ヤクルト再生工場2024 #2 西川遥輝という男
皆さんこんにちは。ちゃそぴです。
今回も僕の贔屓球団である東京ヤクルトスワローズが戦力外から獲得した選手についての基本情報と、データや選手個々のエピソードにおいて面白い情報を共有していく「ヤクルト再生工場2024」を更新していきたいと思います。
第二弾は日本ハム時代に俊足巧打なトップバッターとして輝かしい実績を残し、その端正な顔立ちからファンの名称が"ハルキスト"と定着されるほどに今も根強い人気を誇っているものの、ポスティングの失敗や世間を賑わせたノンテンダーの対象となりプロ野球人生の酸いも甘いも経験してきた西川遥輝選手について紹介していきたいと思います。なおデータはnf3 - Baseball Data House - とプロ野球データFreakを参考にしております。
基本情報と実績、役割
「プロ野球にそこまで詳しくないけど名前は知っている」人も多いのではないでしょうか。そんな彼をまさか戦力外で獲得するとは思いませんでしたし非常に驚きました。当初は正直何となくヤクルトカラーは合わないのではと思った所もありましたしね。
通算成績で言うとプロ12年で1370試合出場、打率.274、出塁率.375、OPS.756、332盗塁(失敗64)という輝かしい実績を持っております。特に332盗塁は現役選手では1位であり(歴代通算記録でも23位)、盗塁成功率は脅威の83.8%(通算盗塁記録1位の福本豊氏は78.1%)と、1942年以降の記録として現在もトップの座に君臨しており、球界のスピードキングとして名を馳せています。また楽天入団後には臨時走塁コーチに任命され後輩たちへ走塁指導を行ったところ、チーム盗塁数を21年の45個(パ・リーグ最少)から22年に97個(リーグ3位)、23年には102個(リーグ1位)と倍増させ、足を絡めた幅広い戦略を作り出した事に貢献しました。今季のヤクルトの盗塁数は62個とリーグ3位の数字ですが、やはり戦術において引き出しを増やすには楽天の戦術事情に革命を起こした西川選手の存在が必要になるでしょう。ヤクルトには塩見泰隆選手を筆頭に並木秀尊選手、丸山和郁選手や山崎晃大朗選手などと言った俊足自慢の選手もいれば、レギュラークラスですが走塁面に課題のある長岡秀樹選手もいます。指導力があるのは間違いないですし、これが彼らの成績に直結すればこれだけでも獲得した価値があると言えるでしょう。
打順としては球界一である俊足と高い出塁率を生かした1番起用がベストだと思います。塩見選手には一発もありますし調子によってフレキシブルに打順を構成できるかもしれません。ただし西川選手は近年フォーシームへの対応力が悪くなっており、移籍前の21年には対フォーシームの打率が.278(237-66)だったものの、楽天移籍後の22年は.221(195-43)、23年は.231(39-9)と低空飛行となっております。しかし本格派が揃うパ・リーグに比べ技巧派の多いセ・リーグでは、データが少ない事もあって西川選手も対応力を見せてくれると思います。また今季のイースタンでは63試合に出場して.369(179-66)、8盗塁、出塁率.493、OPS1.069と高成績。31歳と老け込むにはまだ早い年齢ですし、まずは長期間1軍に帯同して持続させる事で存在感を示してほしいと思います。
またヤクルトには西川選手と仲良しである山田哲人選手を始め、通算打率.315である大ベテラン青木宣親選手、助言にも定評がある天才・川端慎吾選手が在籍しており、打撃好調のきっかけを作りやすい環境である事も西川選手にとって大きなプラスになるでしょう。
素行面ってどうなの?
