すべてはここから始まる
週に一度の出張レッスン。
カラオケボックスにて
ボーカルレッスンをしています。
以前はそのカラオケボックスは
カルチャースクールも展開していて。
しかし、コロナ禍でスクールは
撤退してしまった。
それでも存続してくださった方たち向けに
カラオケ出張レッスンをしているという訳です。
そのうちのお一人Qさん。
この方は、他の誰とも違う始まり方でした。
カルチャー時代、次の生徒さんまでの空き時間があると、その間待機するんですよね。
部屋で。そして、カラオケ歌い放題。
それで、まぁ生徒さん向けとかじゃないから
ということで自分の好きなように
思い切り燃え尽きるような歌ばかり歌っていたんですよね…。
熱、唱、ってやつです。
で、エアロスミスの
「ドンワナクロ〜ズマイア〜イ」
(miss a thing)
アルマゲドンのアレですね。
ここぞとばかりに、大熱唱しまくっていたところ
わたしの部屋は受付から一番近い部屋で
多分ダダ漏れていたんでしょう。きっと。
それを聴いて、Qさん。
受付の人に、問い合わせてくださり部屋へ訪ねてきてくれた。
ものすごい感激してれて。
それで、レッスンを受けるようになってくれたという経緯です。
わたし、歌上手いから
そういうことになっちゃってすごいでしょ!
って話ではなくて
縁、タイミング、出逢い、の話です。今回は。
Qさんがそのタイミングで
部屋の近くを通らなければ
わたしの熱唱を耳にすることもなく
出会うこともなく、だった。
そこからもう何年だろう?
多分、恐らく少なくとも5年。
いや、もっとか。
御縁。タイミング。感じてるんです。
まぁ、そんなこと言ったら
すべての人との出会い自体
タイミングとかご縁で。
この出逢いは数奇なもの、
いや、そっちの出逢いは普通で当たり前なもの、
とか無いんだろうけど。
華の専門学校
わたしがパートナー(夫)と出逢ったのは
専門学校だったんですよね。音楽の。
ギターボーカル科。
20名弱いたかな。
みんなギラギラしてた。
地方から来て、一旗揚げたるぞ、な
勢い、気概、あった。
わたしは代々木の学校まで、自宅から普通に電車で。むしろ母の実家から近いくらいの。
そこでもう違うんですよね。
お金貯めて、社会人辞めて
地方から来た子たちとは。
長崎、広島、岡山、島根…
北海道、青森、宮城、山形、福島…
全国から集まっていたみんな。
でも…わたしだって
自分なりには一世一代の、人生初の冒険だった。
「都心」の「学校」に行けば「変われる」
そう信じて。
コミュ障大爆発
教室の隅の隅。
非常用ハシゴの箱の近くが縄張り。
みんなキラキラしてるなか、隅の暗いほうにしか
発生しない、何らかのキノコになっていた。
わたしは、キノコだった。
もう、ある程度ギターのコードとか弾けるし
まぁ、みんなよりは劣るかもしれないけど
何とかなるだろう、と思っていたキノコだった。
ところが。
えっ………
なんでもうプロにならないの…
えっ…速弾きとか、弾ける人達普通なんだ…
えっ……メタル勢の手……
見、見えねえ…
神々の遊びじゃん………
笑いながら喋りながら
紅のソロ弾いて遊んでる…
スティーブヴァイって何?
メタリカって何?
アメリカの友達?
