蚊とゴキブリ

「蚊とゴキブリ (1994年頃の話)」

 霊能師匠に見てもらった僕の前世は修行僧だった。そのせいなのか、僕は子供の頃から殺生することに罪悪感を感じていた。蚊やハエやゴキブリなどでさえ、殺すのがいやだった。
 ある日、部屋に1人でいる時、ふと気がつくと腕に蚊がとまっていた。「ああ、血を吸われてる、でもこの蚊を殺すのはいやだな」と思ったら、無意識のうちに腕に力が入った。すると、筋肉が収縮したことによって、腕に刺さっている蚊の針がしめつけられて固定されたらしく、僕が動いても蚊は逃げることができなくなった。
 僕は蚊を腕にくっつけたまま家の外に出た。そこで腕の力を抜くと、蚊は飛んで逃げて行った。

 同様の事がゴキブリでもあった。ある日、部屋の壁をゴキブリが歩いていた。殺すのはいやだが、部屋の中を歩き回られるのもいやだ。どうしようかと思っていると、透明のプラスチックコップとハガキが目に入った。
 壁面で止まっているゴキブリに近付き、ポンとコップをかぶせ、コップと壁の間にハガキを差し込んでゴキブリを生け捕りにした。そして、そのままそれを持ってベランダへ行き、外にゴキブリを放した。
 叩き殺そうとしてスリッパや丸めた新聞紙を持ってゴキブリに近付くと、かなり遠くからでもゴキブリは察知して逃げるのに、まったく殺意を持たずに近付くと、上からコップをかぶせられてもゴキブリは動かなかった。弱っているゴキブリなのかもしれないとも思ったのだが、ハガキを差し込んで生け捕りにした途端にものすごい勢いで暴れ始めたので、弱っていたわけではないようだった。これらの経験から、蚊やゴキブリは人の殺気を感じ取って逃げているのかもしれないと思った。



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