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「強く・深く・大胆にアクセシビリティをやっていく話」/嶌田 喬行(株式会社LIFULL)

【イベントテーマ】:【実践者に学ぶ】アクセシビリティチームの立ち上げと成長する組織づくり
【開催日】:12月8日(金)18:30~
【登壇者】:三橋 正典氏(Ubie株式会社)、大村 健太(CULUMU)、嶌田 喬行氏(株式会社LIFULL)

様々な人々・社会と共創するインクルーシブデザインスタジオ CULUMUは、あらゆるユーザーが利用できるインクルーシブなプロダクトの構築を支援する、アクセシブルウェブサイト構築サービスの提供しており、アクセシビリティに関連するイベント等を定期的に開催しております。

アクセシブルウェブサイト構築サービス

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自己紹介

嶌田氏:本日は、「強く・深く・大胆にアクセシビリティをやっていく話」という内容でお話させていただきます。宜しくお願いします。
最初に自己紹介をさせていただきます。
株式会社LIFULLの嶌田喬行と申します。ネット上のハンドルネームは「そめ」という名前でやっています。現在の会社にはフロントエンドエンジニアとして2020年に入社し、HTMLとかJavaScriptを書いたり、あとアクセシビリティを推進する活動をしております。2022年4月にアクセシビリティの専門チームが立ち上がりました。2023年12月現在は2名体制で構成されています。
 
続いて簡単にですが弊社の紹介です。株式会社LIFULLという会社です。主力のサービスはLIFULL HOME'Sという、不動産や住宅情報を提供するサービスです。社会課題を起点に事業展開をしている会社で、空き家の再生を軸とする「LIFULL地方創生」や、シニアの暮らしに寄り添っていく「LIFULL介護」など様々な領域に事業展開しております。

本日お話しする内容
本日お話しする内容

嶌田氏:本日お話したい内容は、これまでに上手く行ったアクセシビリティ推進の活動がどのようなものであるか、そこからうまくいった取り組みに共通する傾向があるのかどうか、この辺りをお話できればと思っております。

これまでうまくいった推進の取り組み

嶌田氏:「うまくいった」というフワッとした言葉を使っています。この発表の中でしつこいくらいに何度も出てくる言葉です。この言葉は、「誰かの行動を変えた」という言葉に読み替えていただいて差し支えありません。

「うまくいった」とは
「うまくいった」とは

嶌田氏:何となく手応えがあったよとか、効果があった気がするみたいなことではなく、「誰かの行動が実際に変わった」という事実を伴ってうまくいったと表現しています。具体的には「アクセシビリティを学び始めてくれた」とか、「チームで取り組み始めてくれた」とか、結果的に「プロダクトのアクセシビリティ品質を高めた」といったことになります。
なので、必ずしも再現性が保証されているわけではないということを予めご承知おきください。それでは具体的な取り組みをご紹介していきます。

うまくいった①「新入社員研修」
うまくいった①「新入社員研修」

うまくいった推進の取り組み①「新入社員研修」

嶌田氏:うまくいった取り組みの1つ目は、「新入社員研修」です。
「新入社員研修」とは、LIFULLに入社してくる全社員を対象としたアクセシビリティ研修です。
 
弊社にはアクセシビリティを専門とする部署の他に、有志で集まっている「ウェブアクセシビリティ推進ワーキンググループ」というグループがあります。このグループが主体となって研修を開催しています。
研修内容については一から作り上げたわけではなく、freee株式会社さんが公開されているアクセシビリティ研修プログラムをほぼまるっと拝借・流用して作っています。
研修はその内容に沿って3部で構成されています。全ての新入社員を対象にしているものが1回と、モノ作り系の職種を対象としている会が2回。合わせて3部構成になります。

「新入社員研修」とは何か?
「新入社員研修」とは何か?

嶌田氏:この研修によってどううまくいったのか?どのように人を動かしたのか?ですが、研修をきっかけとしてアクセシビリティをはじめて知り、学びを深めて実務に活かしてくれているエンジニアが出てきてくれました。これはとても嬉しかったです。

「新入社員研修」はなぜうまくいったのか?
「新入社員研修」はなぜうまくいったのか?