おそらくヤクルトファンの9割型が気にしているのではないでしょうか。最近では元楽天・安樂智大氏の在籍当時の一連の振舞いが複数の現役選手により告発され、球界に波紋を呼んでいます。
獲得した上で一番の懸念点とも言えますが、基本的にヤクルトは在籍中も特にトラブルを起こすというケースは少なく、むしろ素行の悪い選手を再生する力をも持っています。例えば日本人選手に限って言うと、
と獲得前の疑念は杞憂に終わっています。外国人選手においても前評判の悪かったミレッジやトラブルメーカーであったバレンティンも何だかんだでチームに溶け込んでいましたし、もっと言うと今では超優良助っ人であるホセ・オスナ選手も獲得直後はPIT時代に乱闘に参加して出場停止処分を食らった過去があり素行を疑われていました。
また23年1月に文春砲を受けた市川悠太氏に関しては、1軍で4試合(うち3試合先発)に登板したものの今季オフに戦力外通告を受けています。慢性的な投手不足であり2001(00)年生まれで育成再契約の打診も無かったのはこの報道も少なからず影響している可能性があり、野球界隈ではそこまで話題にならなかったものの球団が素行に対して非常にシビアな姿勢であることが伺えます。
さらに言えば、西川選手が素行不良と言われている代表例として日ハム時代の鶴岡慎也選手(当時)との動画が不仲説として当時SNSで話題になりましたが、鶴岡氏本人は一種のコミュニケーションと完全否定しています。また万波中正選手への人種差別発言問題では犯人として取り上げられていましたが、確定情報ではありません。ただ怠慢守備に関しては楽天時代でも所々見られたのでそこは何とかしてほしいですが。
SNS時代になるとどうしても事実無根である話題が「火のない所に煙は立たぬ」という考えが浸透してこういった情報が飛び出してくると槍玉に挙げられがちですが、こういう時代だからこそ正しい情報を見極めて憶測で物事を確定させないように気を付けていきたいものですね。
華々しい栄光と挫折
西川選手は小学1年生から野球を始め、後輩にはあの(あの?)山崎晃大朗選手がいます。中学時代に全国優勝を経験すると、智弁和歌山高校に入学し遊撃手として1年から春の甲子園に出場して4本塁打と大活躍を果たします。2年生には右翼手へ転向。ケガによる不調こそありましたが、ここぞの場面でタイムリーを放つ勝負強さを発揮しました。2010年のドラフト会議では日本ハムから2位指名を受け、プロの世界を叩きました。
西川選手がブレイクするきっかけとなったのは2012年に栗山英樹氏が監督に就任してからの話です。栗山監督に期待の目を向かれていた西川選手はオープン戦から結果を残し開幕1軍スタート。初めての出場は代走起用から始まり、2日後の試合ではプロ初盗塁を決めました。代打としてもプロ初本塁打やタイムリーを放つなど存在感を発揮し、71試合に出場して.239、2本、13打点、7盗塁、OPS.654とまずまずの成績を残しました。
大ブレイクを果たしたのは14年のこと。143試合に出場して.265、8本、57打点の当時キャリアハイをマークし、盗塁数は43個を記録して自身初のタイトルとなる最多盗塁を獲得。その後もケガで長期離脱する事なく試合に出続け16年にはシーズン3割(.314)と自身初となる外野手部門のベストナインを獲得しリーグ優勝と日本一に貢献。自身も24歳ながら1億円プレイヤーの仲間入りとなりました。そして翌17年〜20年には4年連続でゴールデングラブ賞を獲得し順風満帆なプロ野球人生を歩んでいました。ファイターズの地元北海道では一時期「週刊ナンバー7〜西川遥輝〜」というテレビ番組まで放送され、日本ハムの中心選手として長年支えてきました。
そんな西川選手は19年オフにポスティングシステムを用いたMLB挑戦を表明します。20年でも打率.306、42盗塁、OPS.825と十分すぎる成績を残し彼は満を持してMLBへ挑戦する事となります。
が、期限までにポスティングが成立されなかった為に日本ハムに残留する事に。現地ではあまり評価が高くなかったらしく、「ベンチレベルの選手」「ゴールデングラブ賞の割にはUZRが低い」「パワーが無い」と酷評の嵐。また当時コロナ禍だった事で各球団が大幅に減収となっていたのも向かい風となり、ポスティング不成立という結果に終わってしまいました。日ハムに残留することになった西川遥輝選手は会見で「人生で味わったことのない挫折」と語っていましたが、これが彼にとって大きな試練を迎える事になります。
