君は OFFICE CUE を 知っているか ~真夜中の密かな時間~
ほぼワンオペの母親業をこなし、やっと4人の子どもたちを寝かしつける。 末っ子の3男はもちろん母としか寝ない。次男は私の耳たぶをちょしながら寝る。長男長女は勝手に寝てくれるようになってはいたが、寝かしつけと寝落ちはほぼ同意語だった頃の話。
起床とともに始まる格闘は、子どもたちが寝静まるまで手も気も抜けない毎日。唯一自分のためだけに時間を使えるのが、みんなが寝静まったあと、日付変更時前後の2時間ほどだった。どんなにへとへとでもその時間だけは確保したかったけど、なかなか簡単ではなかった。
なんとか布団を抜け出せたラッキーな夜は、やり残した家事をさっさと片付けて、テレビの1メートル前に座椅子を持っていく。社宅の狭いリビングの直ぐ隣の部屋に寝ている子どもたちに聞こえないくらいまで音量をさげて、静かに慎重に缶ビールをあける。自分だけの時間。
その時間に流れているバラエティが大好きだった。探偵ナイトスクープとかねるとんとか、タモリ倶楽部とか。ゴールデンタイムのテレビではあまり観たことないおじさんやら若者やら、露出度ちょい高めなおねえちゃんや、とにかくなんでもいいから一人でテレビを見て笑いたかった。
そんな中、リモコンをパチパチやってる時に見つけた、番組名もわからない北海道ローカルのバラエティーがあった。 イケメンの指のきれいな私と同年代くらいのタレントと、若くて髪の毛もじゃもじゃのよくしゃべるあんちゃんが、顔は映らないけどたぶん相当なおっさんと楽しそうに口喧嘩しながら、ただ車やJRやバスに乗って移動するっていう30分番組。男ばかりの車内で実に軽妙なばかばかしいやり取りがおかしくて、声を殺して笑ってた。
タレントが映らなくて、北海道弁の会話が車のフロントガラスにテロップで流れてたかと思うと、面白い顔をするあんちゃんのどアップ。時にはあんちゃんとおっさんの喋り方がシンクロして、どっちがしゃべってるのかわからなくなる。だって画面にしゃべってる人間が映ってないんだもんな。
そのあんちゃんがじつに面白いことを言うのだ。言葉のチョイスが秀逸なのだ。終わりまでずっとわちゃわちゃしたまま、なんのオチもなく終わってしまうのだけれど、涙が出るほど笑える時間だった。
だからって、毎週楽しみにしてその時間に合わせて起きていることはできなかったので、運が良ければ観られるぞくらいに思っていた。
その番組が『水曜どうでしょう』だった。
天才的なトーク力の持ち主のあんちゃんを他の番組も追いかけるようになって、彼が大泉洋という役者だと知る。
イケオジは鈴井貴之というクリエイティブオフィスキューの社長だった。
この後私は、もう一人子どもを産み、家を建てる。
それからのことは、またいつか。
したっけ
※これは意味がわからん という北海道弁に関しては、コメント欄で質問していただけたら お答えいたします。