やべえところに紛れ込んだぞ、と。
そういう感じか、と。
変わりたかった。どうしても
それでいて、学校に入ったからと言って
家庭環境や自分のこじらせまくった性格は
何一つ変わらないままの入学だったんだから
混乱。劣等感。
ネガティブがすごすぎて、朝起きられない。
身体が重い。学校に行くのしんどい。
ダメな自分、終わってる自分。
最低。最悪。
そんな身体を引きずって、常に遅刻。
恥ずかしい。
しかし、ですよ。
わたしは歌は自信あったんです正直。
誰にも負けない、と。
どんな気合い入れて来ている人達より。
謎に、根拠のない自信、っていうアレです。
持ってた。
でも、ギターだった。
わたしはギターのスキルが欲しかった。
ギター弾きながら歌いたかった。
自分で歌作って歌いたかった。
歌手になりたいんじゃなくて
表現者になりたかった。
それに、歌手、って
容姿端麗じゃなければ…………なので
わたしは規格外。
そんなこんなで、キノコはカビを好み
どんどん端っこに自ら繁殖期を迎えに行くのだった。
恥ずかしくてギター弾くのが。
聴かれたくない…。
自分を表現したくて身を投じたのに
自分を引っ込めた。隠した。ダサい自分を。
やがて、誰とも口をきかない
粛々と教室の隅で繁殖し続ける繁殖期を
可愛い女の子達が終わらせてくれた。
可愛い。みんな可愛かった。
学校の男女の割合9対1、いやそれ以下。
女の子は非常に貴重な存在で。
みんっな品定めされてるの知ってた。
あるひとりの子に至っては
クラスの半分以上から告白されてた。
自分が片想いしてた子も彼女に夢中だった。
そんな中、キノコは、キノコを貫いた。
人間とかじゃないんで。恋とかそういうのは、と。
素敵な殿方もいらっしゃいますけど
なんせ、こちとら人間さんとは互換性無いんで。
と。
自分は片思いしているくせにね。
でも、それを叶えようだとかは滅相もない。
叶うわけがないんだから、と。
まぁ、そんなキノコに手を差し伸べてくれた
女の子達のおかげで
「ニンゲン…ヤサシイ…トモダチ……」と
徐々にお友達もできていった。
そんなこんなで、楽しくなってきた
スクールライフ。
そんな中、担任の先生解雇。
理由は、生徒の出席率が悪すぎるから。
わたしじゃん……………
わたしのせいじゃん………
まぁ休んだことはなかったけど大体遅刻してた。
でも、でも
大半の生徒みんな休んだり遅刻したりしてたし……
えっ………わたしのせいだけじゃ…
ないよね…………
なんて往生際悪いまま
遅刻常習犯である自分を正せなかった。
極数名と打ち解けてきて楽しくなっていたのだが
実際、ギターボーカル科は在籍数半分以下になっていた。
みーんな辞めちゃった。
その責任を問われて先生解雇。
先生もいないなら尚更
こんな所来ても意味ねえわ、って。
また人が辞めていく。
そうなんだけど、そうなんだけどさ
確かに意味はねえんだわ。うん。
意味、作ろうよ………自分で………
気がつけば、何とか残っていた子たちも
ひとり、ふたり…と
みーーんな辞めていき…
残ったのが、※ちゃん、パートナー、キノコ(自分)
この3名だった。
そんなんだから、この3人で
いーっつも一緒にいた。
担任が解雇されたものの代任の講師はいない。
自分たちの教室も与えられていない。
ギター科の教室とボーカル科の教室を
行ったり来たり。行ったり来たり。
ホームがない。
家なき子。教室なき子たち。
常に階段に座っていた。
わたしは相当にこじらせていたので、
自分は傍から見れば
チャラチャラしていただろうけれど
本人にはその自覚はなかった
その上で
チャラチャラした人達が大嫌いだった。
練習もしてない、上手くもない
恋愛はちゃっかりしっかりガッツリ
むしろ、そっちメインで楽しんでる。
いけすかん…。
これもね…羨ましかっただけなんだろうけどね
今となっちゃあ。
チャラチャラなお嬢さん方は
もう、存在しないものとして視界に入れなかった。
そんなこんなでわたしのパートナー。(夫)
Pくん、としますね。
ここだけの話なんですけど
ハイパーモテ次郎くんでした。
わたしより歳も上だし
何より面倒見がいいので
かっこよくて、優しい兄ちゃん、と
ドキドキしながら慕っていた。
こんな自分でも、当時初めての彼氏が
できたりもして。Pくんではない。別の子。
Pくんとはお互い恋愛対象とか
そういうことでは全く全然なかった。
同じ学科の仲間。戦友。相棒。
まさに、妹のように可愛がってもらっていた。
キノコのくせに
すると、そうなんだよね。
なんなんあいつ………っていうことに
なってくるわけです。わたしに対して。
あいつ彼氏もいてそれでいて
Pくんともいつも一緒にいるし
まじで何なのうぜえ、っていう。
そりゃそうでしょだって
教室ないんですからこっちは!
