見出し画像

そしてひとつが終わり…

 昼下がりの狸小路の喫茶店。シチューのランチを頼んだあとに、セットのドリンクも飲み干して、わたしはホットレモンを注文した。酸味の中で少しだけ舌先に染みる甘さと暖かさ。どこの喫茶店でもホットレモンが出てくると嬉しいものだ。

疲れに沁みるね、この酸味…涙


 小銭を数えて喫茶店への電車賃を求めていたあの頃とは比ぶこともないほどに、預金残高もあるし、珈琲チケットもある、正社員としての身分もある。けれども、正社員になってから8ヶ月と少しで何故かホームレス生活が始まって、年明けは愛媛・松山で過ごすこととなった。


 三日前に神戸から札幌に戻って、とある部屋で寝起きをしていたが、起きるといつも時計はおやつよりも遅い時刻を指していた。こうなってしまっては叶わないと、昨夜は敢えてすすきのの街にホテルを取った。久しぶりに精神科へ顔も出せそうだ。
 “流れ”と称する一連の旅の中にはいくつもの素敵な出会いがあり、別れを惜しむひとときがあり、流れ続ければ続けるほどに疲れと裏腹にして、心は満たされていった。しかし、職場復帰がまだいつか分からないという現実から目を背けることなど誰にもできないし、目を背けるつもりもない。去年の今頃には、定職が決まった安堵とともに、仕事をするうえでのやる気にも満ち溢れていたから。それは今でも変わりはない。変わりがなさそうなのは部署の人間関係もそうだ。勤務地にも実家にもいないことを、産業医からも母親からも叱責されてしまった。今日はもう少し恋の町でゆっくりしたら、汽車に乗って港町へ戻ろうかと思う。
 そろそろ、ハバナに帰ろうか……涙 帰りたいね…………涙 ガスも止まってるだろうから、料金を払わないとね………涙

ここから先は

0字

¥ 300

この記事が気に入ったらチップで応援してみませんか?