”おやつ”ほど甘くない!?フードテックが”toC”でカスタマーサクセスに取り組んだら【CS HACK#38 レポート】
普段Webサービスを作っていると「リアルな物品のオペレーション」って、イメージがつきづらいもの。特に食品は、安全性の担保や在庫管理など、難易度が高いイメージを持つのではないでしょうか。
今回は登壇いただいたのは株式会社スナックミーのCo-Founder,COOの三田村さんです。同社はお菓子のサブスクサービス「snaq.me (スナックミー)」を提供。食品を扱う「フードテック」領域のサービスならではの難しさを伺います。
また、BtoCのサブスクにおけるカスタマーサクセスの取り組みについてもお話しいただきました。
<ゲスト登壇者>
三田村健一さん
<主催・司会>
カスタマーサポート エバンジェリスト
藤本 大輔
カスタマイズ、需要予測…スナックミーが活用しているテクノロジーとは?
スナックミー(snaq.me)は、人工添加物などを使用しない、安心安全でカラダに優しい、そして美味しいおやつをユーザーの好みにカスタマイズしてお届けするサブスクリプションサービスです。
フードテック領域に属するスナックミー。サービスに取り入れているテクノロジーで代表的なものとして以下の3つを挙げました。
・カスタマイズ
・商品開発
・需要予測
まずカスタマイズについて。
三田村:サブスクリプションで何か商品をお送りするモデルだと、「今月はこの商品ですよ」と皆さんに同じものが届くのが一般的だったのではないかと思います。でも、食の好みは人によって複雑。お菓子が届いたのに苦手な物が入っていたら、チャーンのきっかけになってしまいます。なので、最初から個別に最適化していく方針を立てました。
カスタマイズは「アンケート」「リクエスト」「(届けたお菓子への)評価」の3つを元にしています。
最初はアンケートで、食生活の傾向や好み、こだわりを聞きます。「お酒を飲みますか」「避けたい成分はありますか」といった質問内容です。
リクエストでは、表示される商品の中でほしいものに「ハートマーク」を付けられるようになっています。ハートマークを付けたものは、遅くとも2ヵ月後にはユーザーに届けられます。
評価については、届いた商品に対して「大好き、好き、普通、苦手」の4段階でユーザーに評価してもらい、以降のカスタマイズにつなげます。「大好き」だったら「来月も届けましょうか」、「苦手」だったら「何が苦手でしたか」とそれぞれポップアップを出すような施策も。
好き嫌いをデータとして蓄積していくことで、評価をすればするほど好みに合うものが届くようしています。
三田村:ユーザーさんにも「評価すればするほど自分好みのお菓子が届く」と周知していて、現状の評価率は50~60%程度になっています。継続ユーザーからは「私の好みに合うものばかり届いてうれしい」といった口コミも多く、長期継続に繋がる重要な要因になっていますね。
2つ目に挙がった「商品開発」ですが、顧客からの評価データを分析し、実際の商品開発につなげているそうです。
三田村:商品開発というと、勘やセンスで商品を作るイメージもあるかもしれません。しかし我々はあまりセンスとかは信じてないというか、それよりも「必要なのはデータだろう」と。評価データを蓄積して、商品の改良、開発に活かしています。
データを駆使し、Webサービスを作るかのように商品を作るのがモットーと語る三田村さん。
評価データを元に開発した商品の例として紹介されたのが「クリアバー(CLR BAR)」です。ユーザーからの評価から「植物性由来の商品を求めている人が多い」ことがわかったため、植物由来の原料のみ、添加物などを使わないシンプルなプロテインバーを開発しました。
さらに、評価を使って「おやつのA/Bテスト」をすることも!
