![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/159828486/rectangle_large_type_2_0ba4f8aa8fcc1cedb27262dd95e85f92.png?width=1200)
ハンカチ落とし
トーク履歴を削除して、ブロック削除した。
写真も全部消した。
その日は少しだけ泣いて眠りについた。
大人になるってすごいね。
ちゃんと次の日のことを考えて、涙もコントロールできるんだから。
わたしはハンカチをよくなくす。それも涙を流す日に限って。
ものがなくなるのは持ち主を悪いことから守って、身代わりになってくれていると言うけど、あの日なくしたハンカチはわたしを何から守ってくれたのかな?
それとも、泣くなってことだったのかな。
そう。悲しむべきではなかった。怒ればよかった。
怒りのエネルギーは生のエネルギーだから、わたしの原動力になったはず。
「コケにしやがって、それでいいの?ぶん殴ってやればよかったのに」
事の顛末を伝えた時の友達の言葉だ。
そう。確かに正しく怒ればよかったのだ。
最低だ!ろくでなし!二度と顔見せるな!死んでしまえ!
そう思えたらよかった。
けれど、恐ろしいほどの悲しみしか感じなかった。
胸の奥に穴が空いているのに、そこにとめどなく重い液体が流れていく。
ふとした瞬間消えてなくなるのに、気づくとまた穴に液体は溜まっていく。
どれくらい耐えたらこの苦しみから解放される?
いつまで永遠に終わらない、過去と未来のたらればを繰り返せばいい?
どうして隠し通してくれなかったのか。
わざわざ指輪を外してきたくせに。
知らなければ楽しいままでいられたのに。
悲しい。悲しい。戻ってきて。
来てくれないならせめてわたしのことを死ぬまで忘れないで。
きみを世界でいちばん幸せにできたのはわたしだったよ。
あぁ、選ばれないとはこんなに惨めなことだったなんて。
声をあげてしゃくり上げ、嗚咽をあげながら泣いたのは自宅に戻ってからだった。
涙を拭うハンカチは無数にあっても、涙を止められるきみがいなければ、涙もわたしの世界も枯れ果てるまで、空虚な穴は広がるばかり。
きみが拾ったハンカチはわたしのじゃなかったんだね。
*5日目