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脱税者VS査察官(マルサ):査察の強制調査実務を学ぶための〇×問題

査察制度は、悪質な脱税者に対して刑事責任を追及し、その一罰百戒の効果を通じて、適正・公平な課税の実現と申告納税制度の維持に資することを目的としています。 国税査察官(いわゆるマルサ)は、経済取引の広域化、デジタル化、国際化等による脱税の手段・方法の複雑・巧妙化など、経済社会情勢の変化に的確に対応し、悪質な脱税者に対して厳正な調査を実施しています(国税庁「令和5年度 査察の概要」)。

この記事では、国税査察官(マルサ)の研修資料を基に、国税査察の強制調査に関する実務的なポイントを〇×問題形式で解説します。

研修資料は、以下の記事からダウンロードできます。


以下の設例では、法人税の脱税が疑われる企業に対する強制調査の過程で発生する様々な問題について、

  • 施錠されたドアの開錠・破壊の可否

  • 警察官の援助の範囲

  • 捜索許可状の効力範囲

  • 公道に投げ捨てられた物件の扱い

  • 郵便物の差押えと開封の可否

  • 新たに判明した物件の捜索と夜間執行の可否

などの査察実務における重要な論点について、判例や国税通則法の規定をもとに正誤を検証しています。


設例

次の設例を読んで、以下の文章が正しければ「〇」、間違っていたら「×」を記入しなさい。なお、「×」を記入した場合はその理由を簡記しなさい。

設例:
A国税局査察部は、㈱暗号資産税金研究所の内偵調査の結果、多額の法人税を脱税している疑いが濃厚となったことから、裁判所から関係箇所の「臨検・捜索・差押許可状」の発付を受け、強制調査に着手することとなった。

着手日、A国税局査察官10名が代表者居宅に臨場し、インターホンで呼び出したところ、代表者本人が応答するも「俺は関係ない」と告げ、その後の呼び出しに一切応じなかった。

そこで、所轄警察署に調査の立会いを要請するとともに、開錠業者に依頼して玄関ドアの鍵を開錠し居宅内に入室したところ、部屋の奥に潜んでいた代表者が、抱えていたノートパソコンを窓から外の公道に投げ捨て、査察官の制止を振り切って玄関から外に逃走した。

逃走した代表者を査察官2名が追尾することとし、その他の査察官は、警察官の立会いの下、同居宅内の捜索を開始した。

捜索中に、代表者宛の未開封の郵便物を発見し、査察官が開封したところ、内偵調査では未把握であった代表者名義のマンション(代表者居宅とは別)に係る賃貸借契約書が確認された。


問題

Q1:施錠されているドア等については、捜索等をするために必要があるときは、国税通則法137条の「錠をはずし、封を開き、その他必要な処分をすることができる」との規定により、開錠することはできるが、チェーンロック等を破壊することまではできない。

Q2:強制調査の着手にあたって、相手方から暴行脅迫のおそれが認められる場合には、警察官に援助を要請することができるが、捜索等の立会人が不在の場合には、同警察官を立会人として捜索等を開始することができる。

Q3:許可状の効力は、当該許可状に記載された捜索等をすべき物件又は場所にしか及ばないため、公道に投げ捨てられたノートパソコンについては、差し押さえることができない上、所有者が不在のため任意調査として取得することもできない。

Q4:捜索場所に存在した末開封の郵便物は、通信の秘密の保障が及ぶものの、郵便物等の差押えの規定(国税通則法133条)により差し押さえることができるため、差押えに必要な処分(国税通則法137条)として、査察官が開封することができる。

Q5:捜索中にそれまで未把握であった代表者名義のマンションの存在を新たに把握し、同マンションの強制調査を実施する必要が生じた場合には、裁判所から新たに許可状の発付を受ける必要があるが、許可状の請求等に時間を要し、許可状の執行が日没に間に合わない場合には、当日の捜索を行うことはできない。

解答・解説

Q1:施錠されているドア等については、捜索等をするために必要があるときは、国税通則法137条の「錠をはずし、封を開き、その他必要な処分をすることができる」との規定により、開錠することはできるが、チェーンロック等を破壊することまではできない。

解答 × 
強制調査における強制力の行使は必要最小限にとどめ、被調査者の最も損害の少ない方法を選ぶべきであるが、被調査者が協力を拒否し、他に適当な方法がない場合には、施錠の破壊を行うことも認められ、正当な権利行使として違法性を欠く。【東京高判平4.3.30】

Q2:②強制調査の着手にあたって、相手方から暴行脅迫のおそれが認められる場合には、警察官に援助を要請することができるが、捜索等の立会人が不在の場合には、同警察官を立会人として捜索等を開始することができる。

解答 × 
警察官の援助は、当該職員の職務の執行に対する外部的障害を排除するための援助であって、当該職員の職務執行、つまり強制処分そのものを援助させることはできないため、捜索等の立会人とすることはできない

Q3:許可状の効力は、当該許可状に記載された捜索等をすべき物件又は場所にしか及ばないため、公道に投げ捨てられたノートパソコンについては、差し押さえることができない上、所有者が不在のため任意調査として取得することもできない。

解答 ×
捜索・差押等の強制処分は、許可状に記載された場所の範囲内にしか効力が及ばず、公道に留置された物件を差し押さえることはできないが、平成29年度税制改正により、犯則嫌疑者等が置き去った物件(遺留物)についても領置の対象とされたため、任意調査として領置することができる

Q4:捜索場所に存在した末開封の郵便物は、通信の秘密の保障が及ぶものの、郵便物等の差押えの規定(国税通則法133条)により差し押さえることができるため、差押えに必要な処分(国税通則法137条)として、査察官が開封することができる。

解答 ×
配達済みの郵便物は、通信の秘密の保障は及ばず、捜索等に必要な処分(通則法137)に基づき開封することができる。(通則法133条は、郵便局等の保管する郵便物等が対象)

Q5:捜索中にそれまで未把握であった代表者名義のマンションの存在を新たに把握し、同マンションの強制調査を実施する必要が生じた場合には、裁判所から新たに許可状の発付を受ける必要があるが、許可状の請求等に時間を要し、許可状の執行が日没に間に合わない場合には、当日の捜索を行うことはできない。

解答 ×
許可状に「夜間でも執行することができる」旨の記載することにより、日没後(夜間)においても捜索を開始することができる。(なお、裁判所は夜間でも許可状請求できる。)


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