嶌田氏:では、なぜうまくいったのか?これは実際にそのエンジニアから聞いたことですが、新入社員研修がきっかけとなりアクセシビリティを学び始め、その後の業務で代替テキストを考える機会があり、そこで「これって研修でやった内容だ!」と思ったそうです。
このくだりには2つの重要な要素があるように思います。
1つは、これまで知らなかったことを初めて知ったという衝撃を受けた部分。もう1つは、自分の業務に直接関係しているということを認識する機会があったということです。これらの2つの要素があったことで、うまくいった、また人を動かすことができたと思います。

うまくいった②「ユーザーテスト動画を見る会」
うまくいった②「ユーザーテスト動画を見る会」

うまくいった推進の取り組み②「ユーザーテスト動画を見る会」

嶌田氏:続いてのうまくいったこととして、「ユーザーテスト動画を見る会」についてお話します。これは、障害のあるユーザーを対象に実施したユーザーテストの動画を見ながら、参加者で感想を述べ合うという会になります。

弊社のUXリサーチ部門が、障害のあるユーザーに自社サービスを使用してもらい、ユーザーテストを行いました。私もユーザーテストの動画を視聴しましたが、ユーザーが操作中の動画は非常に発見のある興味深いことが多数行われています。これはみんなで動画を見たほうが良いなと感じたのでこの会を企画しました。画面共有しながら一緒に動画を視聴し、Slackで感想を述べあいました。

「ユーザーテスト動画を見る会」とは何か?
「ユーザーテスト動画を見る会」とは何か?

嶌田氏:このスライドのキャプチャは、動画を見ながら感想を言い合っているSlackチャンネルの様子です。この時は全盲のユーザーの方が、ものすごいスピードで操作をしているのを目撃し、皆で衝撃を受けてザワザワとしている様子が伝わってきます。 

「ユーザーテスト動画を見る会」はなぜうまくいったのか?
「ユーザーテスト動画を見る会」はなぜうまくいったのか?

嶌田氏:このユーザーテスト動画を見る会によってどのように人が動いたのか、それはユーザーテスト動画を見たデザイナーが、アプリのアクセシビリティを改善する有志チームを立ち上げて活動を始めてくれたことです。

なぜ行動に至ったのか?そのデザイナーに話を聞いてみたところ、「アクセシビリティのユーザーテストを見て衝撃を受けました」と回答してくれました。このデザイナーが見たのは、ロウビジョンのユーザーのユーザーテスト動画でした。端末や支援技術の使い方や、予想をしていないところでつまずいている様子を見て衝撃を受けられたとのことです。そして自らiOSの VoiceOver(スクリーンリーダー=画面の読み上げソフト)を使用し、自社のアプリを操作し、自身で「これはやばい!」と思ったそうです。このデザイナーについてもこれまで知らなかったことを知ったという衝撃があり、自分の業務に直接関係していると認識したことが行動に繋がったのかなと思いました。

うまくいった③「アクセシビリティガイドライン策定」
うまくいった③「アクセシビリティガイドライン策定」

うまくいった推進の取り組み③「アクセシビリティガイドライン策定」

嶌田氏:続いて3つ目は、「アクセシビリティガイドラインの策定」です。
これは自社プロダクトが達成すべきアクセシビリティ基準を定めて公開したというものです。「LIFULLアクセシビリティガイドライン」と検索してもらえると、どなたでもご覧いただけるようになっています。

「アクセシビリティガイドライン策定」とは何か?
「アクセシビリティガイドライン策定」とは何か?

嶌田氏:これまで、そもそも自社プロダクトが遵守すべき基準がはっきりとは存在していませんでした。かと言って国際的なアクセシビリティのガイドラインであるWCAGを参照するには、少し難しすぎるという問題がありました。他社からも同様のガイドラインが公開されていたりはしますが、あくまでも自社に合ったものを長期的に運用していくことを考えたときに、やはり自社でオーナシップを持てるガイドラインが最良だろうと判断しました。
 執筆については、他社のガイドラインの構成や内容を参考にしつつも、基本的には自前で気合で書きました。

「アクセシビリティガイドライン策定」はなぜうまくいったのか?
「アクセシビリティガイドライン策定」はなぜうまくいったのか?