いつも一緒にいるさ。
お互いの存在が教室だったんだから。
先生もいないわけよこっちは。
自由学習ですよ。常にアウェイ。
そんな、ずさんな学校なんだから
後にこの学校訴訟起こされてましたけどねww
いや笑えないけど。
ある日のこと。
Pくんと近くのローソンに行き
学校へ帰ってきた。
Pくんが先に階段を登る。
後からわたしも登っていく。
階段は踊り場を経由し2階になる。
2階にもまた踊り場があり
そこは喫煙スペースにもなっていた。
そこで、ギャルですよギャル。
お出ましになりました。
Pくんを狙って。
すんごい苦手な…かわいこちゃん。
ボンキュッボンですよ。露出激しくて。
「Pくぅ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん」
「おつかれぇぇええええええええええ」
アハ〜ん、イヤ〜ん、みたいな声出しちゃって。
そんな発情期の求愛行動を
尻目にそそくさと退散したいわたし。
Pくんは若干天然なので
「おつかれー」と彼女に言って
何にも気にせず階段を登っていく。
殺気に気づいていない。
彼女からわたしへの。
わたしは、ここにいませんよー
空気ですよーと
自分の存在を消して
うつむきながら通り過ぎようとしたところ
「ちょっといい?」
殺気。声、めさめさ低い!!!!!!
かわいこちゃん、さっきの
求愛の鳴き方と変わっちまったじゃないですか!!!
「え?わたし?ですか?えっ???」
そうだよ、おめぇだよと目で突き刺された。
わたしの慌て振りといったら
鳩よりも高速キョロキョロ。
えっ、えっ、えっ、
キョドる鳩。
正面に迫りくるかわいこちゃん。
手にしていたタバコスゥーーーーー
「あんた、Pくんと付き合ってんの?」
口からタバコの煙モァッサーーーーーー
からの、フゥーーーーーー
「イヤッ…………ツキアッテナイ…デス…………」
年上なのにねこっちが。ふたつも。
敬語ですよ。咄嗟の。
「フッ……………あっっっっっそ!!!!!!!」
根性焼きババババーーーーーーーン
怖い怖い怖い怖い怖い!!!
もう振り返らずに階段を登った。
駆け上がるのは流石に癪だったので
さも平静を装って。
……なんてこともありましたよ。
二十年以上昔のことです………
この学校を選んだのは…
当時、高校の帰り道…
学校辞めたくて人生辞めたくて
どうしようもなくて
学校にも家にも居たくない
で、学校の最寄り駅から帰らずに
一駅歩いて。
ただ歩いているだけで何か
何か変われる気がして。
おしゃれな街
おしゃれな人
おしゃれな空気
その中を歩けば
自分もそうなれるんじゃないかって。
楽器屋さんに行ったりして。
渋谷の一番でかい楽器屋さん。
そこで、平積みになっていた雑誌。
「バンドやろうぜ」
こういう名前の雑誌が当時あったんです。
表紙はhide。
なんか電撃走った。
バンドやろうぜ!ってhideが話し掛けてきた。
やる。やる。もう。
やる!!!!
それで、即購入して
自分の部屋でワクワクしながらページを開くと
「〇〇〇〇学院 体験入学募集」
ここ、ここじゃん。わたしが行くのは!!!
決めた。高校辞めて専門学校へ行く!!!!
