米国政府のアクセシビリティ政策(その3)AccessBoardとGSA
508条のセッションは、最終日朝8時から始まった。AccessBoard からTim Creagan、GSA(連邦調達庁)からはAndrew Nielsenが来ている。彼らは、CSUNの常連で、毎年連邦政府のアクセシビリティ政策を伝えてくれる。ただ、Timの話し方は独特のくせがあり、発音が不明瞭なので、実は私はほとんど聞き取れない。初日だったりすると、1時間をほとんどポカンと聞いているだけになる。今回は最終日だったのでまだましだったが、それでも字幕がないと理解不能な言葉が多かった。つくづく、キャプショナーは立派だと思う。
まずはそれぞれの組織とミッションの紹介に始まった。AccessBoardは508条の標準規定やガイダンスを公的機関や民間に伝え、トレーニングを行っている。GSAはさらに508条サイトの情報を更新し、ツールやトレーニングを開発し、対象となる各組織が508条にそったシステム開発等ができるよう支援している。
彼らは、長らく連邦政府の各省庁にアクセシビリティの遵守を求めてきたが、必ずしもすべての省庁でアクセシビリティが確保されているとは言い難い状況だったようだ。2012年以降、正確な状況調査も行われていなかったという。そのため、2022年には上院(Senate)の特別委員会が、法務省、退役軍人省、GSAなどに文書を送り、アクセシビリティに関するヒアリングを行っている。特に退役軍人省のサイトはアクセシブルとは言えない状況だったようだ。これは「障害者、高齢者、退役軍人のためのアクセシブルな連邦技術」というレポートにまとめられている。これを受けて、上院の高齢社会に関する特別委員会から改善提案が出され、2023年のConsolidated Appropriations Act(日本の予算案か?)のセクション723において、508条のアセスメントとレポートが要求された。
これによると、政府の各省庁は、今後一年以内に、508条への遵守状況を評価し、レポートを作成し、議会に報告しなくてはならない。すでにDOJが各省庁の状況のサマリーを作っているが、インターネットは90%がUDだが、イントラネットは半分程度であり、アクセスできないPDFも残っているようだ。
今回、DEIA(Diversity, Equity, Inclusion and Accessibility)に対する大統領令14035も出されており、アクセシビリティへの要求は、どんどん厳しくなっている。連邦政府は、障害者雇用のモデルにならなくてはならない。だから、物理的にも、情報環境も、アクセシブルでなかればならないと、明言しているのである。(どこかの国の政府にも聞かせたい)
また、アクセシビリティを評価するためのツール類も新しくなっていた。Webやコンテンツ、オフィス機器などの伝統的なICTに加え、モバイルアプリや電子書籍なども評価できるという。
今回はこの他にも、さまざまな評価ツールについて紹介されていた。情報環境を、多様なユーザーが使えるように、最初からアクセシブルにするという、連邦政府や議会の意気込みを感じるセッションであった。
このように、AccessBoardやGSAの発表を聞いていると、アクセシビリティを社会インフラの根幹に据えるという米国政府の意識を感じる。AccessBoardは、1973年のリハビリテーション法504条の成立と同時に設立された。建築も情報も教育も雇用も、アクセシビリティやユニバーサルデザインが基本となるよう、各省庁の政策を評価し、支援し、相談に乗る。日本の最大の悲劇は、世界最高齢国家でありながら、この大統領直下で全省庁に指令を出せるという、AccessBoardに当たる組織を持たないことなのかもしれない。こども庁ができたのだから、アクセス庁もできないかなあ。利用の容易さ庁って名前でもいいから。。
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