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#29 捨てられないもの/くろさわかな
【往復書簡 #29 のやりとり】
月曜日:及川恵子〈あの時の自分がかわいいよ〉
水曜日:泖〈空箱を司る神とは、そう、わたしのこと〉
金曜日:くろさわかな〈ときめきはないけれど〉
ときめきはないけれど
「捨てること」は苦手です。
苦手と言っても何でもかんでもとっておけるほど広い家に住んでいるわけではないので、仕方なく手放すこともあります。スッキリしたなと思うこともあれば、「とっておけばよかったな」って引きずってしまうこともあって。「捨てる」って本当難しい。
何かを捨てなくちゃ前に進めないみたいな名言もありますが、何でもかんでも捨てればいいというわけではないと思っています。生花を飾ることが、誰かにとっては時間と手間がかかる邪魔なものになって、また別の誰かにとっては生きる糧になっているというような。この場合、後者に「もっと時間を確保して資格取得の勉強をしましょう、そのためにまず生花を飾ることをやめましょう」と言ったら、前に進むどころかその場にとどまることすらできなくなってしまうかもしれませんよね。
「生きる糧になっているもの」が、こんまりメソッドでいう「ときめき」というやつでしょうか。だけど、ときめきはしないけど実は支えになっているもの──いわゆる「空気みたいな存在」になっているものもある気がします。わたしの場合「ときめいているか」を捨てる判断基準にするのは難しそう。
たとえば、わたしが捨てられないものNo.1は絵本ですが、この写真を見てください。
うちで一番ボロボロの絵本。シミだらけで背表紙は今にももげそうで、まりおという謎の落書きまであります。
ときめくかといったら……うーん…??
もちろんこの本自体は大好きで何度も読んでいます。わたし的せなけいこさん絵本ランキングで「ちいさなたまねぎさん」と首位を争うくらい。とは言え絶版本というわけではないので、これからも読むとしても新しく買い換えた方が絶対いいんですよ。読みやすいし。
だけどこんなにボロボロになるまで頑張ってくれた絵本に対して、そんなに簡単に捨てるという選択をしていいのか。いっそお焚き上げでもしなくちゃけじめがつかないような気にさえなってきてしまう。じゃあそのお焚き上げの日っていつが適当なんだろう?少なくとも今日じゃなくない?
及川さんのTシャツのように思い出が詰まっているという感じともまた違う、特にこれといったエピソードがあるわけではないボロボロの絵本。それなのになぜか捨てられない、捨てたら絶対後悔するだろうと思うのは、仲間意識のようなものが湧いてしまっているのかしら。
いっそ付喪神がつくくらいとっておいて、「おばけの天ぷらの絵本のおばけ」が出てきたら面白いかもなんて思います。
くろさわかな