式会社でプロダクトデザインをしている三橋です。Ubieには2018年に入社しました。入社以降、まずは医療機関で利用する「タブレット問診」という高齢者向けサービスのUI改善に携わり、ここでの経験からアクセシビリティの重要性を感じました。これをきっかけとしてアクセシビリティの社内推進に関わりはじめました。直近では症状検索エンジン「ユビ―」の開発をしながら、プロダクトのアクセシビリティの向上に努めております。

三橋氏のアジェンダ
三橋氏のアジェンダ

三橋氏:では、最初に本日のサマリーをご紹介します。
Ubieは、創業当初から高齢者や障害当事者に向き合う姿勢が根付いていました。これは重要なことだと思っています。そんなUbieの会社のミッションとアクセシビリティを紐付けることにより、これまで社内でも一定の納得感を得られることができました。
その中で、取り組みのなかで意識してることが大きく3つありますので、後ほど紹介させていただければと思います。
最後に、最近アクセシビリティ関連でお声がけいただく機会がありますが、現状会社にとってアクセシビリティが大きな取り組みになっているかというとまだまだです。今日は今後もっと取り組んでいきたいことをお話していきたいと思います。 

主なサマリー
主なサマリー

会社&プロダクト紹介

三橋氏:Ubieは、医師と元エンジニアが創業したヘルステック企業です。
ビジョンは「Hello、Healthy world.」。ミッションは「テクノロジーで人々を適切な医療に案内する」です。
Ubieのプロダクトは、現在3つあります。生活者向けの症状検索エンジン「ユビ―」と、医療機関向けの「Ubieメディカルナビ」、製薬企業様向けの「製薬ソリューション」。以上3つのプロダクトを展開しています。

【背景】Ubieがアクセシビリティに取り組んだきっかけ

三橋氏:Ubieがアクセシビリティに取り組むきっかけは何か…?それは「ミッションの達成に必要なピースである」ということを言語化したことにあると思います。 

先ほど紹介したミッションの中で、「テクノロジーで人々を~」という言葉がありましたが、この「人々」にフォーカスを当ててみると、特定の誰々というよりも、生活をする全ての人が対象であることを再解釈し、「このミッションを達成するためにはアクセシブルな状態になってることが前提にあるのではないか?」ということを社内で共有したことが、一定の理解が得られた大きなポイントになりました。 

会社のミッションは大きなところに向かうために必要ですが、さらにUbieでは個人のWILLも原動力として大事にする文化があります。
実際私の個人のWILLは、医療に関わるプロダクトは実際たくさん存在しますが、それらがすべて使いやすいかというと難しい状況なのではないかと思います。なので今、「医療に関わるプロダクトのUIを標準的で普通に使えるデザインへ作り上げていきたい」というWILLがあります。
それはUbieでアクセシビリティに関わっていくことのひとつの軸となっています。そこをさらに会社のミッションと紐づけます。
そのためアクセシビリティの取り組みは会社のミッションを達成するためには必要なことであり、さらに個人のWILLとも紐づくことで両輪となり、取り組みへの意識が自分の中でも高まったことが大きなきっかけになっています。

Ubieがアクセシビリティに取り組んだきっかけ「会社のミッションに向かうために、個人のwillを原動力にする」
Ubieがアクセシビリティに取り組んだきっかけ
「会社のミッションに向かうために、個人のwillを原動力にする」

【時間軸】Ubieの取り組みの振り返り

三橋氏:それでは、これまでのUbieの取り組みをご紹介したいと思います。
タイムライン的にピックアップし、お伝えさせていただきます。

Ubieの取り組みの振り返り(2018年~2021年)
Ubieの取り組みの振り返り(2018年~2021年)

