ごりまる母さんメラピークへ⑨(全10話)
メラピークハイキャンプ (5900m) へ向かって
出発前、これから必要となる装備を再度確認。
高所用登山靴
クランポン
アイスアックス
ハーネス
カラビナ
ヘルメット
ビレイディバイス
予備の手袋・電池など
たくさんの人から「グッドラック!」と声をかけていただきながら、いよいよ出発です。
見上げる空は深く青く、晴天。
昨晩からの緊張や不安は消え去り、この日を迎えられた感謝と、ただただ山頂に向かって歩いて行けるということが本当に嬉しく、不思議なことにそれ以外の感情はわいてきませんでした。
心にあるのは ’山の中を歩く喜びと楽しさ’ だけでした。
ベースキャンプを通り過ぎ、しばらくするとクランポンポイントが。
ここからは雪山となるので、今まで履いていたトレッキングブーツから二重構造の高所用登山靴に履き替え、ハーネスやクランポンを装着します。
6時間後、やっとこさハイキャンプへ到着
カーレのロッジを出発してから6時間。
私たちは無事にハイキャンプへ到着しました。
ハイキャンプまでの道のりは想像以上に距離があり、かなり疲れてしまったのが正直なところです。
今回の登山は私にとって初めての6000m峰、ハイキャンプでの滞在も初めての経験でした。
ハイキャンプに着くと、そこはまるでちょっとした村のようなコミュニティ広場のようで各国からの登山隊で賑わい、いろんな言語が飛び交う活気溢れる場所でした。
ホッカイロの出番です!
午後2時。
ロブが「やっぱり寒さが違うなぁ!」と言いながら彼の温度計を見ると−8℃となっています。
「見んかったら良かった…温度がわかった瞬間、寒さが増した。まだ知らんほうがマシやったような気がする…」と独り言を言いながら自分のテントに戻り、大切に使わずに持っていたホッカイロを腰と背中そしてお腹に貼りました。
明朝3時出発のため明るいうちに荷物の再確認をすませると、さほどする事もなく、かと言って外にでると体が冷えきってしまうので、寝袋に入り上体を起こして何を考えるでもなく、手のひらを広げて手相を見たり、ジッと座ったまま時間が過ぎていくのを待ちました。
太陽が沈むと一気に気温が下がり、真っ暗闇に。
チェワンがテントまで夕食とお茶を持ってきてくれたのですが、あれだけ食べること大好き、食いしん坊の私がお茶以外の食べ物が喉を通りません。
これが最初の兆候でした。
死ぬかもしれん。。。テントではじめて経験する不安と恐怖
だんだんと頭痛もでてきました。
とりあえず、少しでも寝ておかなくてはと横になります。
寝てはいるのだろうけれど自分が目覚めているのがわかる浅い眠りを繰り返し、腕時計を見ると20時。
まだ時間あるなぁ...まんじりともせずに時を過ごします。
しばらくすると、なんとか我慢できるぐらいだった頭痛がまるで誰かに頭をハンマーで叩かれているような痛さに変わってきました。
なんとも経験したことがないほどの痛さです。
あまりの痛さに怖くなり、ヘッドランプをつけ、人生でほとんど飲んだことのない頭痛薬を1錠飲み、横になります。
そして10分ほど横になっていると、今度は息苦しくなってきました。
落ち着いて、息を大きく深く吸おうとすればするほど、酸素が吸い込めず、肺まで届かない。
とにかく息を吸わないと...
そう思えば思うほどパニック状態に陥り、上体をおこして長座の姿勢をとり、「落ち着いて、落ち着いて」と何度も自分に言い聞かせ、浅くてもいいからとにかくゆっくりと呼吸をすることに集中しました。
ハンマーで叩かれているような頭痛。
呼吸がまともにできない不安と恐怖。
この時点で、登頂は無理だろうと確信するほどの状態でした。
私はここで皆を見送って、3人が帰って来るまでテントで留守番をしようと決めました。
その時の私は登頂どころかテントから出ることもできないほどの状態でした。
今、こうしてあの夜のことを書いてるだけでも息苦しくなってきます。
深夜1時、息苦しさが少しマシにはなったものの、まだ頭はクラクラするような痛みです。
外からヘッドランプの灯りが私のテントを照らし、足音が近づいてきました。
テントの入り口で「大丈夫?」とパサンの声が。
テント入口のジップを開け、「ぜんぜん大丈夫でないです」と私。
テント内で起こったこと、そして私の今の状態を告げました。
「今、あったかいお茶を持ってくるから。」
とカップいっぱいのあったかい紅茶を持ってきてくれ、「ダイアモックスを1錠。それにイブプロフェンを1錠飲んで」と言います。
よっぽどその時の私の顔が不安気で情けない表情だったのでしょう、彼はぎゅっと私の手を握って「大丈夫」と力強く言いました。
いよいよ残りあと少しになってきた『ごりまる母さん、メラピークへ』を綴っていきたいと思います。
もしよろしかったら、登頂編もお付き合いください。
ここまで読んでくださり、本当にありがとうございました。