猫のいる生活
11年前には僕は福岡市の警固という街に住んでいて、
フリーの映像ディレクターをしていた。
住んでいた街には
野良猫がウロウロしたりしていて、
なんとなく猫が好きだった僕は、
ベランダ(当時マンションの1階に住んでいた)に、
猫が食べるようなエサを置いたりしていた。
そのエサを通りすがりに食べに来る、
チョロという猫とその子供と思われるゴマという子猫、
そしてその父親と思われるオッサンというふてぶてしい猫の
家族とささやかな交流をしていた。
つっかえるチョロ
うちのベランダあたりをウロウロする猫たち、
最近1人立ちしつつある、6カ月くらいのゴマ、
その母猫と思われるチョロ、
そして時々現れる、父猫と思われる、
ふてぶてしいオッサン。
これまではゴマとチョロはいつも一緒だったのだが、
最近はゴマが1人でベランダで遊んでいることが多い。
普段はゴマはおとなしく遊んでいるのだが、
時々「エサくれー」という感じで鳴くことがある。
このマンションには口うるさいババアとかが住んでいるので、
あまり猫の存在が知れるようなことは慎んでもらいたいのだが、
バカなゴマにそんなことはわからない。
ゴマが鳴いてうるさいので、エサを与えると、
ゴマは必ず「お母さん、エサが来ましたよー」という感じで、
近くに隠れているチョロを呼ぶ、
するとどこからかチョロが現れて、
エサを食べに来るのである。
チョロは卑屈な野良猫なので、
人間が見ていたらエサを食べない。
僕と目が合ったりすると、いかにも、
「私はエサなんかに興味はありませんよ」
といったような態度で、
伸びをしたりアクビをしたりしてみせる。
そして僕がブラインドを閉めたら、
ダッと走ってきて、エサを食べるのである。
ゴマが「エサくれー」と鳴く時は、
必ず近くにチョロか、時にはオッサンが隠れていて、
「おい、ゴマ、鳴いてエサもらえ」と
指示しているようなのである。
ゴマは親に言われるままに鳴いてエサをねだり、
親がエサを食べている間は、
クンクンと親の匂いを嗅いだりしながら、
親の周りをウロウロして、
親が食べ終わっていなくなったあと、
親の食べ残しをちょっと食べたりしながら、
おとなしく1人で、ジョウロをひっくり返したり、
サンダルを齧ったりして遊んでいるのである。
そんな極悪非道なチョロであるが、
最近はどうも妊娠しているようである。
一カ月程前、夜中に、オッサンとチョロが、
「ナオーン、ナオーン」とうるさかったのだが、
一カ月前といえば、最も寒かった頃である。
猫ってこんな真冬にサカリがつくんだっけ、と、
ネットで調べてみたのだが、
猫のサカリは雌猫がオーケーならば、
一年中オーケーだと書いてあった。
それから一カ月、猫の妊娠期間は、
二ヶ月くらいらしいから、
チョロのお腹は大きくなりはじめているようだ。
妊娠していていつもよりナーバスになっているのか、
チョロは前以上に姿を見せなくなった。
しかし、ゴマが鳴いて、僕がエサを与え、
チョロがベランダの柵の間から入ってくるのだが、
お腹が大きくなっているせいで、
ベランダの柵にちょっとつっかえているらしく、
チョロが通る時、柵が揺れて、カタカターンと鳴るのである。
ゴマが鳴く、僕がエサを出す、
ゴマがチョロを呼ぶ、
すると柵がカタカターンと鳴る。
すりガラス越しのシルエットで、
チョロがエサを食べて、
ゴマが周りでゴロゴロしているのがわかる。
そしてしばらくして、
またカタカターンと柵が鳴り、
チョロが帰ったのがわかる。
どうもチョロは隣りの部屋のベランダの、
ベランダ用倉庫の下を寝ぐらにしているようで、
ゴマたちもここで産まれているようである。
あと一カ月もすれば、
また、ヨタヨタでフラフラの子猫たちが、
うちのベランダに来るようになるのだろうか?
確かにあと一カ月もすれば、
気温もかなり暖かくなっているだろう。
それともうちのベランダはもうゴマの縄張りで、
新しい子猫たちはどこかに寝ぐらを探すのだろうか。
これは2013年3月6日の日記。
あれからもう11年も経つのか、
僕は8年前に熊本市に引っ越し、
2年前からクウという野良猫を飼いはじめて、
1年後にはミルクという野良猫もそこに参加して、
今では2匹の猫と暮らしている。
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