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ドイツの夏休み文化

ドイツ人
「メールで仕事をする時代になるとさぁ。夏休みっていっても2週間くらいしか取れないんだよね、悲しいことに。むかしは夏休みっていったら、3週間が標準的とされていたのに」

僕がむかしドイツで働いていた時。同僚とお昼ご飯を食べに歩きながら、同い年の彼がいまいましい顔をしながら教えてくれた。

時期は何年か前の夏。昨今の夏休み事情について話が及んだ。

3週間の夏休みというのは、学生の場合を言っているのではない。会社員の夏休みが、ドイツでは3週間が標準とされていた。

3週間の夏休み

少し前に僕が投稿した記事で、「ドイツ人は11ヶ月にわたって勤勉に働いて、そこで稼いだお金を使って1ヶ月だけイタリアの太陽を買う」というジョークがあるということを書いた。ここでいう「1ヶ月」というのは、この「3週間が標準」という期間をざっくりと四捨五入して参照している(と思われる)。

多くのドイツの会社では、従業員は年間の休暇が30日与えられる。基本的に全員がフル消化するので、30日=6週間の休暇を持っている。

人によって休暇の取り方がかなり違っているのは確かだけれど、比較的多いパターンは、6~9月のどこかで夏休みとして3週間休む。あとは、それ以外の季節に2週間か、または1週間の休暇を2回。という感じで計5週間を休み、残った5日の休暇は、用事やらなんやらで1日ずつバラバラに取る。でもこれはあくまで一例で、自分たちのライフスタイルに合わせていろんなバリエーションがある。

ドイツ人
「3週間の休暇をみんなが楽しめたのは、のどかな働き方をしていた古き良き時代の話。いまはメールがあるだろ。3週間も会社を休んでいたら、その間にメールが数千件はたまるじゃん。数千件のメールをさばくのに、何日かかることか。ただでさえ毎日忙しいのに、そんなにメールをためてしまったら、よけいに苦しくなる。だから、僕はもう3週間の休暇は取らないよ」

彼は顧客対応部門の課長をしているので、比較的メールの件数が多い。ということもあって、むかしほど長い休暇は取らないようになった、ということだった。

とはいうものの、やはり文化は文化でそう簡単に変わるものではない。僕はドイツでは2社で働いたけれど、いずれの会社でも3週間の休暇を取る人たちはごく普通にたくさんいた。

「休暇」の定義が日本と違う

あと、おもしろいのが「休暇」の定義が日本と違う。

日本だと休暇は「働かない日」を指していて、ドイツだと「休む日」を指している、という違いがあると思う。

何が違うん?と思われるかも知れない。

これの意味することは、「休暇中に風邪をひいたり病気になった場合」の扱いが違うことをみれば理解できる。

ドイツの場合は風邪をひいたり病気になると、休暇を取得するわけではなく「病欠」という扱いになる。3日までなら上司に「病気なので休みます」と言うだけで休める。それ以上休む場合は、医師から病気の診断書をもらえばいくらでも病欠できる。病欠の間は休暇日数は減らない。つまり、あくまでも休暇は「休んでリラックスしたり楽しむための日」と定義していることがわかる。

その定義に基づくと、休暇期間中に風邪をひいたり病気になると、どのように扱うのか?その期間中は休暇にならず病欠になるから、休暇は改めて取り直す。

たとえば僕が実際に経験したケース。同僚が3週間の夏休み期間中に原因不明の熱が出て、2週間くらい床に臥せっていた。となると、何が起こるのか?3週間のうち2週間が病欠となり、休暇としてカウントされるのは1週間だけ。2週間分の病欠期間は「休暇を取り損ねた期間」という扱いになり、別途休暇を追加で取ることになる。彼は3週間の後で続けて2週間の休暇を取ることにしたから、結局は合計で5週間の期間を経てからようやく仕事に復帰してきた、ということもあった。

ということで、この扱いの違いをみれば分かるように、休暇というものが日本では「働かない日」を指していて、ドイツだと「休む日」を指している、ということが理解できる。

メール問題への解決策

このように日本人からみると、特権ともいえるほど優雅な休暇事情のドイツ。ただ最近はメールの普及もあり、さらにグローバル競争にさらされている業種では優雅に長い休暇を取るわけにもいかず、昨今では夏休みが短くなりつつあって、2週間程度の人も増えてきたようだ。

ドイツ人
「でもさ、むかしの同僚で頭いい人がいたんだよ。彼女はいつも4週間の夏休みを取っていたんだけど」

最初のドイツ人同僚との会話に話を戻す。彼がむかし一緒に働いていた同僚についてだった。

ドイツ人
「彼女は、メールの自動応答機能をうまく使ってたんだよ」

メールの自動応答機能とは、自分が休暇を取っているときにメールを送ってきた人に対して、自動的に返信しておく機能。ドイツは日本のように国民の大半が同じ日に休む文化ではなく、自分の意思で選んだ期間に休暇を取って自分のスケジュールをつくる文化だから、自分が休むときには、休暇中と分かるようにメールで自動応答を設定するマナーが定着している。

自動応答のメールは一般的に、「〇月〇日まで不在にします。いただいたメールは戻り次第順次対応していきますのでお待ちください」といったメッセージを記載しておくのが定型になっている。

ドイツ人
「その同僚はさ、夏休み期間中の自動応答の文章に書いてあるんだよ。『私は現在休暇中で、〇月〇日に仕事へ戻ります。その間に受信したメールは全て自動的に削除されます。必要な方は、上記の日以降に改めてメールを送ってください』って。あったまいいだろー。それだと休暇中にメールがたまらない。それに、わざわざ彼女の休暇明けの日まで待って、タイミングを見計らって改めてメールを送る人もそんなにいない。休暇明けから自分のペースで仕事ができるんだよ」

まあ、頭がいいというよりは、度胸がある、と言った方が正しいのでしょう。

by 世界の人に聞いてみた

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