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地方創生の現場から [ 1 ]-生産性新聞

〜岐阜県の事例・経営コンサルタントの視点〜
東海クロスメディア 代表取締役 三輪知生

生産性新聞 2018.10.15 掲載

地方が豊かにならない本当の理由
~妨げとなる三つの壁(知識・意識・組織)~

「結果にコミットする」トレーニングジムやゴルフレッスンが巷で話題となっています。印象的な広告宣伝の効果も確かにありますが、多くの人の心を惹きつけて、入会申し込みに駆り立てる根源的な理由はどこにあるのでしょうか?社会現象ともいえる象徴的なこの事例を経営コンサルタントの視点で切り込んでいくことから始め、「地方が豊かにならない本当の理由」について考察し、地方創生を真に実現していく端緒にしたいと思います。

ユーザーは支払う金銭の対価として時間と空間とサービスを買い(=手段)、自らの目的である減量や技術の向上を目指します。一方で通常、会員制クラブは初期に大規模な設備投資が必要という理由も伴って、安定的な経営と設備ならびに体制の維持を目指し、会員が永続的に通い続けてもらうことを主たる目的としてしまい、サービス提供をおざなりにしてしまう傾向になる、と分析できます。利用者の手段が自己目的化してしまうのです。

まさにユーザーの目的である「結果にコミットする」ことに、話題沸騰となる価値の源泉があるといえるでしょう。この企業経営の要諦も、組織が成熟化する、または経営環境が悪化すると忘れてしまい、手段を問わずに自社の利益追求に猛進してしまう事例は枚挙にいとまがありません。また、創業者が高い志と熱い想いで会社を始めても、経営が安定してくると安定志向の人ばかりが人材募集に集まってくるというのも、よくあることです。

筆者は、これまで6年間にわたって産業振興の分野で岐阜県において公的支援の役職に就き、地方公共団体や公的支援機関等とかかわってきました。経営コンサルタントの視点として、企業の成長を妨げる要素には三つの壁があるというのが持論ですが、その三つの壁について地方創生を担う現場の人や組織に当てはめて、地方創生の制約条件についてこれより言及していきたいと思います。

制約条件を解消し、真の地方創生を

まず一つ目は、部署の異動も早く、どうすれば良いのか分からない、ノウハウがないからできない等の特性によって直面する「知識の壁」です。知識がなければ、過去を知り、現在を診断し、未来を見通すことができません。この壁を突き破るために地方創生カレッジは開設されていると評価できますが、漠然とした印象ではなく実数を直視して考えるためには、藻谷浩介氏による『「地方消滅」の真相と「地方創生」のあり方』は必修です。

そして二つ目は、新しいことは苦手である、前例を変えることは忌避したい等のいわば保守的な思考特性によって直面する「意識の壁」です。本来、知識が備われば課題解決の方策は見えてくるものですが、現実を直視することを避けてしまったり、実数を割合に変換して印象を操作しようとしたりと、人の心の中に宿るホメオスタシス(恒常性の維持)の本能も働いて、最も根深く、とてもぶ厚く立ちはだかる深刻な壁が存在しているのです。

そして三つ目は、部署別に事業費が予算化されており縦割りである、基本的に決算の概念がなく成果が評価の対象とならない等の組織特性に起因する「組織の壁」です。地方では優良な企業が少なく、安定した就職先として地方公共団体が存在します。優秀な人材が集約する一方、前述のような思考特性から課題に直面すると脆弱な一面が露呈します。表層的な議論に終始して結果にコミットせず、重要課題の方策立案を外部に依存しています。

真に地方創生を実現していくためには、これらの制約条件を解消していくことこそが肝要です。

(6回連載)

(みわ・ともお)

オークマ、三井物産マシナリーなどでマーケティングを担当。中小企業庁岐阜県よろず支援拠点チーフコーディネーターとして、県内の中小企業支援を統括。専門は商品開発、ブランド構築、プロモーションなど。日本生産性本部認定経営コンサルタント。名古屋大学大学院修士(経済学)。

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