
「(性)という共通言語」
坂爪真吾著『パンツを脱いじゃう子どもたち』読了。療育の専門家として自閉症スペクトラム障害の子どもたちを見てきた著者が見落とされがちな「性のリアル」に切り込んだ1冊。
自閉症スペクトラム障害など、発達に問題を抱えた子どもたちにとって、「性」は切実な問題だ。善悪の判断がつかず、無邪気であるがゆえに時と場所を選ばず、脱衣やマスターベーションなどの「性的逸脱行動」を繰り返してしまう。
自分だけで満足するならまだしも、職員や利用者を巻き込んだ「重大事故」へとつながるケースも多い。
問題行動は障害特性という側面もあるが、それ以上に周囲の対応による影響も大きいと、坂爪氏は指摘する。
学校やデイサービスで子どもが性的逸脱行動を起こした場合、職員としては「下手に抑制して余計に暴れられても困る」との思いから注意しにくい。一方、家庭では「性=タブー」という意識があり、「できることなら外で指導してほしい」と思っている。
その結果、放置された問題行動はさらにエスカレートし、路上での露出や痴漢、利用者同士の妊娠など、さらに深刻な問題へと発展してしまう……。
本書では「子どもの性」を取り巻く問題点をまとめつつ、現場での取り組みをケーススタディとして紹介する。
「性」についてはどの現場も、試行錯誤の連続だ。
専門の職員を配置し適切に指導を行っている現場もあるが、一方で、数人の男性職員によって力ずくで抑え込むしかない現場も少なくはない。
「見て見ぬふり」を余儀なくされるデイサービスがあることは知っていたが、空間を区切り、時間を決めて射精させている現場があるというのは驚きだった。
(性)は本来、年代や性別を問わず共通言語であるはずだ。だからこそ、性を語るうえでは得体の知れない気恥ずかしさと後ろめたさがつきまとい、ないがしろにされてしまう。
私の暮らすシェアハウスも他人事ではない。この先、本書で取り上げられているような問題が表面化することもあるだろう。
あるいは、もうすでに問題が起きているのかもしれない。
坂爪氏は重度障害者にむけてマスターベーションの介助を行う法人「ホワイトハンズ」の代表を務めており、ある意味で「性のパイオニア」である。
私自身、「ホワイトハンズ」の理念については若干の異論もあるが、リアルな現場を知る坂爪氏が今後、どのような視点で発信を続けていくのか。
当事者の1人として、これからも注視していきたい。