「質的研究のデザイン」のお勉強
なぜ「質的研究」か
「質的研究」についての入門書を読んでいる。これから取り組もうとしている研究が、どうも量的研究で明らかにすることが難しそうだからだ。それは、演繹的方法(既存の理論モデルから研究の設問と仮説を導出して、それに実証データを用いて検証する方法)、つまり「私の仮説はこうです、データを取ってみたらそれが証明できました」にはハマらなそうなのと、何よりそっちの方がおもしろそうだから。
問題を大まかに示す「感受概念」から出発し、調査をしてみたら理論が作られた、という方がデータをぶん回すよりおもしろそうと思えてならないのだ。
ただし、インタビューや観察記録から自分に都合の良さそうな部分を抜き出して、組み合わせたものでは研究として充分なものとは言えないという批判もある。「どのような基準を用いて質的研究の手続きと結果を適切に評価できるのか」「どの程度まで研究結果は一般化されるのか、またどのように一般化が保証されるのか」という問いに対して答えられるようにしておかなければならない。そのあたりを本格的に研究をスタートする前に固めておかなければならない。
質的研究をデザインする
ウヴェ・フリック著『質的研究のデザイン』によると質的研究をデザインするプロセスはこうだ。
① 質的研究の基本デザインを構造化する。
状態の記述や、プロセス分析を行うに際し、「遡及的研究や縦断的研究といった時間的志向の研究か、一時点を志向するスナップショット的研究か」「事例研究なのか、比較研究なのか」をプロットする。事例研究には人もあれば、組織もある。
② 構造化した基本デザインに適した質的な手法を検討する。
例えばエスノグラフィーは事例研究か比較研究を伴うスナップショットと縦断的研究の間に位置し、インタビューはほとんど全てのデザインに使用できる。ディスコース分析は事例研究デザインにしばしば結びつき、フォーカルグループは比較の視点でのスナップショットに適する。
③ 研究計画書を書く
デザインをどのように計画書に変換するか。
そして特に研究計画書に変換するにあたって重要なこととして、下記を指摘している。
・研究のデザインと手法をできるだけ詳しく、明瞭、明確にする。
・リサーチクエスチョンと、その解明に役立つ期待されるデータと結果。
・研究に期待される結果と示唆は、学問的文脈と実際的文脈の下に置かれること。
・なぜその手法を採用したのかについての明確な説明。
う〜む、基本デザインからスタートしていることは感受概念っぽいんだけど、やっぱり研究計画は重要だよね。ということで、自分の関心領域をフリックの本に従ってラフだけど落とし込んで見る。
自分が知りたいこと
① 現在までの文献と、文献内の空白
ビジネスにおけるデザインの意義を明らかにし、それらを企業や組織において活用することが「デザインマネジメント」であるが、現在は先進的な事例紹介に基づく考察がほとんどである。デザインの組織への浸透度合いを示す「デザイン・ラダー」や、マネジメントモデルの進化とデザインに求められる価値の推移を表した「デザインマネジメント・モデル」の定義もあるが、組織への浸透やマネジメントモデルの進化がどのように起こるのか、そのメカニズムについては解明されていない。
② 研究の関心事
「デザイン・ラダー」の第2段階として「製品意匠としてのデザイン」があり、第3段階に「プロセスとしてのデザイン」、第4段階に「戦略としてのデザイン」が位置づけられている。では、意匠そのものが重要とも言えるファションビジネスにおいては、マネジメント・モデルはどのように構築されているのだろうか。国内アパレル産業の停滞はデザイン・ラダーの踊り場にいるままだからなのだろうか。ファッションデザイナーをはじめとしたプロフェッショナルデザイナーの認識はどうなのだろうか。
③ 研究の目的
デザインマネジメントの進化のメカニズムを解明すること。
経営資源としてのデザイン活用に寄与すること。
④ リサーチクエスチョン
メーカーはいかにして商品企画力をつければコモディティから脱却できるのか(もしくは、なぜコモディティから脱却できないのか)。
「製品意匠としてのデザイン」からデザイン・ラダーを上がるための要件は何か。
⑤ 質的研究の特徴とそれが適切である理由
組織やプロフェッショナルデザイナー、非デザイナーの「デザイン」に対する認識、言葉の使い方が企画力に関係しているとすれば、その認識がどのように形成されてきたのかが重要だと考えられる。その調査にあたってはインタビューやエスノグラフィ調査が適切と考える。
⑥ 研究デザイン
組織や人の事例研究をしたうえで、組織や人を産業や出身から比較する比較研究。
スナップショットを基本に、展開やプロセスを振り返る遡及的研究。
こんな感じかな。有り体に言うと、プロのデザイナーがデザインという概念をどう認識しているのかが知りたい。スタイルやディテールなのか、それとも製品を通して人や社会を調和させようとしているのか。その人たちが所属する組織も、デザインをどう認識し、どのように活用しようと思っているのか知りたい。単に差別化要素としての色や形なのか、それとも理念に紐づいて社会に寄与しようとしているのか。
そしてファッションビジネスの世界と、他の業界(例えば消費財)の世界とで認識が違うのかも知りたいし、違ったとしたらそうなった理由も知りたい。もしかしたらその違いが「アパレルは死んだ」とか言われていることの深淵かもしれないし、「正しく」デザインを活用している企業はするのかもしれない。
その「正しさ」とは「美しさ」であり、プロフェッショナルデザイナーでも非デザイナーでも美しい考えを持っているところが永続する、と言うのが現段階での僕のイメージで、その辺を質的分析で引き出すことができて、一般化(理論化)できないかなぁというのがやりたいことなのです。
そのためにも今までの研究や理論を体系的に整理することと、研究デザインの具体化を進めていきたいと思います。そのあたりを今後も徒然と書いていきたいと思います。