連載小説|恋するシカク 第4話『借り物競走』
作:元樹伸
本作の第1話はこちらです
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第4話 借り物競走
体育祭の当日。雨になれば延期か中止なのに、その日は良く晴れて絶好のスポーツ日和だった。入場行進と開会式が終わり、応援席に戻って競技の開始を待った。
この学校の体育祭はクラス対抗が基本で、各学年の同じ組が一丸となってワンチームになる。僕が参加するクラス対抗リレーは午前中の最終種目だったので、集合までにはまだだいぶ時間があった。
そんな中、一年生が参加する借り物競争が始まった。借り物が記された紙を持った競技者たちが次々と応援席にやってきては、最前列の生徒から帽子やらゼッケンやらを借りてゴールへと急いだ。僕の席はうしろの方だったので借り物競走に関わる必要がなく、ただその様子をぼんやり眺めていればよかった。
競技が後半戦に突入すると、見覚えのある女子生徒の姿が視界に入った。安西さんだ。彼女はちょうどトラックを半周し終わって、係の人から借り物の紙を受け取ったところだった。
「あれって安西先輩の妹だろ。うわさ通りだな。美術部の看板娘ってところか」
山本が背後から話しかけてきた。彼に言われるまでもなく、長い黒髪をうしろで留めた安西さんはとても可憐で、やはり僕にとっては姉妹揃って高嶺の花に見えた。
「でもあの子、部活にはほとんど来ないんだよね」
昨今では安西さんも幽霊部員になりかけていたので、おもわず愚痴がこぼれた。それに彼女はおそらく、あの林原の恋人だった。
「おーい、ここ二組だよ。敵だよ、敵」
誰かが揶揄って笑いが起きる。前方が騒がしいので見てみると、さっきまで校庭のむこう側にいた安西さんが二組の応援席の前に立っていた。何かを借りに来たのだろうか。でも安西さんは三組だ。わざわざこちらに来た理由がわからなかった。
「あの、誰かお願いします」
安西さんが借り物の書かれた紙を応援席にむけた。そこには「三年二組の男子」と書いてあった。なるほど、そういうことか。
「行ってやれよ。同じ部だろ?」
山本に背中を押されて胸が高鳴った。たしかにここは部の先輩である自分の出番かもしれない。安西さんとも目が合った。だけど僕は、彼女に声をかけるだけの勇気を持ち合わせていなかった。
「安西さん、俺が行ってやるよ!」
しびれを切らせたのか山本が声を上げた。安西さんの表情がパッと明るくなったけど、それは当然ながら、僕にむけられたものではなかった。
「ありがとうございます!」
周りから冷やかしの声が上がる。山本は満足そうに手を繋ぐと、彼女と仲良くゴールを目指して走って行った。
つづく
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