電氣ブラン

「夜は短し歩けよ乙女」という小説があります。
最初にこの小説に出会った頃、私は(おそらく)(それなりに)(夢見がちな)(恥の多い)中学生でした。
そんな中学生があの小説を読んだらどうなるか。私は頭の中で先輩に出会い、黒髪の乙女に出会い、あの夜を歩き、あの古本市を泳ぎ、あの学祭に迷い、あの竜巻に飛ばされ、あの喫茶店を目指したのです。
これが大学生というものなのか。
これが大人というものなのか。
なんて素敵なんだ。

大学生というものに対する実体のない憧れを抱いていたんでしょうね…だって楽しそうだったんだもん…

中でもこの恥の多い中学生が強く惹かれたのがこの作品に出てくる魅力的なお酒の数々。
赤玉ポートワインだとか、三鞭酒だとか、果ては潤肺露とかいうよくわからん薬まで美味そうに見えたんです。

その中でも最も気になる飲み物。
この作品を読んだことがある方ならきっと同意していただけるはず。

「偽電気ブランって、どんだけ美味しいんだろう…」

時は流れ…
私も酒を飲める年齢になりました。
月日も経ちその言葉も忘れた頃、
飲み屋で見つけた酒「電氣ブラン」

胸が高鳴りました。

そういえば私はもう大学生じゃないか。
飲んだことのない酒に懐かしさを覚えるのも変な話ですが、恥の多い中学生の思い出が一気に蘇りました。

旧友と再会したような気分で電氣ブランを一口。


……………ェ

なんだこれ。


思っていた味と全然違うじゃないか。
こんなんを嬉々として飲んでいたのか、黒髪の乙女は。
強い。あまりに強い。


あの頃憧れていた夜はまだ遠い。

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