三橋氏:創業当初からの特定の当事者に対してのUI改善に取り組んできました。
当時、タブレットを使いこなせなかった高齢者の方がどうすれば使いこなせるようになるのか、当事者の方に対してインタビューを行い改善を行っていました。その時にユーザビリティに対しての社内の意識はかなり高まっていました。そこからアクセシビリティの向上にシフトしていくまでには少し時間がかかりました。
大きく変わるきっかけとしては、2020年のリブランディングです。
このタイミングでVIを再調整したことで「Ubieはこれから視覚調整などアクセシビリティを意識していくべき」ということを改めて言語化したことが大きなポイントだったと思います。
そこから「アクセシビリティやっていき」という活動も醸成され、2021年頃からアクセシビリティの推進が本格的に始まりました。
2021年頃にスタートしてから、スクリーンリーダーを当事者の方が使えるようになったという成果も生まれはじめ、2022~2023年頃からはさらにアクセシビリティを推進するためには何をすれば良いかを議論してきました。

Ubieの取り組みの振り返り(2021年~2023年)
Ubieの取り組みの振り返り(2021年~2023年)

【具体例】アクセシビリティ取り組みの3つの具体例

三橋氏:次にUbieのアクセシビリティの取り組みの具体例をご紹介したいと思います。取り組みの具体例としては3つの軸があります。
「きっかけづくり」と周囲をどのように巻き込んでいくかという「周囲の巻き込み」、もうひとつはいかに成果を社内に共有していくかという「クイックWIN」です。振り返ってみるとこの3つが大きな軸となっていたと思っています。 

Ubieのアクセシビリティの取り組み:3つの具体例
Ubieのアクセシビリティの取り組み:3つの具体例

具体例①「きっかけづくり」

三橋氏:まず具体例の1つ目「きっかけづくり」をお話ししたいと思います。
先ほど話しに出たタブレットUIを例に挙げると、iOSやAndroidなどの標準的なUIコンポーネントだと高齢者が使えないという状況がありました。そこで高齢者へのユーザーインタビューを通して、高齢者でも使えるUIをゼロベースで考え、試行錯誤しながら高齢者が使えるUIを目指しました。結果、高齢者でもタブレットを使えるようになり、活動による一定の成果を社内で実感することができたことは大きなきっかけとなりました。

具体例①「きっかけづくり」:高齢者対応のタブレットUI開発による当事者が使える状になる大切さ
具体例①「きっかけづくり」:
高齢者対応のタブレットUI開発による当事者が使える状になる大切さ

三橋氏:次に「アクセシビリティを意識する土台のインストール」という観点では、大きかったのは2020年のリブランディングの際のVIのコントラストの見直しです。
下図の左のロゴが2019年ぐらいまで使用していたロゴですが、コントラストが低い状態ということがわかり、見やすいコントラストへの変更や、デジタルプロダクトで使用する際はそのコントラストを強めて色を変えていくような視覚調整などをデザイナーが主体となって進めてきたことはアクセシビリティを意識する土台となっていたと感じています。

具体例①「きっかけづくり」:アクセシビリティを意識する土台のインストール
具体例①「きっかけづくり」:アクセシビリティを意識する土台のインストール

具体例②「周囲の巻き込み」

三橋氏:具体例の2つ目は、「周囲の巻き込み」です。
これまできっかけについてお話してきましたが、それを実際にどのように取り組んでいいけば良いか課題がありましたが、横断的なデザインのイシューを扱えるサークル(チーム)を作り、まずは箱を用意してアクセシビリティを推進できる状態にしました。

具体例②「周囲の巻き込み」:横断的なデザインのイシューを扱えるサークルに組み込む
具体例②「周囲の巻き込み」:横断的なデザインのイシューを扱えるサークルに組み込む

三橋氏:周囲の巻き込みでもう一つ大きかったのは、アクセシビリティを推進する箱を作った後に、課題に対して短期決戦を意識して何か一つ成果を出すためのやり切りをしたいという気持ちがあり、アクセシビリティのスペシャリストを社外から招き新たにプロジェクトを始動しました。まずアクセシビリティチェックを行い全てイシュー化して、それらを潰してアクセシブルな状態になることを目指したプロジェクトをスタートさせました。イシュー化したものに優先順位を付け、メンバーが一丸となりそれらを半年程度で一気に改善をまわしてきました。 

