「オホーツク総合振興局」という謎の行政区画
はじめに オホーツク総合振興局の脅威
私たちの住む北海道は、自治体としての北海道の行政上の領域があまりに広大なため、「振興局」か「総合振興局」という出先機関があり、ある一定程度のまとまりをさだめて行政を行なっている。
これらは、明治時代初期に王政復古で律令的に定められた旧国名や郡名に由来するものがほとんどだ。もちろんそれらは、江戸時代のアイヌ語にルーツがあったりもする。
ところが見てくれ。一個だけ頭がおかしい異端児がいる。
オホーツク総合振興局だ。
1 ふざけた名前だよ
オホーツク総合振興局は道東にある。地名で言うと、北見市とか網走市とか紋別市とか遠軽町とか美幌町とかがある。あと知床半島の半分もオホーツク総合振興局にある。
でだ、オホーツクって何かというとオホーツク海から来ているんだろう。オホーツク総合振興局の海浜は、ほぼ全てオホーツク海に面しているからな。
でだ、オホーツク海のオホーツクって何かというと、もともとは海そのものの名前ではない。オホーツク総合振興局の面するオホーツク海のその遥か彼方、ロシアの領域にあるオホーツクって街が名前の由来になっている。
オホート川の河口部にあるこの街は、近代以前も拠点や寄港地として発展してきた歴史がある。
それは全然いーんだが、流石に遠過ぎないか?
外来語自治体地名として有名な南アルプス市ってのがある。赤石山脈(南アルプス)が含まれる自治体だから、まあわかる。
一方オホーツクはどうだあ? オホーツク総合振興局は、オホーツク総合振興局なのにオホーツクの要素が全然ない。一切ないと言っても過言ではない。オホーツクの人口は2021年現在3,332人らしい。ちょうど北海道の一個の町くらいの大きさだ。そこの名を冠している。
オホーツク総合振興局のクレイジーさはここにある。真面目な公務員が日々このアホみたいな名前の行政区分を使って地域や社会にとって大切な仕事をしていると想像すると、そのギャップにちょと笑えてくる。
このサイトはオホーツク振興局内の産業や観光について紹介しているウェブサイトだ。もう完全に振り切っていて、日本の北見とか網走とかをオホーツクって名前で言い切って紹介している。
とんでもない表記に思えるのは私だけであろうか?
せめてオホーツク海総合振興局とするべきではなかっただろうか。オホーツク海とオホーツクは違うだろうという話だ。
2 オホーツク総合振興局の蓋然性
それでは、そうであってもなお、そうなってしまった理由を考察してみたい。
個人的には、オホーツク総合振興局の各地域は結構色々特色があって差異があり、振興局内の特定の地名を冠し難いからなのではないかと思っている。
オホーツク総合振興局は、古くは網走支庁と呼ばれていた。総合振興局になる際に、管内の自治体が協議してオホーツク総合振興局になった。支庁自体は明治30(1897)年に設定されたのだが、網走支庁はそれ以来ずっと使われてきた名前だった。
ところが網走支庁内には他に大きな自治体として北見市がある。
北見はもともとは明治維新後すぐに定められた旧国名に由来がある。北見市自体は北見国の一部分で、もともとは野付牛という名前だった。昭和17(1942)年に市制施行する際に、旧国名を使って北見市になった。
網走市と北見市は、結構文化が異なる。網走は海の町で、北見は内陸の町。北見の方が人口が多く色々役所の出先機関が揃っている。
ほかの自治体にも目を向けてみよう。網走と紋別は同じ海の町だけど結構離れている。美幌や遠軽などの内陸の自治体もそれぞれ力を持っている。平成の合併の流れを見ていると、コアになる自治体とその地域圏が浮かび上がってくる。
小さな新聞社がたくさん存在していたこともオホーツク総合振興局の特色を裏付けるだろう。2000年くらいまで、オホーツク振興局内には地域の新聞が北見・遠軽・美幌・紋別・網走・置戸にあった(今もいくつか存続している)。それぞれの地域圏で小さな新聞社が存在していたのだ。
この話題を書くと長くなってしまうのでまとめると、オホーツク総合振興局内は広大な土地の内部で小さなそれなりに確固たる文化圏に分けられており、管内の具体的な地名・自治体名を冠して統合的な振興局名を名付けにくい構造にあったのではないだろうか。
おわりに オホーツク総合振興局の魅力
オホーツク総合振興局は網の目状に中核都市が配分されており、それが統合的な内国地名での振興局名称を拒んでいたのではないか。
こうした傾向は、十勝や釧路などと比較するとより顕著になるのではないかと思う。
名付けの問題はともあれ、オホーツク総合振興局はそれゆえに魅力がある。海あり畑(野菜&乳製品)あり山あり、と言った感じだ。あらためてそうした観点で先程のウェブサイトを見てほしい。
私は北見の玉ねぎ、紋別のかまぼこが大好きだ。
変な名付けオホーツク総合振興局。その内部には多様な地域の魅力が内包されている。