14-義妹の魔物

 ちょうど1年ほど前、ちかみつさんに、義妹の態度が少しおかしいのですがと相談したら、義妹には魔物が憑いていると言われました。そしてその魔物を祓うのは僕の試練だと言われました。

 どうしたものかと考えていたところ、僕はいつのまにか、無意識のうちに写経を始めていました。その数日後の日曜日、うちの奥さんが朝から一日かけて部屋の片付けをしていました。うちの奥さんは普段は平日でも休日でも予定をビッシリ入れて、日曜日にもほとんど家に居ないのですが、その日曜日は前から予定していた、福岡の霊能師匠の家を訪ねるというイベントが中止になり、朝から家の片付けをしていたのです。僕は僕で別宅、といってもアパートの隣の部屋ですが、その別宅で写経をしていました。

 その時うちの奥さんの頭の中に「人間と話すのは久しぶりだ」という声が聞こえたのだというのです。つまり人間ではない何者かからのメッセージということになります。その後もその「謎の存在」からのメッセージは続いたそうなのですが、奥さんはその内容を覚えていません。ただ、言葉遣いが現代のものではなかったということだけは覚えているということです。

 それで僕と奥さんとでいつもしているファミレス会議をしたところ、その謎の訪問者は義妹に憑いている魔物だったんじゃないかと、僕が発言しました。こういう突拍子のない発言は、普通はうちの奥さんがするのですが、この時は僕も頭の一部が、どこかとつながっていたようで、僕の方からこの発言が出ました。

 うちの義妹に魔物が憑いていると言われてみれば心当たりがあり、奥さんも奥さんのお義母さんも、義弟も、みんな一様にそのことで心を痛めていて、その魔物を祓えるのは、前世で密教の修行をしていた、僕しかいないということになって、必然的に僕に期待が集まっていたわけですが、僕にはあまりにも任務が重過ぎて、どうしたらいいのかわからず、ちかみつさんの魔法学校(帝国神霊学院)の授業で知己を得ていた、弘法大師空海さんにお願いしてみたのです。

 そしたらその途端に僕は写経を始めたのです。このあたりは自分でもなぜなのか説明がつきません。そしてほぼ同じタイミングで、奥さんのところに魔物からコンタクトです。どうもこの魔物は何千年も前からこの世に存在しているようで、いい加減何かを怨むのにも疲れてしまっているようです。

 納得してお帰りいただけるよう、そしてできれば人を呪うパワーを何か前向きなことに使ってくださいと願いながら、僕はその日も写経をしました。そして30巻ほど写経したところで、家の近くの真言宗のお寺に納経に行きました。

 それから、ネットで「魔物 祓い方」と検索してみました。そして聖天様という密教の神様をご夫婦で信仰している「聖夫婦」さんという方のホームページを見つけました。

 そこに相談のメールを送ってみたところ、「義妹さんの魔物に関しては当方が鑑定したことではないので、なんともお答えはできません」というお返事でした。それであらためて料金を払って鑑定をお願いしました。質問一問につき3000円の料金でした。

 聖天様からのお答えは、「魔物は憑いておる」「これ直ぐにどうこうできる魔物にあらず」「魔が反発する恐れがあるので本人には決して憑依されていることは言わぬこと」というものでした。そして、「義妹様には優しく接してあげることです。もし義妹様に厳しくすれば魔物の思う壺です。」「優しく接し魔物に負けないで下さい。」「当方もしくは他の寺院でもいいですから、気長に祈祷して様子を見てください。」と、聖夫婦さまからアドバイスをいただきました。

 それで何回も聖夫婦さまとやりとりをするより、ちかみつさんに直接聞いた方が早いと思い、もう一度ちかみつさんに会いに行き、その場に聖天様を呼んでいただいたのです。

 聖天様から「以前問い合わせて来た者だな」と言われ、魔物とはどんなものかを事細かに質問しました。「人間が形を変えたものですか?」「違う」「妖怪のようなものですか?」「違う」「宇宙から飛来したものですか?」「違う」ちかみつさんの補足説明によると、宇宙の悪意が創造したプラズマ生命体のようなものだそうです。

 「それではその魔物はどうやったら祓えるのでしょうか?」と聞くと「時々私を呼び出して私と話すことで自分の力を高めて魔物を祓いなさい」と言われました。そして魔物を祓うことの手助けになればと、知人から野良猫の子猫をもらって飼いはじめました。

 そこでわからないなりに時々自宅に聖天様をお呼びして、「今日は飼っている猫の去勢に行きました」などと、とりとめのない日常の世間話などをしました。

 するとほとんどつきあいのなかった義妹が、時々我が家を訪ねて来るようになったのです。これまでに奥さんの実家では、犬しか飼ったことがなく、猫を飼うのが初めてだったので、猫が可愛くて会いに来るようになったのです。

 そうして交流しているうちにうちの奥さんが義妹の生年月日占いをしてあげて、「あなたは本来は〇〇な性格で、××な感じの仕事が向いているんだけど、今はそういう仕事に就いてはいないよね、それはあなたの中にあなたじゃない別の人格がいて、それを邪魔しているんじゃないかな?」と、魔物が憑いているということを遠回しに言いました。

 すると義妹が、「実はこの話は誰にもしたことがないんだけど、小さな頃から私の中には知らない誰かがいて、時々考えてもいないことを口に出してしまったりするんだよね、それで彼氏と別れてしまったり、仕事が続かなかったりしてきてたんだけど、この話は誰にもしたことがなかったのに、なんでお姉ちゃんはそれがわかったの?」と言ったのだそうです。そこで奥さんが、「実はちかみつさんっていう人がいてね・・・」とちかみつさんの話をすると、義妹が、「私もそのちかみつさんっていう人に会いに行ってみようかな?」と言い出したのです。

 そして予約して義妹と奥さんと一緒にちかみつさんに会いに行くと、すでに魔物は憑いていませんでした。「すでに紀川さんが祓ってくれていたようですね」と言われました。

 しかしその数日後、家族の飲み会の席上で義妹が泥酔して奥さんに絡んで来ました。「相変わらずの態度じゃないですか」と、聖天様に泣き言を言うと「そんなに簡単には変わらんよ」と聖天様は穏やかにおっしゃったそうです。僕には聖天様の言葉をお聞きするだけの能力はありませんので、霊感のある奥さんがそう教えてくれました。今も義妹とのバトルは続いています。



いいなと思ったら応援しよう!