嶌田氏:これがどのように人を動かしたのか?それは「アクセシビリティガイドライン策定」がアクセシビリティに興味を持ちつつもあと一歩踏み出せなかった人たちの背中を押したのだと思います。その結果改善チームを立ち上げたり、改善企画を起案してくれたりしました。これも大変ありがたいことです。
ガイドラインをきっかけとしてくれた人たちに話を聞いてみると、「アクセシビリティガイドラインができたことが取り組みを始めるきっかけの一つになった。守るべき基準があることで、初めの一歩の踏み出しやすさが全然違う」と話してくれました。これには明確な方針や基準があることによる安心感とか社内ではきちんとサポートを受けながら進められるんだという安心感というものがあったのだろうと考えています。
 
それから本質的ではないかもしれないですが、大胆にアウトプットして社内で少し目立ったということも実は無視できない要因だったと感じています。アクセシビリティガイドラインは本来社内向けのドキュメントなので、社外に向かって公開する意味は本来ありませんが、あえて大胆に社外に公開することで、逆に社内へのプレゼンスを高める、「これだけ我々は本気なんだ」ということを社内にも伝える役割があったのではないかと考えています。

うまくいった④「鬼トレアクセシビリティ」
うまくいった④「鬼トレアクセシビリティ」

うまくいった推進の取り組み④「鬼トレアクセシビリティ」

嶌田氏:うまくいく取り組みの4つ目は「鬼トレアクセシビリティ」です。
これはエンジニアを対象とした育成活動になります。
アクセシビリティの実装面を1on1でガッツリ深掘りして教えるというものです。

「鬼トレアクセシビリティ」とは何か?

嶌田氏:メンターには私ともう1名アクセシビリティチームのフロントエンドエンジニアの2名が担当しています。トレーニングの内容は人にも寄りますが、概ねAPG(ARIA Authoring Practices Guide)に掲載されている実装パターンを実装していくというものになります。 頻度としては週に1回1時間を、大体半年~1年くらいかけて教え、ひと通りできるようになったら卒業という流れになります。
この取り組みによってアクセシビリティの実装力が高まり、その力を使ってデザイナーとの協業力が上がったと感じます。担当領域ではアクセシビリティに強みを持つエンジニアとして活躍し、頼られる存在へと成長してくれました。

「鬼トレアクセシビリティ」はなぜうまくいったのか?
「鬼トレアクセシビリティ」はなぜうまくいったのか?

嶌田氏:では、なぜうまくいったのか?私の意見を多分に含んでいますが、アクセシビリティに関心がある人の中でも、実際アクセシビリティ上の問題について他の職種の人と協議して仕様を調整していくことができるエンジニアは、実はあまり多くないと思っています。
その要因の一つは、腕力の不足なのではないかと考えています。腕力とはつまり「知識」とか「実装力」のことを指しています。そこでトレーニングを通じてアクセシビリティについて知識と実装の両方の力を獲得していくことで、より良いやり方について考えられるようになり、手持ちの道具が増え、他の職種の人との協働のきっかけが増えることに繋がったと思っています。

うまくいった⑤「セルフブランディング」
うまくいった⑤「セルフブランディング」

うまくいった推進の取り組み⑤「セルフブランディング」

嶌田氏:そして最後、うまくいった取り組みの5つ目は「セルフブランディング」です。これは単純な話で私「嶌田=アクセシビリティの人」であるというイメージ作りのことです。どのようなことをしてきたかというと、とにかくずっとアクセシビリティをやり続けるということに尽きるような気がします。

「セルフブランディング」とは何か?
「セルフブランディング」とは何か?

嶌田氏:社内のドキュメントやSlackをエゴサして、誰かアクセシビリティについて言及をしている人がいないかとパトロールをしています。見つければその言及を拾い上げて対応したり、時にはこちらから議論を仕掛けにいくといったことをしながら、「この人はアクセシビリティに言及するとどこからともなく湧いてくる人なんだ」みたいなイメージをつくっていきました。

これが人を動かすということにどう繋がってくるのか?ということですが、やや間接的ではありますが、アクセシビリティの相談ごとがあると相談窓口よりも先に私に声がかかるようになりました。社内に有志が立ち上げたワーキンググループが作った相談窓口が一応存在しますが、そちらはほとんど使われず、私個人に相談が集まっているというのが現状です。

「セルフブランディング」がなぜうまくいったのか?
「セルフブランディング」がなぜうまくいったのか?

