競艇の仕事をしていた頃

2014年にはほぼ一年間、スカパーの競艇番組の生中継のディレクターをやっていた。

その職場は、
僕(ディレクター)と、
カメラマンとレポーターの、
三人で現場を回すようになっていた。

ディレクターとカメラマンは、
それぞれ一人ずつしかいないのだが、
レポーターは三人いて、
ローテーションで勤務していた。

レポーターは三十代後半のAさんと、
二十代後半のBさんと、
二十代前半のCさんの三人であった。

その二十代前半のCさんと、
カメラマンのオッサンの反りが合わなくて、
基本的には冷戦状態、
そして時々、内戦状態になっていた。

カメラマンのオッサンは五十代後半で、
良くも悪くも頑固ジジイである。
競艇場での仕事が長いので、
自分が一番競艇の事を知っていると自負しており、
僕にもレポーターにも、
威圧的に一人よがりな意見を押し付けてきていた。

僕も、ディレクターという立場上、
カメラマンがディレクターに対して、
威圧的に指図をするというのはどうかと思って、
最初は自分の意見を言ったりもしていたのだが、
見事に「人の話を聞く」ということができない人で、
どんな意見に対しても、まったく根拠のない、
三段論法のようなゴリ押しの理屈で、
強引に自分の主張を通そうとしてくるので、
最後は小学生の口ゲンカのようになってしまい、
「お前の母ちゃんデベソ」と言われて、
ベソをかいたほうが負けという、
最低レベルの泥仕合にしかならないので、
僕は早い段階でそのリングから降りさせてもらって、
「はいはい、おっしゃる通りですね」と、
そのオッサンの言うことをなんでも聞くフリをしていた。

プロのカメラマンとして評価するなら、
まず職場における礼儀がなっていないので0点だが、
素人のカメラ好きのオッサンと考えれば、
撮影などはそこそこできる方なので、
こういう素人のオッサンの相手をしてあげるというのも、
別の形での「仕事の経験」だと思ってやっていた。

しかし、二十代前半のCさんには、
そこまで達観して受け止めることは無理なようで、
彼女は彼女なりの、初々しい一人よがりで、
オッサンと対立してしまっていた。

それはそれで、三人それぞれにとって、
乗り越えなければならない試練なのだろうが、
Cさんとオッサンは基本的には冷戦状態なので、
控室で僕がCさんと二人でいる時はオッサン批判の話になり、
僕がオッサンと二人でいる時にはCさん批判の話になってしまうのだ。

僕は二人の言うことはそれぞれ是もあり非もあると思うので、
オッサンに対しては、
「そうですね、彼女そういうところありますよね」と言うし、
Cさんに対しては
「そうだよね、でもあのオッサン、人の話聞かないからね」
と答えて、適当に話を合わせて調停しているのだが、
これではまるで、鳥と動物が戦争した時の、
コウモリのようではないかと、
いたたまれない気持ちになることが時々ある。

最近レポーターのBさんが辞めてしまったため、
来月から新しいレポーターが入ってくるのだが、
さらにオッサンの下にも見習いのカメラマンが入るらしく、
しかもそのカメラマンは、見習いといっても、
年は五十代前半なのだそうだ。僕より年上だ。

そしてオッサンはすでに
「私は仕事に厳しい人間ですから、
新しい人に滅茶苦茶厳しく言うと思います。
あらかじめお断りしておきます。」
と、僕たちに、更に現場を戦場にすると宣言してきたのだ。
単にそういうのが「好き」な人なんだと思う。

「仕事に厳しい」とか「ストイック」とかいうことと、
「ワアワア文句を言う」ということの
区別がついていないだけのようなのであった。

本当に仕事に厳しくしたいなら、
まず職場における礼儀から勉強し直せと言いたいのだが、
この年齢までこうやって生きてきた人が、
今から考え方を変える可能性は低いと思っていた。

この仕事は約1年続いて、別のディレクターに引き継いでなんとかお役御免となったが、今でもテレビで競艇のCMを見たりすると、あの頃の嫌な思い出が甦る。いつかこの思い出を「それも自分の貴重な経験」と振り返ることができたらいいのだが。

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