って腹が決まってしまった。
ここが甘さなんですけどね。
高校行きながらバンドやれるでしょ、って。
結局高校は中退ではなく転校。
通信制高校へ。
音楽の専門学校へ行きながら高校3年生をやった。
わたしは専門学校に行けば、
その瞬間から全てが変わると信じてた。
環境さえ変えれば。
周りさえ変わってくれたら。
だって、みんなクソだった。
どいつもこいつも。最低だ。こんな環境。
そしてこんな自分は誰よりも、何よりも
一番のクソだ。最低だ、と自認していた。
わたしは変わってもわたしのままだった
ところが
環境を何もかも変えたのに
わたしはわたしだった。
わたしが変わらなければ
どこにいたって、わたしはわたしのまま
わたしであった。
元はと言えば高校だって
そうやって選んだ場所だったのに。
変われない自分。
どこまでも自分は自分のまま。
どこまで行ってもどこまでも逃げても
わたしから逃れられない。
何にも変わらない。
だけど、環境というか
人との触れ合いで、確実に確実に
確実にわたしは変わった。
高校でもそういったことは
感じながら過ごしてはいたけれど
音楽の専門学校に入って
これまで出会ったことのないような人達との
触れたことのない感情を知っていく
毎日の中で変化変容が起きていった。
のちに、学校に撮影が入ることになり
よくみんなでウロついたり
座り込んでしゃべってた
あの階段で、カメラマンに言われるがままの
ポーズを取って、写真を撮られた。
わたしと、※ちゃん、パートナーが
広告になった。
わたしが、人生を変えると決断した
あのページの広告に自分たちが。
学校の謳い文句だったフレーズ
「すべてはここから始まる_____」
広告にそう謳われていた。
本当にそうだった。そうなった。
こんなものは意味がない、って
そう判断して辞めていった人達。
わたしは諦めが悪く
絶対に意味を持たせたかった。
すべてはここから、
確かにあの時から始まっていたと。
今でも思っている。
Pくんと出逢って23年が経つ。
人生の半分を超えた。
縁は奇なり
昨日たまたま普段使わないドラッグストアで
お買い物をすると…
レジの店員さんの名札。フルネーム。
友達の名前とまるっきり同じだった。あの子、何してるかな…
あの子がキッカケだった。
バイト先で知り合った子。
わたしとPくんともうひとり。
3人で住んだ家。シェアハウス。
この暮らしの中で、何も掴めなかったら
音楽は諦めよう、って住んだ家。
そのシェアハウス。
住み始めて一ヶ月目。
CDをリリースすることが決まった。
昨日の名札同姓同名の子。
あの子が通う音楽大学。
その大学で外部のプロを講師として迎える
音響の授業。
そこに、わたしを呼んでくれた。
素材になってくれませんか、って。あの子が。
授業の中で、プロ中のプロ
それも極上の。
そんな方が録音をしてくれる。
やったー!嬉しいー!行くー!と。
一人でこんな機会勿体無い!
ということでPくんを誘った。
お互い別々に活動していたけど
こんな機会ないから!って。
そして、ふたりで訪れた大学。
半端じゃない、その場。音響設備。
マイク。サラウンド。
すごい。職人。本物。
国営放送の現場でやっているプロ。
その方が、わたしたちの歌を。
今まで、一緒にやったことはなかったけど
せっかくだから、ということで
わたしがPくんの歌にハモる形で。
すると、そのプロの方がわたしたちの歌を
気に入ってくださり
自社レーベルからCDを出そう、と
話を持ちかけてくれたのだった。
ふたりで。
まさか、ふたりで一緒にやるなんて。
ふたりでCDを出すなんて。
お互い全く好みとか違うし
一緒にやるなんて考えたことなかった。
Pくんは、哲学的な歌詞のフォーク色強い歌が好み。
わたしは、歌詞の意味とか要らない、重低音の狂った音楽が好き。
どこにも交わるところがなかった。
ところがだ。
ところが、ふたりで。
ちょっと、やってみるかぁと、流れで。
その流れに乗ってみた。
紆余曲折ありましたが、その流れの先の
いま、ここ、なんです。現時点。
出逢い、で動かされている。
初動は自分そのものから
発するようなものだけれど
出逢いによって運ばれていく。
流れ、がある。
エネルギーってそういうものなんだね。
力の作用と同じ。
歌も、合気道も。
生きること、すべてがそれなんだ。
自分で動く。すると流れと繋がる。
そして身を任せる。信じる。
「すべてはここから始まる」