嶌田氏:これは私の方が優れているということが言いたいわけではなく、要するに相談のハードルが下げられているんじゃないかということです。それから、私がプロジェクトチームないし、チームの近くにいるということで、初期段階からアクセシビリティが目標に含まれているプロジェクトが立ち上がることが増えてきました。
「アクセシビリティのあの人がいるから、我々もこのプロジェクトで一つ目標を立ててやってみようよ」という発想になっているのかなと感じています。セルフブランディングがうまくいった要因としては、やはり「時間」かなと思います。いつもやっている、ずっとやっている、そればっかりやっている人、そういうイメージ作りが時間によって形成されたのではないかと思います。

率直に言って私はあまりセルフブランディングが得意なタイプではありませんが、好きなことであれば延々とやれてしまうタイプでもあります。
そのことばかりをやること自体はそんなには苦痛には感じてきませんでした。
ただ、時間を投じる原動力になっているのは、それが好きだという気持ちの部分、熱意の部分だったのかなと思っています。

以上、弊社のアクセシビリティの取り組みの中でうまくいった事例をピックアップしてご紹介してきました。

まとめ:うまくいった取り組みの傾向と対策

嶌田氏:ここからはまとめに入っていこうと思います。
本日ご紹介したこと以外にも入社してからの間に取り組んできたことはたくさんあります。今回は時間の都合上詳しくはお話できませんが、例えばアクセシビリティに取り組んでくれた人を表彰したり、輪読会や情報発信の類もいろいろと試してきました。能動的にプロダクトのアクセシビリティの問題を見つけてそれを担当チームにフィードバックしたり、テスターの人、QA担当の人に最低限のアクセシビリティテストもできるようになってもらうなど、そういった働きかけも細々と行ってきました。

その他の取り組み
その他の取り組み

嶌田氏:そんな中でも、本日ご紹介した5つの取り組みは、特に「人を動かす」という点でも確かな実績をあげたものだったと振り返って思います。
この5つの取り組みと他の取り組みとの違いは一体何だったんだろうか?
もしかすると、これは恣意的な切り取り方になっているのかもしれませんが、あくまでもN=1で、弊社の出来事だということを念頭に置いてまとめてみました。

人を動かした5つの取り組みとポイント
人を動かした5つの取り組みとポイント

嶌田氏:「新入社員研修」と「ユーザーテストの動画を見る会」は知らなかったことを知るという強い衝撃があり、それにより動画を見た人を揺り動かしました。
「アクセシビリティガイドラインの策定」では、大胆にアウトプットして、必要以上に目立つということで、社内へのプレゼンスを高めることができました。
「鬼トレ」では、知識と技術を深いレベルで身に着けていくことで、業務に活かせるようになりました。
「セルフブランディング」は熱い想いを原動力に取り組み続けることで、周囲の人の印象にも残るようになりました。

私なりのまとめとしては、スライド上で強調しているような「強い」とか「大胆」「深い」「熱い」、このあたりが実は「人を動かすキーワード」になっているのではないかということです。
強いワードは強いということなのかなと思います。強い言葉は弱く見えるみたいな言われ方をすることもありますが、強いワードを取っ掛かりにしたアプローチは推進を勢いづける側面があると思います。
私達の事例ではうまくうまくいった取り組みは、強いワード要素のある取り組みでした。これは逆算することもできるように思います。
例えば、啓発コンテンツを作るときには、構成とかコンテンツを工夫して、強く印象に残るようにすると良いかもしれません。
啓発というと、幅広い人に知ってもらうことに重点が置かれがちですが、ターゲットを絞って「深さ」を求めてみると違った形の広がりを生むかもしれません。そして「大胆さ」は本質的ではないように思われますが、時にはスパイスとしてうまく働いてくれることもあるかと思います。

「FEARLESS CHANGE」
「FEARLESS CHANGE」

嶌田氏:そして最後に「熱さ」についてです。書籍からの引用になりますが、アイディアや価値基準を組織に広めるためのパターンがまとめられている『FEARLESS CHANGE』という書籍があります。その中の一節に、「エバンジェリズムこそが成功の必須条件」と書かれています。「情熱のない推進活動はうまくいかない」とも書かれています。48あるパターンのうちの一番最初のパターンとして書かれてます。
とにかくアイディアを組織に広めるためには、熱さや情熱が一番大事であると書いてありました。

「強く・深く・大胆に」アクセシビリティをやっていく!
「強く・深く・大胆に」アクセシビリティをやっていく!

嶌田氏:というわけで「強く・深く・熱く・大胆に」をキーワードに、アクセシビリティにこれからも取り組んでいきたいと考えています。
これで終わりです。ご清聴ありがとうございました。

【登壇者プロフィール】

嶌田 喬行/株式会社LIFULL
ウェブを愛する気持ちを忘れないフロントエンドエンジニア。
受託ウェブ制作会社を経て2020年に株式会社LIFULLに入社し、
フロントエンドとアクセシビリティに関する業務に携わっている。

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