ハルとの思い出
今の奥さんが沖縄で仕事をしていた頃、
前の奥さんとの息子、ハルはまだ中学生だった。
その時のお話。
次に奥さんが帰ってくるのは
約一か月先なので、
それまでにちょっとずつ、
部屋の模様替えをさせてもらおうと思い、
ハルに来てもらって、
まずは本棚の移動から着手した。
僕の家は本が異常に多く、
その99パーセントはマンガの本なのだが、
模様替えというのは、
つまり本棚をどこに移動するかがメインになるのだ。
とりあえず3時間くらいかけて、
メインの本棚の本をすべて出すところまでやったが、
その作業をしながら、
「今、読みたいマンガとかないの?
どれでも貸してあげるけど」と言うと、
「うーん、ドウムっていうマンガある?」と言われた。
ドウムって、大友克洋の「童夢」か?
俺が持っていないわけないだろう?
しかし、本がたくさんありすぎて、
どこにあるかはすぐにはわからず、
しばらく探したらやっと見つかった。
作業のあと色々話していたら遅くなって、
ハルを家まで送ったのだが、
ハルは「童夢」を忘れて帰ってしまった。
それで、僕が久しぶりに
「童夢」を読み返してみた。
「童夢」は1983年の、
第4回日本SF大賞を獲った作品である。
当時は「果たしてこれがSFなのか?」と、
ちょっと疑問だった。
SFのSとはサイエンスのことで、
サイエンスといえば、なんとなく、
機械とか、未来とかのイメージを持っていた。
しかし、「童夢」は現代の団地が舞台で、
ハイテクな感じの描写は、
まったく出てこないのである。
ブライアン・オールディスの、
「十億年の宴」という本の中では、
SF小説の最初の一冊は、
メアリー・シェリーの、
「フランケンシュタイン」だと定義されている。
これを読んだ時も僕は、
「えっ、フランケンシュタインがSF?」と、
ちょっと意外に思ったのである。
「フランケンシュタイン」といえば、
SFよりはホラーのジャンルのイメージが強い。
ブライアン・オールディスの説では、
SFの前段階のジャンルはゴシックだとされているのだが、
ゴシックホラーということでいえば、
たしかに「フランケンシュタイン」は、
そのジャンルには近いと思う。
ちなみに、メアリー・シェリーというのは女性で、
「フランケンシュタイン」を書いた時はまだ19歳だった。
「童夢」で主に扱われるアイテムは、
テレキネシスとかサイコキネシスと呼ばれる、
念動力である。
ロボットとかレーザービームとか、
SF的な小道具(ガジェットというらしいが)は、
いっさい出て来ないが、
やはりこれは立派なSFだと思う。
ブライアン・オールディスによる
SFの定義を引用すれば、
更にわかりやすいのだが、
小難しくなるので省略する。
前回がディックの
「アンドロイドは電気羊の夢を見るか」で、
今回が大友克洋の「童夢」というのは、
なかなか優秀だぞ、
この調子で「お勉強」を頑張ってくれ!!
ちなみに僕は「童夢」を読み終えたあと、
すぐに「アキラ」を読み始めた。
このハルも今では24歳、
今は東京でコピーライターをしています。