具体例②「周囲の巻き込み」:スペシャリストを交えて短期決戦を意識
具体例②「周囲の巻き込み」:アクセシビリティのスペシャリストを交えて短期決戦を意識

三橋氏:更に実際にどのようにイシューを潰していくかというところでは、アクセシビリティの取り組みを推進できる「社内体制の構築」を行いました。メインの開発でアクセシビリティの課題を扱ってしまうと優先順位的にも難しさがありました。別の改善プロジェクトという立て付けにして、潰したイシューは最終的にメインの開発をマージしていくようにして、アクセシビリティへの取り組みを独立して動ける体制にしました。

アクセシビリティに関する活動を、どのように周囲に知ってもらうか?という課題に対しては、定期的に社内で勉強会などを実施して、活動の意義などを共有しました。これはアクセシビリティの取り組みを知ってもらうための活動で地道な活動ですが仲間を増やしていくという観点で定期的に実施しました。

具体例②「周囲の巻き込み」:アクセシビリティの取り組みを推進できる社内体制の構築
具体例②「周囲の巻き込み」:アクセシビリティの取り組みを推進できる社内体制の構築

具体例③「クイックWIN」

三橋氏:そして、やってきた活動がどのような効果があったのかを定期的にシェアするのもとても大事です。

具体例③「クイックWIN」:活動に対する意義の共有や勉強会の実施
具体例③「クイックWIN」:活動に対する意義の共有や勉強会の実施

三橋氏:1つピックアップすると、会社主体の記事を発信し社内にもWINを共有してきました。半年間ぐらいの間改善を進め、改善後取り組みの成果として視覚障害当事者の4名の方にユーザーインタビューを実施しました。すべての方がプロダクトを最後まで使えたという成果が生まれたので、その事実を会社主体の記事として発信しシェアすることで、社内のメンバーを始めとして社外にも広く伝わっていきました。

具体例③「クイックWIN」:会社主体の記事を発信し、社内にもWinを共有
具体例③「クイックWIN」:会社主体の記事を発信し、社内にもWinを共有

三橋氏:またこれまで共有した小さなWIN(活動)の事例としては、UbieではUDフォントを導入しており、これも記事化をし発信していました。デザインの観点ではこれは大きなことで、リブランディングのタイミングでVIのを見直しを行った際に、ロゴタイプをUD新ゴをベースに調整を行いました。しかし、プロダクトで活用していたフォントとロゴマークを見比べると違いがあり一貫性が若干欠如しているところが気になっていました。プロダクトへの導入には課題もありましたが、ユーザーに対する視覚情報のアクセシビリティを高めていきたいという強い思いがあったので、最終的にプロダクト側にUDフォントの導入を決定しました。このような取り組みの情報も積極的に社内に発信し共有していこうと取り組んでいます。

具体例③「クイックWIN」:UDフォントを導入して、その経緯から社内に紹介
具体例③「クイックWIN」:UDフォントを導入して、その経緯から社内に紹介

【2つの課題】

三橋氏:これまでいくつか活動を紹介させていただきましたが、実際は社内の体制作りや浸透というのはまだまだやるべきことがたくさんあると思っています。

2つの課題
2つの課題

課題は大きく2つあります。1つ目は「開発体制の組み込み」です。
先ほど紹介した事例で言えば、メインの開発の横で独自のプロジェクトを走らせてマージするといった進め方をしていますが、これではどうしても個別対応みたいになってしまっている状況です。
 
2つ目、「仲間を増やせていない」というのも大きな課題です。
現状、アクセシビリティの活動を社内でリードしてるのは私とtakanoripさんの2人です。この2人で基本ベースになって動き、業務委託で関わっているメンバーと共に社内での灯を消さないように頑張ってる感じになってしまっています。

三橋氏:アクセシビリティの推進はなかなか難しい状況もありますが、解決策としては、「意識せずにアクセシブルになる基盤」というところでデザインシステムの導入を進めていくことに現在は力を入れています。どちらかというとアクセシビリティを主語に進めるというよりも、デザインシステムを導入することでの生産性や開発者へのリターンに重きを考えて、浸透した結果プラスαでアクセシブルなコンポーネントの活用ができている状態を目指して取り組んでいます。

