ミステリーと言わずしてなんと言う
ねえ
私がどれだけあなたを探していたか知らないでしょ。
あなたが突然私の前から姿を消したあの日から、それはもう血眼になって探したのよ。
何度も同じ扉を開いて、のぞき込んで、手を伸ばして、流れる涙も拭かずに必死にあなたを呼んだのに、あなたは帰って来てはくれなかった。
あの頃、出かけるときはいつも一緒だったわ。
あなたはキラキラした目で私を見てた。
あの輝きは偽物だったの?
出かける準備をする度に私は、胸に手を当ててため息をついて呟いていたの。
「一体どこに行っちゃったの?」
そんな日々に少しは慣れていたある日、
突然あなたは現れた。
まるでかくれんぼで見つけられてしまった最後の一人の子どもみたいに、あの時と同じキラキラのままで。
どうして?
どうしてそんなところに隠れていたの?
私には絶対に見つけられないところで何を思っていたの?
いえ、もういいわ。
戻って来てくれたのだもの。
さあ、三年間の汚れを落としてまた一緒に出掛けましょう。
あなたがいてくれるだけで私は安心できるのよ。
たとえ偽物の輝きだとしても、
あなたは私の宝物。
おかえりなさい。
わたしのお守り。
このネックレスは次男くんが高校の修学旅行でお土産に買ってきてくれたもの。
帰ってすぐにニヤニヤしながら
「これね、本当は5万円するやつを5千円で買ったんだ。」
と小箱を私に手渡した時の彼の自慢気な顔は忘れられない。
5万円が5千円?
なまら怪しいじゃんと思ったが、ありがとうと言って受け取った。
箱の中にあったのは予想通りのイミテーションダイヤモンド(クリスタルでもないただのガラス?)のこのネックレス。
話を聴くと、道頓堀あたりでおっちゃんに声をかけられて
「にいちゃんだけ特別やで。」
と言われ、最初は1万円だったのをがんばって5千円にしてもらったのだと言う。
大阪のおっちゃんよ。
北海道の田舎もんの純粋な若者をだまくらかして5千円巻き上げるなんて
なんてせこい稼ぎしとるんや!
この ボケカス!!
と怒りが込み上げてきたがぐっと飲みこんだ。
喜ぶ私をみてニコニコしている次男くんにそんなことが言えるはずもない。
少ないお小遣いの中で5千円も使ってこれを私のために買ってきてくれたのだ。それを思うとなんだかうれしくて泣きそうになった。
ウルウルしてたことも相まって、とってもきれいに輝いていたそのネックレスを、お出かけするときに必ず身に着けるねと約束した。
ずっとお守りの様に長距離運転をするときに身に着けていたのに三年前のある日、ネックレスがないことに気付いた。
いつも鏡台の引き出しの箱の中に入れていたはずなのに、ない。
引き出しをひっくり返して探したが、ない。
カバンもジャケットも全部探したけど見つからなかった。
いったいいつなくしたんだ?
最後に着けたのはいつだ?
思い出したのは
白老のウポポイの開業記念のシゲちゃんとモリのトークショーに次男くんと行った時。
急な告知だったのに付き合ってくれた次男くんに
「これ憶えてる?」 とネックレスを見せた。
彼は
「まだ持ってたの?」
と言って笑った。
記憶にあるのはそれが最後だった。
出かける準備をする度に鏡の中の自分に、どこにやっちゃったんだよ と呟いていたが、そんなこともなくなってきたつい先日。
休日の三男くんが
「これ、なんだべ?」
と、久しぶりにはいたジャージのポケットから取り出したものを私に見せた。
手に取ってみたその光るもの。
こ、これは
次男くんのネックレスじゃないかぁ!!!
いやなんで?
なんで三男くんのたんすに入ってたの?
しかもめったにはかないジャージのポケットの奥深くに。
ネックレスは自分じゃ動けないよね?
絶対誰かがポケットに入れたんだよね?
私?
いやー全く記憶がない。
三男くんもネックレスを認識したのはその時が初めてだと言う。
じゃあいったい誰が?
謎だ。
ミステリーだ。
とにかく私のもとに帰って来てくれたネックレスを、きれいに磨き上げて写真を撮った。
もう、絶対に無くさないからねと言いながら箱にしまって、引き出しを閉めた。
それにしても
わからん。
すべてがわからん。
どなたか
このミステリーを解いていただけませんか?
したっけ