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【CS HACK#34イベントレポート】日本のCSの現在とこれから。カスタマーサクセス浸透に向けた壁をどう乗り越えるか

売り切り型からサブスクリプション型へ――
ここ数年のトレンドとともに、CS(カスタマーサクセス)の重要度も高まっています。とはいえ実際に導入・実践する企業はまだまだ多くはなく、これから浸透していく段階にあると言えるでしょう。

今回のイベントでは、日本にCSを広めた第一人者であるバーチャレクス・コンサルティング株式会社の森田さん、サブスクリプション型SaaSツールを提供する企業で実際にCSに取り組む岩熊さん、小林さんを登壇者としてお迎えしました。CSを推進するときに現れる壁と、実践者としてそういった壁にどう向き合ってきたか、プレゼンテーションとトークセッションの模様をお届けします!

<ゲスト登壇者>

バーチャレクス・コンサルティング株式会社 執行役員
ビジネスインキュベーション&コンサルティング部長
森田 智史さん

<トークセッション登壇者>

弁護士ドットコム株式会社 クラウドサイン事業部Head of Customer Success
岩熊 勇斗さん

ベルフェイス株式会社 インサイドセールス支援事業部カスタマーサクセスマーケティングチーム マネージャー
小林 泰己さん

<主催・モデレーター>
カスタマーサポート エバンジェリスト
藤本 大輔さん 

CSの認知度と、日本企業が直面するであろう4つの壁

森田さんのプレゼンテーションでは、バーチャレクス・コンサルティング株式会社と企業向けサービスのレビューサイト「ITreview」を運営するアイティクラウド株式会社が共同で行った調査の結果を元に、日本におけるCSの現状や今後の展望をお話しいただきました。

■調査結果:CSの認知度やつまづくポイント

日本におけるCS(カスタマーサクセス)の市場は確実に伸びており、求人件数も9.2倍に増加しています。しかしながら、CSを認知しているのは約14%、そのなかで「よく知っている」人は約3%とまだまだ低く、一部の先進的な企業が取り入れているのが実情の様子。

企業がCSを立ち上げようとする際に最初に直面するのが、人材不足という問題です。そもそも人が採れなかったり足りなかったりというのは多くの企業が悩むところでしょう。
また、「何から始めればいいのかわからない」という課題を抱える企業も多いようです。

森田:CSの重要性を認識し取り組み始めた企業は、最初に人材不足だったり、どこから手を付ければいいかわからないという課題に直面します。しかしながら、取り組んでいくうちに最初の壁を突破できた約6~7割ほどの企業は、その効果を実感しています。
そして効果を感じるとより顧客の声を聞き、製品に取り入れ、成長していく好循環に入れます。

効果を感じる企業が出てきている一方で、森田さんは日本にCSが浸透していくには、4つの壁があると指摘します。

CS浸透に向けた壁①:サブスクリプション化の壁

1つ目は「サブスクリプション化の壁」です。CSは、SaaSの浸透、あらゆるサービスのサブスクリプション化の中で重要度が高まっています。しかし、「売り切り型からサブスク型へ」といった表面的な認識は、CSが広がっていく上での壁になるそう。

森田:サブスクリプションという料金体系自体は昔からありました。ただ、今市場で起こっているのは「消費者を中心に据えたビジネスモデルへの変革」です。製品ありきの売り切り型から、ユーザーありきのサブスクリプション型へ。企業は、その本質を捉えなければいけません

CSは、サブスクリプションモデルのビジネスであることが前提になります。そしてそこには、モデルを変えるだけでなく、考え方や視点の変化も求められるのです。森田さん曰く、このビジネスモデルの変革でつまづく企業は多いそう。企業がCSを取り入れて成長するためには、まずサブスクリプションビジネスを理解し、それからCSへの理解を深めていかなければなりません。

CS浸透に向けた壁②:ハイタッチ至上主義の壁

2つ目の壁として挙げられたのが「ハイタッチ至上主義」。森田さんは、CSがすでに浸透しているアメリカと比較して日本はロータッチ・テックタッチのハードルが高く、ハイタッチが求められがちだと言います。

森田:ハイタッチは重要ですが、全てをハイタッチでやりきるのは、人材・コスト観点で非現実的です。デジタル・データファーストに向き合い、ロータッチ・テックタッチを適切に組み合わせていかなくてはなりません。

CS浸透に向けた壁③:代理店モデルの壁

日本では、多くのベンダーが代理店経由での販売を盛んに行っていますが、これもCS浸透の壁の一つになり得るそう。代理店を挟むことで顧客の声を聞けず、ニーズを捉えたサポートや迅速なサービス改善ができないというのは、実は多くのベンダーが抱えている課題です。その点、グローバルなSaaSベンダーの多くは、国内外問わず直販に注力しています。

森田:代理店モデルに頼ることで、エンドユーザーとの間に断絶が生まれてしまいます。CSには顧客との直接のやりとりが欠かせないため、場合によっては販売チャネルの選択も必要になるでしょう。

森田さんは、代理店モデルが盛んな日本で、協業関係を維持しながらCSに取り組むための4つのモデルを提示します。こういったモデルから現実的なものを選んで取り組んでいくのも有効でしょう。