三田村:同じ商品でも、ちょっと原料の割合や味の濃さを変えたりして、ぞれぞれ100人のお客さんにお届けして評価がどう違ったかなどを日々研究をしています。Bの方が評価が高いから残りはBと同じレシピで生産しようと。
リアルな品物をA/Bテストするというのは意外な感じもしますが、そうやってターゲットの好みを理解していくことで、より愛される商品の開発に繋がるんですね。
3つ目は「需要予測」です。食品には賞味期限がありますから、作りすぎてしまったら当然ロスが出てしまいます。とはいえロスを避けるために生産量を抑えれば足りなくなり、販売機会を逃してしまう。こういった「もったいない」を無くすためにあるのが需要予測なのです。
三田村:サブスクリプションは「先に販売する」のが特徴。理論上は、受注生産のようにロスが出ない製造販売が可能なんですよね。これを現実のものにするために、エンジニアが複雑なアルゴリズムを組んで需要を予測をしています。
新規流入者数、解約数、スキップ率(次回のおやつのお届けをお休みできる制度)などは、これまで蓄積してきたデータを元に、ある程度予測できるのだそう。正確な需要予測を元に商品を生産していくことで、ロスの削減に取り組んでいます。
三田村:ロスが出るのはもちろんコスト的にも痛いのですが、それ以上に精神的にしんどいんですよね。フードロス削減という風潮もあるし、せっかくパートナーさんが作ってくれたのに捨てないといけないっていうのは辛い。社員のモチベーションや精神的なショックを考えると、需要予測を強化していって、できるだけロスを減らしていきたいなと思います。
短期に効く施策と中長期に効く施策、バランスが大切
BtoCのカスタマーサクセスについては、「短期的な解約防止」と「中長期的な満足度向上」に分けてお話しいただきました。
三田村:チャーンレートを下げる方法は、2つアプローチがあると思っています。1つが満足度を上げていく施策、もう1つが止血と僕等は呼んでいるんですけど、短期的に解約を防いでいくようなものです。
三田村:中長期的にサービスの価値を高めて「このサービスがないとダメ」という状態になってもらうのが理想。ただ一方で、今チャーンしている、血が流れているところをとめる止血も必要でして。これは「やめづらくする」という意味合いになるかなと思います。
C向けのサービスでたまに出会うのが、「解約方法が複雑すぎてわからない」ケース。結果として解約率が下がるという話を聞いたことがあるではないでしょうか。これはあまりに本質的ではない施策ですが、スナックミーでも「解約しようとしているユーザーをどう引き止めるか」という観点の施策は打っています。
三田村:退会導線を再設計しまして、今までは1クリックですぐに退会できたんですが、今は1回クリックした後に作り手さんの顔を出しています。こうすると、「やめるのやめようかな」と少し思ってもらえると。これはかなりずるいかもしれませんが(笑)、私たちの思いを最後に伝えているという感じです。
スナックミーのCSの取り組みとして特徴的なのが、アウトバウンドでのサポートが多いことです。
止血のための取り組みの一環として、お届けしたお菓子への評価が低かったユーザーに対して、運営側から「ピスタチオは苦手だったんですね>< どんなものがお好きでしょうか?」というように、個別に最適化したメッセージをLINEで送ります。LINEという気軽にやりとりできる手段を使うことで、不満があったときも駆け込み寺的にメッセージを送ってもらえるそうです。
ほかにも、こんな印象的だったエピソードを紹介してくれました。
三田村:特に初期段階で、食べられないおやつが届いてしまったユーザーにはその分ポイントを付与する仕組みにしました。実質的な返金に近いもので、こうすることでユーザーのストレスは軽減できるのではないかと。
でも、退会された方を含めてインタビューをする中でわかったのが、「経済的損失より、お菓子を捨てなきゃいけない心理的負担のほうがストレスが大きい」ということ。ポイントはもらえるけど、目の前にあるお菓子をどうすればいいの?と。「こんな風に食べ物を捨てなきゃいけないなら、もう止めます」って思ってしまうんですね。
そこで新たに、返品できる仕組みを整備。初期段階のユーザーには返信用封筒を同封し、食べられないものは、スナックミーが送料を負担して返送できるようにしました。
三田村:わりと毎日ですね、それなりの量のおやつが戻ってきて担当者が大変な思いをしてるんですけども、これによってチャーンレートは抑えられました。いい「止血」施策だったんじゃないかと思っています。
こういった「今起こっているチャーンをすぐに止めに行く」施策は短期的に効果が出やすく、重要です。しかし、そういった施策ばかりに目がいってしまってはダメだと三田村さんは言います。
三田村:止血系の施策はわりとテクニックであって、本質的ではないものもある。こればかりをやってると、小手先に走るチームになってしまうリスクがあります。なにより、だんだん楽しくなくなってくる。サービスそのものの価値を高めて、長期的に満足度の高いプロダクトを育てる施策も常に走らせないといけないと思っています。
満足度を高めるための取り組みとして、スナックミーにとってなによりも重要なのが、魅力的な新商品をどんどん開発していくこと。常時100種類ほどある商品ですが、毎月10~30種類が入れ替わるほど、スピード感を持って商品開発をしています。ほかにもオフ会の開催やUI変更など、多くの施策を試しているそうです。
三田村:効いた施策、効かなかった施策、たくさんあるんですが、基本的にはユーザーインタビューからヒントを得て、アクションプランを立てて、1個ずつ検証。満足度向上系の施策はどれが効いたのか因果関係がつかみにくい部分があるので、いくつかの指標をトータルで評価しています。まだまだ道半ばなので、いいアイデアがあったら逆に教えてほしいですね(笑)。
最後に本質的な部分でユーザーへの提供価値を高めていくことの重要性を強調し、三田村さんのプレゼンは幕を閉じました。
BtoC、かつ衛生面、在庫管理などハードルが高そうなフード領域に属するスナックミー。BtoBと比較すると情報が少ないBtoCのカスタマーサクセスの事例は、多くの参加者の参考になったようです。
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