【まとめ】これからやっていきたいこと

声をあげ、小さく始め、やり続ける

三橋氏:これまでを振り返り、「声を上げて、小さく始めて、灯を消さないように継続して続ける」ことが成果というか大きなポイントだったと思っています。
「やっていき」を表明した2020年ぐらいから振り返ってみると、視覚障害当事者の方がこれまで使えなかったデバイスを使うことができるようになったことなど一定の成果は出ていると感じています。ただ今後も継続して取り組みを進めていくためには「仕組み化」や「体制作り」の土台を作っていく必要があると感じています。
 
また、アクセシビリティの活動は社内でも認知してもらってるものの、その活動が組織や事業に対してどういったリターンが得られるのかをあまり言語化できていないので、そこも定義しつつ、アクセシビリティを取り組むことで会社も、利用している生活者もWIN WINになるような状況を意識しながら進めていければと思っています。

声をあげ、小さく始め、やり続ける
まとめ:声をあげ、小さく始め、やり続ける

三橋氏:「進撃の巨人」のセリフで、自分的に刺さった言葉がります。「これはお前が始めた物語だろ」というセリフがありますが、やはり自分がやり始めて発信していっていることなのに継続できない状態を作ってしまうと止まってしまうという危機感があります。なので、「個人のWILLもあることなので、これをやり続けるぞ!」という強い意識を持ち続け、取り組んでいる状況です。
 
2023年を振り返ると一つ忘れられない話があります。
それは、視覚障害者向けのイベントであるサイトワールドという展示会で視覚障害当事者の方が「Ubieを使って病院を受診することができました。とても便利でした。」と言ってくださいました。
この視覚障害当事者の方が普通にプロダクトを使うことができたことへの安心感と、問題なく病院にも受診できたということで提供する価値を最後まで届けられたということは、すごく感動した出来事であり取り組みを継続する励みになっています。
 
このことをきっかけとして、個人的には「人々を適切な医療に案内…」というミッションに対して近づけているという実感を持つことが出来ました。開発するプロジェクトの先には様々な状況のユーザーがいるということを忘れずに進んでいきたいとさらに意識させられました。

個人的に今年忘れられない話
まとめ:個人的に今年忘れられない話

これから

三橋氏:アクセシブルであることが当たり前の品質になるような開発体制を構築していきたいと考えています。まずはそのデザインシステムの運用を当たり前にできる体制を構築していきたいと思っています。

もう1つは、「アクセシビリティ」がUbieにとってブランドの大事な軸のひとつにできたらと考えています。
やはり先程ご紹介したサイトワールドで声をかけてもらったというのはその1つの出来事ではありますが、今後、事業を拡大していく中でこのような事例はますます多くなってくると考えられます。開発者視点というよりも会社としてアクセシビリティに取り組んでいるということと、それがミッション達成に必要であるというところを発信して認知してもらえるような状況にできたらなと考えています。

この2つは2024年の大きな課題と考えているので取り組んでいきたいと考えております。発表は以上になります。

【登壇者プロフィール】

三橋 正典氏/Ubie株式会社 プロダクトデザイナー
2018年にUbieに入社。タブレット問診の高齢者向けUIの改善を経験しアクセシビリティの重要性を痛感。その後アクセシビリティの社内推進に関わる。直近では症状検索エンジン「ユビー」の開発に携わりながら、アクセシビリティ向上に努め、現在は社内でのアクセシビリティの理解と普及を目指して活動中。

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「インクルーシブデザインスタジオ CULUMU」では、 3,000を超えるNPO・NGOのリレーションとともに業界をリードするデザイナー、エンジニアが連携した「多様な人々・社会と共創する インクルーシデザインスタジオ」です。高齢者や障がい者、外国人など、これからの社会において多様な人々の声を取り入れられる(モノづくりの上流プロセスから巻き込む) ユーザー中心のアプローチをモノづくりの当たり前にします。
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