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なぜ木の葉化石の研究をはじめたのか?

 今回は私がなぜ一見地味な植物の葉化石の研究をはじめたのかについて述べたいと思います.


 私は小学校就学前に父に買い与えてもらった学研の図鑑「おおむかしの動物」を見て,古生物,特に恐竜に関心を持つようになりました.30年以上も前の図鑑ですので,今見返すと突っ込みどころが満載ではあるのですが,特に白亜紀の恐竜トリケラトプスのカッコよさにすっかりハマってしまいました.同じような経験は多くの人,特に男性には多いのではないかと思います(私の娘のように女の子でも関心を示す女性もいるのは間違いないですが).
当時の私のように,多くの人は幼少のころに恐竜がかっこいいと思う,恐竜博士になりたいと思うようになるという「恐竜病」にかかります.しかし大多数の人は年齢とともに「恐竜病」の症状はなくなり,大人になっていきます.

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 ごく一部の人だけがその「恐竜病」の症状の改善が見られないまま成長していきます.私は「恐竜病」の症状の改善が見られないタイプの人間でした.中学生や高校生になっても将来は恐竜化石の研究をする古生物学者になる,大学で恐竜化石の研究をする,と言い張り,周りの同級生に白い目で見られていました.中学生の時にはいじめやからかいの対象にもなってしまうほどでした.それでもやはり恐竜の研究をしたいと思い,必死に勉強し,大学は念願の理学部地球科学科に入学することができました.2022年現在は北海道大学をはじめ,国内で恐竜や脊椎動物の化石の研究ができる大学はいくつかありますが,私が大学生だった時には原則海外留学しなければ恐竜の化石の研究はできないと言われていました.それを知った当時の自分は愕然としました(今ならインターネットですぐに検索できますけどね…).今思えば,海外留学するために必死に努力して初志貫徹する選択肢もあったのですが,当時の自分にはそのような気力がなく,気分も落ち込んだままでした.そんな自分の前に現れたのが自分の恩師たちでした.


「恐竜の化石の研究がしたいです」と騒ぐ小僧に対し,恩師は「恐竜の食べ物としての植物の化石の研究をしてみるのはどうか」とおっしゃってくださいました.それなら恐竜との接点があるのでやってみるか,と考えました.それが大学1年生の夏ころだったと記憶しています.その後,その先生の講義やお隣の生物学科の講座だった「古植物学」などを学ぶ中で,「植物の化石の研究も面白そうじゃないか」と思うようになりました.


 植物はあまり注意してみていないとどれも似たような姿で,違いがわからないと思われがちですが,基本的な形態が似ているように見えるからこそ植物の分類群間の意外な類縁関係がわかったりする面白みがありました.また,植物の化石とその産出状況,そして地層の情報を組み合わせて当時の地層ができた場所の詳細な環境がわかったり,地質時代の植生や自然景観が推定できたりするという点においては,恐竜化石のような動物化石では決して引き出せないことまでわかります.特に木の葉化石の形を集計し,ちょっとした数学的手法を用いれば地質時代の陸上の年平均気温や年間降水量,相対湿度なども具体的な値として推定することさえできます.初めてこの事実を知った時には本当に驚きました.恐竜と違い,木の葉化石は比較的産出量が多く,その割には研究者が少なく,研究のし甲斐もあるという事実も後押しとなり,植物化石,特に木の葉化石の研究を極めようと思うようになりました.こうして大学の卒業研究のテーマは,北海道の白亜紀のスズカケノキ科の葉化石と古環境復元となりました.詳細は以前投稿した記事をご覧ください.


 教育普及活動にも関心があったため,大学生のころに教員免許も取得し,大学院では高校の時間講師を担いながら大学院修士課程2年分の学費を稼ぎ,仕事の後に研究に勤しみました.修士課程を修了したのちには高校教諭となりましたが,やはり木の葉化石の魅力に取りつかれたままで,仕事の合間をぬって研究し,昨年ようやく博士論文が認められて博士となった次第です.
 ここに至るまでのきっかけや周りの方々のサポートには本当に感謝です.今後も研究を続けつつ,より多くの幅広い世代の方々に木の葉化石の魅力を伝え続けたいと思います!

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