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夕暮れ時にゆっくり読みたい物語たち

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#超短編小説

傘は持っている

傘は持っている

土砂降りだし、弱音吐いていい?

そういう言い訳みたいな逃げ道をつくるような言葉が嫌いで、弱音や本音やその前置きすら何も言えなくて、黙って自動販売機に小銭を入れた。無意識に選んだ微糖のホットコーヒー。何故だかとてもカフェインが欲しかった。欲しくて欲しくて手に入れた缶コーヒーって、本来の価値よりもなんだか重くて窮屈だ。自動販売機の飲み物なんて、覚えていないくらいが丁度良い。楽しかった飲み会の後、満足

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今夜さよならに一歩近づく

今夜さよならに一歩近づく

数分前に何と言ったかすら覚えていないけれど、特に届けたい言葉でもなかったし相手に振り向いて欲しかっただけだから、喉から甘い声を出したことだけが確かだ。小手先の甘い声は耳にべたっとはりつくから煩わしいのに、私は気付いたらそういう声を出している。

寒さをしのぐための寄り添いで良かった。眠れない夜に息をひそめて隣にいるだけで良かった。それ以上はいらなくて、だってそれ以上になればもっと難しいことを沢山考

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