”ノンテンダー”により北海道から東北の地へ
モチベーションを失った西川遥輝選手は21年シーズン、ケガなく試合に出続け相変わらず持ち前の高い出塁率を残し(.362)盗塁数も24個を記録して4回目となる最多盗塁を獲得したものの、打率は.233と低迷しチームも5位に沈んで日ハムファンから批判を受けました。しかし1年のみの不調はプロ野球選手ではよくある話。来季の復活に期待が掛かるのが本来の流れですが、ここでも西川選手に試練が訪れます。
ノンテンダーの対象とされ、大田泰示選手(現DeNA)や秋吉亮選手とともに日本ハムを自由契約にされたのです。
つまり、年俸に見合わない選手を対象に来季以降の契約を締結しないという事です。入退団の多いMLBではよくある話です。
戦力外とは違い球団側から再契約を行う事も可能ですが、形式上では実質戦力外という扱いであり、仮に再契約を結んだ場合でも大幅減俸となるシステムです。企業でいうコスト削減と同義ですね。この背景には日本ハムが元々高年俸の貢献選手に対する査定が辛い事や、当時の本拠地であった札幌ドームとの支払問題による資金難であった事が伺えます。
しかしこの日本ハムによる前代未聞の行動には物議を醸し、「選手としての価値を下げる」という見解で選手会は抗議文を提出する事に。結果として日本ハムは後日謝罪文を提出しこの一件は収まりましたが、西川選手はこれを受けて楽天に移籍する事となります。
楽天移籍後の変化
楽天への入団会見にて西川選手は「もしかしたら野球ができなくなるのではとネガティブな考えにもなったりしていた」と語っており、相当精神的に参っていたと推測できます。
本拠地が変わり心機一転したのか西川選手は、前述の通り入団してまもない春季キャンプにて佐竹外野守備走塁コーチ(当時)から臨時走塁コーチに指名され、若手(田中和基選手、辰己涼介選手など)に走塁の意識改革について若手に伝授すると、チーム盗塁数を倍以上とさせる事に成功させました。結果的に、
と上位3選手は22年に大幅に盗塁数を増やし、特に23年には2ケタ盗塁達成者が5人も輩出されました。佐竹学氏は次のように語っています。
もちろん佐竹氏による力もありますが、西川選手の指導により大きく盗塁数を増やしたのは確かです。また後輩へ気遣いが行われていたエピソードもあります。
日ハム時代にオラオラ系と言われていた西川選手は鳴りを潜め、移籍後は後輩へ技術指導を行う生ける教科書として存在感を示し、人間的に成長を遂げたと思います。今季楽天を戦力外となってしまいましたが、第三の新天地となるヤクルトでもこういった関係が生まれると良いですね。
前評判から疑いの目で見られやすい西川遥輝選手ですが、楽天時代を通じて頼られる存在となりチーム実績で結果を残しました。しかし彼自身の成績は伸び悩み今まさに崖っぷち。かつて北の大地を湧かせたスター選手が神宮で躍動し復活を遂げる事が出来るのか見ものです。西川選手の活躍に期待しています!
今回も長くなりましたが、最後までお読みいただきありがとうございました!
出典
・鶴岡慎也 Shinya Tsuruoka - X(旧:Twitter)(2021年12月23日)
・「買い手なしは驚きではない」「ベンチレベルの選手」ポスティング不成立の西川遥輝に現地メディアは冷静な声 - THE DIGEST(2021年1月3日)
・日本ハム発表の「ノンテンダー」って何? 西川、秋吉、大田を“市場に放出 - Full-Count(2021年11月16日)
・西川 遥輝選手 入団基本合意に関して - 東北楽天ゴールデンイーグルス公式サイト(2021年12月22日)
・【楽天】西川遥輝が臨時走塁コーチ、若手に経験を伝授 - スポーツ報知(2022年2月4日)
・【楽天】イーグルス必見仕事人(4)佐竹学コーチ…盗塁数が1年で倍増した秘密とはー - スポーツ報知(2022年11月26日)
・【楽天】戦力外となった西川遥輝が1軍未経験の辰見鴻之介に残した“最後の贈り物” - スポーツ報知(2023年11月11日)