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久しぶりに会った友人に「最近元気?」と聞かれたら

「8月末から5年間タイに出張に行くことになった」

大学時代の友人から、LINEが届いた。このご時世に出張かよ、と驚きつつ、少し感慨深い気持ちになった。彼はずっと海外で働きたがっていたから、ついに念願がかなったからだ。
 
大学を卒業してもう7年が経つが、わざわざ連絡をくれたこの友人の門出をどうしても祝いたかった。でも、コロナで送別会を開こうにも集まりが悪いだろうと思い、悩んだ末に寄せ書きを集めようと思った。

昨今の寄せ書きは近代的に発展しており、手書きではなくオンラインで寄せ書きを作成できる。リアルで会わなくて済む分、労力を抑えられたのと、寄せ書きを書いてほしいと頼むことで、久しぶりに大学の友人たちと交流する機会ができ、私自身も嬉しかった。

大学の時に毎日顔を合わせていた友人も、卒業後にしばらく連絡を取らないと、なぜだか恥ずかしくなってしまう。なんだろう、この現象は。久しぶりに連絡を取る中で、ある人は結婚して性が変わっていたり、またある友人は海外にいてLINEで連絡がとれなかったり。大学時代を一緒に過ごした友人たちがそれぞれ自分の道を進んでいることが、何か新鮮で、誇らしくも思えた。

幹事である私はすべての寄せ書きを閲覧できる権利が付与されていた。書いてある内容を読んで、タイに旅立つ友人は心から愛されていることが読み取れた。友人関係は狭そうに見えたが、私が知らないだけで、多くの人と関わりがあり、かつそれぞれのコミュニティでとても愛されている存在であったのだろうと感じ取れた。

寄せ書きを書いた友人の一人で、いわゆる当時はいじられキャラというか、飲みキャラであったサークルの友達Bがいた。物流会社に勤めている彼は、大学の時には自信がなさそうに見えたが、社会の荒波に揉まれたのか、心なしか身体ごと存在感が大きくなっていた。

忙しそうであったが、連絡を取り付けたところ、快く寄せ書きに協力してくれた。Bの書く文章は、当時大学の飲み会で毎回半裸になって場を盛り上げ、その際に動きすぎて体に酒が巡って倒れた話を含め、愛と懐かしさに溢れたものであった。

「書いたよ!」

とBから連絡をもらった後、連絡を交わすと、大学を卒業してから時間が経ったにもかかわらず、私の頭の中に半裸ではしゃぎ散らしたあの日々がつい昨日のように感じられた。その気持ちが、私を調子に乗らせたのである。

寄せ書きを集める幹事のもうひとつの権限として、個々のメッセージ横に表示される顔写真を変更することができた。自分の顔写真を添付することを忘れてしまった人や、なんらかの理由でアップできない人の代わりに、幹事が写真を追加、変更できる機能であった。

写真を眺めていると、Bの写真はスーツ姿のいかにもサラリーマンという普通の写真であった。いや、違うだろB。そこは大学時代に半裸で笑いとっていた写真だろ。なんで恥ずかしがっているんだよ。丸くなったな、B。と、頭の中でツッコミが始まる。

あれ、これは俺が責任を持って写真を変えるべきなのでは。と、変な責任感が湧いてきた。頭の中の悪魔が「面白いから写真を変えるべきだ」とささやくと、次の瞬間には、Bの写真は当時みんなで居酒屋で盛り上がった一発ギャグの画像に挿し変わっていた。

次の日、Bから電話がかかってきた。開口一番、とてつもない怒気を押さえながらこう答えた。

「なにしてんだよ、お前…」

いや、だってこっちの方が面白いじゃないか、と反論をしようとしたが、その瞬間に全てを悟った。我々は、大学を卒業してからもう7年も会っていない。私の記憶の中のBは、大学卒業前の、半裸で酒を飲み散らかす7年前にBのままだったのだ。

7年の歳月は、思いの外我々の間の認識にギャップを開かせていた。彼のことは大学以来アップデートがなく、今の彼をよく知らないのである。そう、あれだけ仲がよかったのに、今のことはよく知らなかったのだ。

よく、久しぶりにあった友人に「最近どう?」と聞かれて困るシーンがあった。なぜ困ったか、その場では答えが出なかったが、今考えると、そんなこと言わなくてもわかるだろう、と勝手に思っていた。けれど現実は、友人の目に映る私は過去の私で、今の私とは違う。過去の虚像と現在の実像の間にギャップがあるから、微妙に話がずれるのだ。どうしても、今も同じなのではないかと勘違いしてしまう。この溝に、しっかりとした橋を作ることで初めてコミュニケーションが成り立つのだろう。

もっと言うと、自分も今の自分のことをよくわかっていないかもしれない。なぜなら、自分が思っている以上に、姿も価値観も、確実に時間と共に変化をしている。案外、自分自身も昔のままではないということに気づかないのだ。目の前の友人は、何が変わっていなくて、何が変わったのか。そしてその間にどんな経験をしたのか。今の自分との間にあるギャップをつなぐ橋を作りながら、今の実像を捉えつつ、価値観の変化を楽しみたいと思った。

と、一連のことを考えたあと、Bに謝りの連絡を入れながら、今度飲みに行く約束を取り付けた。お互いのアップデートを改めて語るのは、何か小っ恥ずかしい気もするけれど、どのような変化があるのだろう。そして、昔と変わらない部分に気付くのも、きっと面白そうだ。

この寄せ書きを無事に渡したあと、友人はタイに飛び立つ。5年後に帰国した時、私はきっと「最近元気?」と聞くのだろう。その時には、それぞれの場で経験した5年間を語りながら、また上野でうまい酒を飲むことを今から楽しみにしている。もちろん、Bも含めて。

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Kura
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