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土足。

時間が流れるというのは、環境が変わることだと
窓枠で煙草をふかしていて悲しくなった。
数時間前、ベッドでうたた寝している彼の横に座ると、寝に来たのかと聞かれた。
洗濯機の音がする。
洗濯が終わって、それを干すまでは眠れない。と、乾いて笑う。
それはごめんね、と言って彼は眠った。

窓枠の上。
カーテンが風にたなびいて、それを目で追うように部屋を見る。
数ヶ月前にはなかった、私のものでは無いものが、1、2、3.......数え切れない。
廃盤になってしまった去年纏っていた残り僅かな香水を少しだけ服に振って、いつの間にか常習して吸うようになってしまった煙に染まる。

私のベッドで気持ちよさそうに眠る人。
私の部屋だけれど、私の居場所がない気がして、外に出たくなった。
行く宛もないから、出なかった。
ベッドに行って彼の横で眠る気にも、なれない、そんな夜。
明日は朝がいつもより早いのに。
昨日の朝、使った記憶のない食器を洗った。
私の当たり前が、私の大切にしているものが、知らぬ間にズカズカと踏み荒らされていく気がした。
世界は、広くて、狭くて。
私は独りでいる方が、きっと楽で、好きなんだと思った。
部屋の電気を付けずに、ペンダントライトの灯りだけで私は生活していたけれど、最近家に着くと部屋は煌々として明るい。

自由で、きままで、心細くて。
でも、自分が独りで立って歩いていくにはそれが大事なことで、私は私以上のものを背負う能力も、背負えたとしても背負う気もないんだろうな。
彼が好きだった私も、近過ぎて霞んだだろう。
お互い様だね。

雨は上がったけれど、厚い雲が空を覆っている。
暗くて、雲の動きが見えないから、私は憂鬱。

煙みたいにふわっと何処かを漂って、いつの間にか消えていたらいいのにな。なんて。
ふわっと何処かに行ってしまいそうな私は、彼の中では消えてしまって、ずっとここで待っていれば帰ってくる存在になってしまったんだと思う。
人との関係に当たり前なんてないことに、彼はまだ気が付いていないんだろう。幸せだね。
少しだけ羨ましくて、腹立たしくて、煙草の火を握りつぶした。

風は責めるように私に強く当たる。
深夜1時半。今日も朝から夜まで雨らしい。
この雨のない穏やかな空も、数時間後には、また...

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