また、顧客と直接やりとりする以外にも、その声を拾う方法ができるのではないかという予想も。

森田:アメリカでは、ビジネス向けサービスのレビューサイトが盛んに使われており、ベンダーはそれらを顧客の声を拾うために活用しています。
日本でもこういったレビューサイトが徐々に浸透するのではないでしょうか。そうなれば、顧客のネガティブな声を放置することが企業にとってのリスクとなるため、顧客の声をサービスにフィードバックしていく流れが加速するはずです。

ベンダーは、こういった環境の変化への対応も求められます。たとえエンドクライアント向けのCSを内製しないとしても、顧客の声をサービスにフィードバックする仕組みは必要不可欠になるでしょう。

CS浸透に向けた壁④:おもてなし文化の壁

森田:こういった高い要求レベルをクリアするために、まずは顧客のサクセスとはどのような状態なのかを定義することが重要。その上で、まずは日頃の不満をゼロにする対応、それから顧客の期待を上回る対応をしていく。この順番を間違えてはいけません。

一方で、高いサービスレベルを誇る日本のCSは、世界から期待されているのも事実だと森田さんは言います。今後日本でどのようにCSが発展していくか、楽しみですね。

実践者が語るCSの立ち上げから評価まで。クラウドサイン、ベルフェイスのケース

イベントの第二部では、CS実践者であるクラウドサインの岩熊さん、ベルフェイスの小林さんの両名によるトークセッションが行われました。モデレーターは、CS HACK主催の藤本です。
参加者から事前にいただいた質問から、いくつかのテーマをピックアップしてお話いただきました。

■CSはどこから始める?立ち上げ期の取り組み方

最初のテーマは「CSの最初の一歩」。CSチームを立ち上げるにあたって、どこから始めればいいのでしょうか。

岩熊:サービスを0から作っていく中でCSを立ち上げるのか、すでにある程度ユーザーがいるサービスであとから立ち上げるのかで、やり方は変わると思います。

前者の場合、全社的にCSに取り組めるカルチャーを育むために、とにかく業務領域を広げてマーケティングやセールスもわかる状態を目指すのがおすすめです。CSだけをがんばるというより、組織の2番手くらいになるのを目指して、全体の中でCSが担うべき役割を見つけていけばいいのかなと。

後者の場合、まずは1~2年後のメイン顧客にしたい層はどこなのかを経営と握る。そしてその顧客層が既存の中ににいればその企業に、いないなら近しい企業を見つけて会いに行き、どうすればもっと使ってもらえるのかを探る。これが第一歩になると思います。
小林:まずは、目の前の1社を大成功させることだと思います。これはサブスクやSaaSの「汎用的であるべき」という思想に反する部分もありますが、それでも最初は1社と向き合うのが大事。なぜなら、そうすることで「何が求められていて、何が求められていないのか」がわかるからです。

■CSが担うべき役割とは。事業にどう価値を提供していけばいいのか?

社内にCSの概念が広がっておらず、その役割や価値を理解してもらうのが難しい場面に直面することもあるでしょう。クラウドサイン、ベルフェイスでは、どういった指標を追っているのでしょうか?

小林:ベルフェイスでは、KGIとして「売上」を置いていて、それを分解する指標として、継続率、アップセル率/額があります。

あえてCSの役割をシンプルに絞ると「自社と自社サービスの熟知」「顧客、顧客のビジネスの熟知」「プロダクトへのフィードバック」の3つだと思います。この3つをぐるぐる回す。つまり、自社のサービスを理解した上で顧客のビジネスと課題を深く理解することで最適な提案をして、さらに顧客からのフィードバックを元にサービスの伸びしろを探し、改善したプロダクトをまた熟知して……。こうしてお客様と一緒にサービスを育てるのが、CSの大きな役割なのではないでしょうか。

岩熊:CSのKPIとして、CSだけでチャーンの責任を負わされるという形は避けるべきだと思います。そうではなく、マーケティングはどんなリードを集めたのか、営業はどうやって獲得したのか、そもそもプロダクトはどうなのか、と、総合的に見ていくのが重要かなと。

また、売上を伸ばすという面では、顧客が成功すればするほど売上が上がる料金設定をするようにしています。ID課金ではなくトランザクション課金のイメージで、ヘビーに使っている人から多くいただけるようにすれば、Win-Winになれますよね。

■ヘルススコアの定義と活用

事前アンケートでは「ヘルススコア」に関する質問も多く寄せられました。両社はヘルススコアをどのように設定し、活用しているのでしょうか?

小林:ヘルススコアを考えるにあたって重視しているのは、「行動に落ちるか」です。どの数値がどうなってたらどんなアクションをとるべきなのか、そしてどんなアクションをとらないのか。これがわかるように設計すればよく、細かな指標を何にするかはプロダクトによって変わるんだろうなと思います。
岩熊:うちの場合、ヘルススコアはとにかく「当たらない」を決めるために活用していた部分が大きかったですね。たとえば、「オンボーディングが終わった段階でこのくらいの利用率だったらチャーンの可能性が高いよね、じゃあ当たらないでおきましょう」といった形です。やらないことを決めるために可視化するという考え方。
小林さんと重複する部分ですが、何のためにヘルススコアを定めるのか、を考える必要があるのかなと思います。

約20分という短い時間でしたが、トークセッションではほかにもいくつかの質問にご回答いただき、経験を元にしたリアルなお話をしていただきました。

CSの概念的な部分から実践的な知識まで幅広くお伝えした今回のイベント。日本ではまだまだ発展途上にあるCSという概念が浸透していくには壁もありますが、一つひとつ乗り越え、CSの素晴らしさを伝えていきたいものですね!

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